発生から5年、ヤジ排除を振り返る| 一審原告らが「声を上げる自由」呼びかけ

北海道・札幌で選挙演説中の安倍晋三元総理大臣にヤジを飛ばした人たちが警察官に拘束された「ヤジ排除事件」から丸5年が過ぎるのを機に、警察を相手どる国家賠償請求裁判を争っている当事者らが札幌市内でトークイベントを開き、関心を寄せる市民ら約60人が足を運んだ。先立つ5月に出版されたブックレットの発売記念も兼ねた試みで、会場では改めて「声を上げる自由」について活発な議論が交わされた。

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イベント『道警ヤジ排除事件からの5年を振り返る』は、ブックレット『ヤジと公安警察』を企画した地元の出版社・寿郎社と、排除被害者らの集まり・ヤジポイの会が主催し、7月13日午後に札幌市中央区の紀伊國屋書店札幌本店で開かれた。登壇した国賠一審原告の1人・桃井希生さん(28)は、2019年の排除事件から現在までの5年間を「あっという間だった」と振り返った。

「排除事件自体は恐いことだけど、その後の活動はそんなに辛いこともなく丸5年を迎えた感じです。改めて、市民運動には警察の監視がセットになっていると実感しますが、声を上げることが普通のことになればいいなと思います」

同じく一審原告の大杉雅栄さん(36)も「時期がちょうどコロナ禍と重なったせいか、この数年間はあっという間だった」と話し、報道やSNSなどで散見される「つばさの党」の選挙妨害事件と札幌のヤジを同一視する言説について、次のように苦言を呈した。

「そもそもヤジ裁判では選挙妨害を争っているわけではなく、警察が畏縮するような裁判ではありません。『警察は法を守りましょう』という当たり前のことが確認された裁判なんです」

これを受けた桃井さんは、つばさの党への共感はまったくないと表明しつつ、政権与党などに較べて必ずしも選挙を有利に戦うことができない同党などが敢えて奇矯な行動に走ることにも一定の理解を示した。その上で暴力的な行為や法令違反については批判し、一連の選挙妨害と組織的でない肉声のヤジとは本質的に異なるとした。

討論では警察不祥事の1つとして鹿児島県警察の一連の不正隠蔽疑惑も話題に上り、イベントを取材していた筆者が急遽、請われて登壇する一幕があった。本サイト編集部に県警の家宅捜索が入った経緯を解説した際には、ヤジポイ弁護団の竹信航介弁護士(札幌弁護士会)が「多くの情報が集まる報道機関に家宅捜索が行なわれたことは問題」と今回の県警の捜査を批判し、「ハンターにはぜひとも国家賠償請求裁判を闘って欲しい」とエールを贈った。

ヤジ排除事件は2019年7月15日にJR札幌駅前などで発生。大杉さんらが北海道警察を訴えた裁判は同12月に提起され、昨年6月の札幌高等裁判所(大竹優子裁判長)判決では警察の桃井さんへの排除行為の違法性が認められた一方、大杉さんへの排除行為については適法だったとする判断が示された。現在、当事者双方が最高裁に上告中で、最終的な結論は6年目以降に持ち越されることが確実となっている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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