全国各地でクマの食害や人身被害が相継ぐ中、とりわけ深刻な事案が頻発している北海道で現場の見回りを続けるハンターが、8月上旬に箱罠で捕獲したヒグマの映像を本サイトを含む一部の報道機関に公開した(*下は動画の1場面)。ヒグマ被害への対応をめぐっては問題個体を捕獲・駆除する自治体へ抗議の電話などが殺到する事態も起きており、今回の動画を撮影したハンターは「われわれは撃ちたくて撃っているわけではない。抗議する人たちはぜひ本物のヒグマを見に来て欲しい」と話している。
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映像を公開したのは、本サイトでたびたび報告している猟銃所持許可裁判の原告で、北海道猟友会の砂川支部長を務める池上治男さん(76)。既報の通り、自治体の要請でヒグマを駆除した池上さんは地元公安委員会にライフル銃などの所持許可を取り消され、その処分の撤回を求める裁判を闘っている。争いは最高裁へ持ち込まれ、現時点で判決確定に到っていないため、当事者の池上さんは今も猟銃を差し押さえられたまま。そうした事情にかかわらず地元の砂川市ではヒグマの目撃情報が絶えず、猟友会支部長の池上さんはプロファイリングを兼ねて丸腰で現場へ赴き続けている。
今回の映像が撮影されたのは8月1日。現場は砂川市郊外の一の沢地区で、7月中旬から下旬にかけて複数回の目撃情報や足跡発見の情報が寄せられていた。付近の無人カメラに問題個体とみられるヒグマの姿が写り込んだため箱罠の設置に到ったが、映像に収録されている池上さん自身の解説によると、捕獲されたクマはそのクマとは別の個体である可能性が高いという。とはいえ今回の罠にかかったクマも体長2m25cmの巨漢で、人が至近距離で出会ったとしたら重大な被害を免がれないのは確実。おりしも砂川市では7月上旬から1カ月間をめどに発出したヒグマ注意報をさらに1カ月延長せざるを得なくなったところで、池上さんは現地の深刻な実態を広く知ってもらうため地元報道などに動画の使用を認めることにしたという。
*音声が入っています。音量にご注意ください。
「私が見た中で最も大きかったのが2m75cm、275kgでしたが、今回のクマも相当に大きい。山にはもっと大きいのがいるでしょう。『殺すのは可哀想』『山に戻すべき』と主張する人たちは、ぜひここにいるヒグマの頭を撫でに来てもらいたい」
地元報道などが伝えている通り、今まさに北海道内各地で農作物の被害や死亡事故を含む人身被害が相継いでおり、発生のたびに地域の猟友会メンバーらが現場対応を余儀なくされている。9月1日からは住宅街での発砲を伴う「緊急銃猟」が認められることになっているが、ライフル所持者を含む約5,800人が参加する北海道猟友会では目下、全道71支部へ駆除への慎重な対応を促す通知を検討中。同会の堀江篤会長によると、緊急銃猟をめぐっては現時点でなお現場のハンターの責任の範囲が明確になっておらず、先の池上さんのケースのように発砲後に刑事責任を問われて所持許可を失うことになるおそれが否定できない状況だという。
「緊急銃猟で万が一何か事故が起きた場合ハンターの責任はどうなるのか、そこがまったく明文化されていない以上、不安は払拭できません。猟を趣味とする団体がボランティアで駆除を引き受け、その上で国民の生命・財産を守る責任まで負わされるんですか、ということです。国民を守るのは行政なり警察の仕事。その役所が全責任を負ってくださるのであれば安心して引き金を引くことができますが、そうでないならば発砲拒否もあり得ますよと。駆除に協力したいのはやまやまですが、現場のハンターには“断る勇気”も必要になってくると思います」
道猟友会では現在、ハンターの免責について国の見解をあきらかにするよう当局に求めており、国からの回答によっては発砲拒否の督励を含む支部通知を検討することになりそうだ。
(小笠原淳)
| 【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |















