自民党総裁選がスタートした。立候補したのは、届け出順に高市早苗経済安保相、小林鷹之前経済安全保障担当相、林芳正官房長官、小泉進次郎元環境相、上川陽子外相、加藤勝信元官房長官、河野太郎デジタル相、石破茂元幹事長、茂木敏充幹事長の合計9人。全員が判で押したように「自民党改革」「政治とカネ」を口にしているが、裏金議員や旧統一教会との関係が深い議員が推薦人として名前を連ねている。そのせいか、マスコミが大騒ぎしているわりに、盛り上がりを欠く状況となっている。
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裏金議員が推薦人となっているのは、高市陣営が最多の13人、小泉陣営と上川陣営は各1人、加藤陣営は4人、茂木陣営は2人で、他の候補者は推薦人に裏金議員を入れていない。
際立つのは、高市陣営の13人だ。「推薦人は20人。半分以上が裏金議員とは言葉もない」と話すのは、石破氏を支持する議員。高市氏の推薦人になった三ツ林裕己衆議院議員は、2,954万円もの裏金で1年間の党役職停止。裏金1,564万円の杉田水脈議員は、人権問題で度々追及されてきた問題児だ。13人の裏金合計は9,015万円に上る。
4人の裏金議員がいるのは加藤陣営で合計額は1,570万円。茂木陣営2人の裏金合計は2,064万円となっている。
「各陣営とも出馬会見の段階で裏金のことをかなり突っ込まれた。できる限り裏金議員を入れないようにしていたが、推薦人集めに苦労した高市さんは(裏金議員を)入れるしかなかった。小林さんの場合、推薦人に裏金議員はいないものの、出馬会見には裏金議員が7人、旧統一教会との関係があった議員は13人も出席していたことが分かっている。
その小林氏は会見で、「(裏金事件の)再調査という話もありますが、本件については実態が正直よく分からない」、「(捜査は)権限を持っている検察当局が調べ、今回は不起訴という処分になっている。検察のような権限を持たない自由民主党が調査をするのは限界がある」、「(安倍派の裏金議員の処分で)要職など外れた方もいますが、国民の皆様の一定の理解が得られたら、適材適所の人事を行うべき」などとと述べ、国民を唖然とさせた(既報)。
小林氏が初入閣した際に「閣僚に」と売り込んだことで知られる甘利明元幹事長。麻生派ながら早々に小林氏の応援に立っている。同氏は、2018年に「UR疑惑」で建設会社側から100万円の現金を受領していたことが露見し、経済再生担当相の辞職に追い込まれた“ブラック”な人物。小林陣営のある議員が、困惑気味にこう話す。
「出馬会見は失敗だった。裏金や旧統一教会との関係に、ここまで厳しい目が注がれているとは……。議員票はかなりとれるが、党員からの支持が足りない。甘利さんは、小林推しであちこちに宣伝してくれているのだが、ご指摘のようにブラックな一面があり逆効果。なんとか払拭したいが……」
スタートダッシュに成功したかのように見えた小林氏だったが、、裏金議員や旧統一教会との関係がボディーブローのように効きはじめており、伸びを欠いている。
また、上川陣営の推薦人になった盛山正仁文科相は、2021年の衆院選で旧統一教会の友好団体と「政策協定」にあたる推薦確認書に署名していて大問題になった人物。「大本命」と目される小泉氏陣営にも、裏金76万円の山田美樹衆議院議員と盛山氏同様に旧統一教会への推薦確認書にサインしていた大串正樹衆議院議員がいる。
小泉氏の背後にはグレーな大物も顔をのぞかせる。菅義偉元首相は街頭に立って小泉氏支援を表明。萩生田光一元政調会長も小泉氏支援だ。
「裏金議員で応援してくれている人はかなりいます。裏金議員でも1票ありますから。記者会見でも、わざわざ旧統一教会に詳しいジャーナリストから質問してもらい、関係がないと断言した。萩生田氏などの支援もあり、応援団も少しは増えた。ただ、彼らは裏金のイメージが強すぎるので、絶対に表に出ることはない」(小泉陣営の議員)
だが、萩生田氏は党から処分を受けている身。つまり「執行猶予中」だ。動画サイトに出演し、対談相手に「萩生田先生には(裏金の)使途不明はない。領収書とメモとか全部あって、ほぼ全部説明できる」とヨイショさせクリーンなイメージを演出させているが、政治資金処理の実態をみれば、怪しいというしかない。
例えば2022年の萩生田氏の政党支部「自由民主党東京都第24選挙区支部」の政治資金収支報告書は、訂正が半年ほどで5回。裏金事件を受け、新たに追記した支出や海外での会食費がやたら目立つ。一方で、萩生田氏は「お金(裏金)を個人口座に移しちゃって、何に使ったかわからなくて、場所も日にちも特定できなくて、使途不明で選管に出している人が複数いるのも事実なんです」などと訳知り顔で話しているのだから呆れるしかない。
萩生田氏の言い分が事実だと個人所得になるため課税対象だが、自民党の大臣経験者は「裏金議員が税金を払ったなんて聞いたことない。絶対にしないはず。1人が払えば全員が払え、と拡散しますから」と嘆く。
党の処分が出たからといって、裏金問題が終わったわけではないのだ。
総裁選で表紙だけ変えて裏金問題は過去のものとする――そんな自民党の魂胆が透けて見える。