徳島市(内藤佐和子市長)が、新設を計画していた民間保育施設への補助事業の見直しに伴い、国から受ける予定となっていた保育所等整備交付金の内示を取り下げるよう、正式に依頼したことが同市への取材でわかった。
市が国に内示の取り下げ依頼書を提出したのは、9月議会の閉会日だった先月28日。すでに着工していた1施設を除く7施設に対する合計10億5,562万円の補助が取り消されることに――。前任市長時代の今年3月に市議会で承認され、予算執行直前だった今年度の子育て支援事業が、事実上消滅する。
■異例の交付金内示取り下げ依頼
国や県からの手厚い補助を受け、市の実質負担2億円で実現するはずだった総事業費16億円の子育て支援事業が、新人市長の独断で消えた。
市の関係者によると、待機児童解消のために同様の補助金を活用して事業を進めている自治体は全国に245。そのうち、徳島市だけが事業の中止を国に申し出たのだという。市は9月28日、国に対し、交付金の内示を取り下げるよう求める依頼書を提出している。
内藤市長が徳島市議会9月定例会で示したのは、保育所を増やすのではなく既存施設の再編や保育士の増員などで機能強化を図るという手法。ソフト面の充実で待機児童が解消されるのかどうかは、来年春の“成果”を待つしかない。
正式な交付金内示取り下げで、徳島市の子育て支援計画が新たな局面に向かうのは確実。しかし、議会最終日に一部の市議らが提出した「意見書」が、混乱に拍車をかける状況となっている。
■市長派市議らが出した「意見書」、驚きの内容
9月議会の最終日、内藤市長を支持する17名の議員らが、国への意見書を提出した。タイトルは「保育士の確保及び施設整備に対する財政支援の継続を求める意見書」。驚いたことに、彼らが支える市長が断ったはずの、国庫負担率3分の2という「保育所等整備交付金」の制度を、来年度以降も継続するよう求める内容が含まれていた。
「今後も市立施設の受け皿となる民間施設整備が必要であることから、今年度までとなっている保育所等整備交付金における国負担割合の2分の1から3分の2へと引き上げる制度を、来年度以降も継続すること」――。随分、虫のいい話である。
計画されていた今年度の保育施設整備に多くの事業者が手を挙げたのは、通常2分の1だった国の補助割合が、今年度は3分の2まで引き上げられていたからだ。そうしてまとまった子育て支援事業を市長と市長派議員らで潰しておきながら、“また必要になるかもしれないから制度を残せ”というのだから、呆れるしかない。
議会を傍聴していたという市内在住の女性(40代)は、こう憤る。
「一市民としては、継続して国が手厚く支援してくれるのはありがたい。でも、今年事業を潰しておいて、来年も同じ条件でお願いするというのは虫が良すぎる。しかも、事業見直しに賛同した17議員からこんな要望が出るなんて、市民を馬鹿にしているとしか思えない」
歪む市政に顔をしかめる市民をよそに、問題の意見書を国に提出する決議は、賛成17名、反対11名で可決された。
(東城洋平)