「化けの皮がはがれてきた。こうなると思っていたよ」と自民党の大臣経験者が複雑な表情で話す。9月27日に当選者が決まる自民党の総裁選。9人の候補者のうち「最も総裁の椅子に近い」とされてきたのが小泉進次郎元環境相だ。出馬会見には、入り切れないほどの報道関係者が詰めかけ、銀座の街頭演説では数千人の聴衆が押し寄せた。早々と小泉氏に「当確」を打つメディアや「組閣名簿」まで占う報道まであったが……。
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9月14日、15日の両日に行われた世論調査で、驚くような数字が出た。石破茂元幹事長とトップを争っていた小泉氏が伸び悩み、自民党の党員に絞った読売新聞の調査では石破氏が22%、高市氏が10%と急上昇したのに対して、小泉氏は1%にとどまる。
日経新聞が、自民党の支持層に限定した調査では石破氏が11%、高市氏が7%アップしたのに対して、小泉氏は11%ダウンという数字なのだ。
先陣を切って出馬表明し、勢いのよかった小林鷹之前経済安保相も4%ダウン。前出の大臣経験者はこう話す。
「自民党の党員も高齢化、世襲化が進んでいる。一般的な世論としては小泉氏と小林氏という若い世代を期待する。その一方で、党員は石破氏や高市氏という経験豊富なリーダーを求める傾向にあると感じる。小泉氏は一気に突っ走ったので、1回目の投票で圧勝させるとまずいという危機感から、討論会でも集中砲火を浴び、中身がないことがばれてしまった」
小泉氏が総裁選公約の「目玉」としたのが、解雇規制の見直し。「日本経済再生のためにダイナミズムな労働市場改革。解雇規制を見直して、人員整理が認められない環境に着手」と出馬表明で訴えた。企業側の「人員整理」には必要性、解雇回避の努力などの4つの要件が課せられているのだが、小泉氏は「学び直し」「再就職支援」を充実させることで4つの要件を見直すという。
しかし、企業側が優位な立場で社員やパート労働者などを自由に首切りできる、というイメージがふくらんでしまったため、厳しい批判に晒されることになった。
総裁選が告示されて数日、「解雇規制の促進で、解雇が促進されるわけではない」、「解雇をしやすくするのではない」などと必死で火消しを図る小泉氏。しかし、SNSでは小泉氏が総裁選で勝った場合を想定して、《いつ首切りなんだろうか》、《高い税金をとられて、会社からいらないと一方的に解雇か》、《病気などで休むと、首になるようだ、小泉新総理》といった投稿が多くみられ、「解雇規制」「解雇自由化」などがトレンドにあがった。
出馬会見で“知的レベルの低さで恥をかくのではないかと皆さん心配しています”と無礼な質問をされ、「(私は)完璧ではない。補ってくれるチームがある」と無難に切り返した小泉氏。だが、その心懸念が現実なったのが、9月14日に行われた日本記者クラブ主催の候補者討論会だった。
「アメリカのイメージが強いが、中国の訪問のご経験は」と聞かれた小泉氏。開口一番「台湾は多くありますね。自民党青年局で台湾との窓口を多くやっていた」とやった。
日本は中国と国交を有し、同国の「台湾は自国」との主張を追認している立場だ。一方で、台湾は中国と対峙しており、日本は「台湾有事」が危惧される中、両国と一定の距離感を保ちつつ、独自の外交を展開している。小泉氏の発言は、あまりにノー天気。外交センスが欠如している。
「やっぱり原稿がないとダメなのかな。お父さんのような独特の勘というかセンスはないのかな」とため息をつくのは小泉氏の推薦人になった議員だ。小泉氏の父、小泉純一郎元首相は、「自民党をぶっ潰す」、「米百俵の精神」といったワンフレーズポリティクスで人気を博し、政局を引っ張った。年金改革法案で自身に疑惑が向けられた際には「人生いろいろ、会社もいろいろ」とけむに巻き乗り切った。
会見での進次郎氏は、視線を下にむけたまま、原稿を読みながら話した。こうした点について小泉陣営の前出議員は、次のようにぼやく。
「戦略として、安全運転でやれば人気が高いので勝てるとみていた。だから、出馬会見でもひたすら原稿通りに喋った。小泉さんは、まわりがお膳立てをしてくれたら演じられる。ただ、お父さんのように危機に立たされて独力で乗り切るほどの経験と知識がない。党員、党友は、国民の中でも政治に関心が強い方々。討論会の失敗が重なれば党員票が離れ、石破さんや高市さんに流れていくでしょう。党員票で圧勝し、1回目で決着というシナリオは完全に消えたと言ってもいい。とにかく失言をせず、人気をこれ以上落とさずにやれば勝てると信じたい」
自民党の古参議員は、「党員や自民党支持層への世論調査では、石破、高市、小泉が3強だ。これからまだまだ総裁選は動くが、一番の逆風が吹いているのが小泉。跳ね返すことができるのか心配だ」と話している。