#国葬反対

 在位70年のエリザベス女王が96歳で亡くなられ、19日、イギリスの首都ロンドンで「国葬」が行われた。これに先立つ一般弔問で女王にお別れを告げようと並んだイギリス国民の列は数十キロ。何時間もかけ整然と歩む同国民の姿は、女王に対する敬愛の念の深さを表すものだった。女王の国葬に、天皇皇后両陛下をはじめとする世界各国の元首や首脳が集まったのは周知のとおり。国内外の賛同があってこその「国葬」なのである。

 翻って、我が国で行われる予定となっている安倍晋三元首相の「国葬」はどうか。

■「民主主義を守り抜く」の笑止千万

 岸田文雄首相が8月31日の記者会見で述べた「国葬」の理由は、次の四つだった。

①民主主義の根幹たる国政選挙を6回にわたり勝ち抜き、国民の信任を得て、憲政史上最長の8年8か月にわたり重責を務められた。
②東日本大震災からの復興や、日本経済の再生、日米関係を基軸とした戦略的な外交を主導し、平和秩序に貢献するなど、様々な分野で歴史に残る業績を残された。
③諸外国における議会の追悼決議や服喪の決定、公共施設のライトアップを始め、各国で様々な形で国全体を巻き込んでの敬意と弔意が示されている。
④民主主義の根幹である選挙活動中の非業の死であり、こうした暴力には屈しないという国としての毅然(きぜん)たる姿勢を示すこと。

 首相は、今月8日に開かれた国会の閉会中審査でも、ほぼ同じような説明を行い、を補完するため答弁の中で加えたのは「国として民主主義を守り抜くという決意を示す必要がある」という文言だった。

 四つの理由に納得する国民が少ないことは、17日から18日にかけて実施された日経・テレ東、毎日新聞、共同通信といった報道各社の世論調査で、「国葬反対」が6割を超えていることが証明済みだ。

 国葬をやることで「民主主義を守り抜く」というが、笑止千万。過半数の“民意”を尊重することが民主主義の大原則である以上、6割を超える国民の声を無視して国葬を強行することは、「民主義の否定」に他なるまい。

 国民の半数以上が反対した特定秘密保護法や安保法制の制定、さらには集団的自衛権の行使容認といった極右よりの政策を、強行採決や閣議決定という手法で決めてきたのは安倍元首相だ。米軍普天間飛行場(宜野湾市)を名護市辺野古に移設することの是非が問われた県民投票や知事選で、明確に「移設反対」の意思を示してきた沖縄の民意を黙殺してきたのも安倍氏だった。いわば“民主主義の破壊者”だった安倍晋三という政治家の国葬が、「民主主義を守り抜く」ことになるはずがない。

 そんな安倍氏が長期政権を実現できたのは、野党の体たらくに助けられたというだけのこと。政局の節目ごとの世論調査で、「他に適任者がいない」という消極的な支持理由が圧倒的だったことを忘れてはなるまい。

 岸田首相が銃撃事件直後に「国葬」を決めたのは、この8年間、安倍氏を神輿にして我が物顔に振舞ってきた国内右派に対するご機嫌取りであって、四つの理由はこじつけに過ぎない。

■元首相が国葬に値しない理由

 安倍氏の国葬に反対する理由は、いくつもある。

【その1】亡くなられたエリザベス女王のケースと比較することは、イギリス国民や女王に対する侮辱だと叱られそうだが、「国葬」の意義を考える上では避けて通れない話となっている。

 銃撃による射殺というショッキングな出来事が同情や悲しみを誘ったのは確かで、事件直後、亡くなった安倍氏に別れを告げるため設置された献花台や記帳所を多くの人が訪れた。しかし、統一教会と安倍氏の親密な関係が明らかになってからは様相一変。安倍氏の国葬に反対する声は増え続けている。前述した世論調査の結果からみても、国民が「国葬には値しない」と思っていることは紛れもない事実だろう。

 一方、エリザベス女王の国葬に反対するイギリス国民は皆無。女王は、イギリスだけでなく世界中から愛される存在だったからだ。この違いは、如何ともし難い。

【その2】安倍元首相の妻である昭恵夫人が深く関わった学校法人森友学園に対する国有地払い下げ問題を巡っては、財務省職員の尊い命が失われ、公文書の偽造や隠蔽という犯罪行為が明らかになった。しかし、関係者は誰一人重い罰を受けておらず、真相はいまだに藪の中だ。下の写真は、2014年3月に昭恵夫人本人がフェイスブックに投稿したもの。夫人と一緒に写っているのは、森友学園の籠池泰典元理事長とその妻・諄子氏である。

 安倍晋三元首相と“腹心の友”の関係が国政を歪めたとされる加計学園疑惑では、同学園の獣医学部新設に国家戦略特区を悪用した便宜供与の疑いが残ったままだ。この疑惑に関与したのは安倍氏本人と学園トップの加計孝太郎理事長、そして安倍側近として知られ統一教会との関係で虚偽説明を繰り返している萩生田光一自民党政調会長だった。

 下は萩生田氏が自身のブログに添付した写真。左端が安倍元首相、右端でビールを片手にポーズしているのが萩生田氏、真ん中に立つ人物が、元首相の“腹心の友”加計学園の加計氏である。場所は首相の別荘。萩生田氏が自慢げに公開した写真が、3人の親密な関係を物語っている。

【その3】安倍政権下の「桜を見る会」は、規範意識の欠如がもたらした“汚れた政治”の象徴だった。政府は《各界において功績、功労のあった方々を招き日頃の労苦を慰労するため》と説明してきたが、少なくとも2012年12月に第二次安倍政権が発足してからの桜を見る会は、税金を使って招待した数千人もの自民党支持者を酒や食事でもてなす場と化していた。そこに、反社の人間まで呼び入れていたというのだから、汚れ方も尋常ではない。

 2013年に12,000人だった同会の参加者が、19年4月には18,200人にまで増え、14年で約3,000万円とされた支出額は5,500万円にまで膨らんでいた。最後となった19年の桜を見る会に参加した安倍首相の後援会関係者は800人超。税金を使った選挙運動を、総理大臣が率先してやっていた。桜を見る会の前夜に都内のホテルで行われた安倍後援会の宴会費用に絡んでは、政治資金収支報告書に宴会収支の記載を怠ったとして、安倍氏の公設秘書が政治資金規正法違反で、罰金100万円の処分を受けている。(下は2019年の桜を見る会。官邸HPより)

 以上、三つをひっくるめての、いわゆる「モリ・カケ・サクラ」。いずれも政府の隠蔽工作や説明拒否によって真相解明には至っておらず、疑惑は残ったままだ。さらに、奈良県で起きた元首相銃撃事件によって、死亡した安倍氏本人が、犯行動機となった「統一教会」をコントロールする立場にあったことが判明し、重大な疑惑が加えられた状況となっている。

 つまり安倍氏は、死してなお“疑惑まみれ”。そうした人物に、何がなんでも「国葬」の栄誉を与えようとする姿勢に、一連の疑惑をなかったものにしたい政府自民党の思惑が透けて見える。疑惑隠しに何十億円もの血税を使われる国民は、たまったものではない。

過ちては則ち改むるに憚ること勿れ

 立憲民主党の蓮舫、辻元清美両参院議員が、送られてきた国葬の招待状や返信用はがきの画像をSNS上にアップし、「欠席」を表明した。案の定、安倍応援団だった右派陣営から批判を浴びたが、言論・表現の自由や、国会議員としての職責からして、咎められる話ではない。

 国民の6割以上が国葬に反対している以上、発信力のある政治家がそうした声に応えて意思表示するのは当然。またそれが、この国の民主主義を守ることにつながるはずだ。だが、残念なことに野党陣営の足並みはそろっていない。

 自民党にしがみつきたい「国民民主党」はさておき、何を思ったのか、高まる国葬反対の声を無視するかのように旧民主党系の支持基盤である「連合」の芳野友子会長が国葬出席を表明した。「出席せざるを得ない」「苦汁の決断」などと格好をつけたが、自民党に媚びを売っているだけだ。

 芳野氏は今年の参院選前、自民党の麻生副総裁、小渕優子元経産相と会食を繰り返すなど政府与党に急接近。野党陣営はもちろん組合内部にも混乱を招き、参院選に少なからず悪影響を与えたとみられている。連合内部からは「また、政府にすり寄った」、立憲民主の議員からも「もう辞めてほしい」と本音が漏れる。

 不愉快なのは、芳野氏が「労働側を代表して」弔意を示すと言っていることである。連合の組合員は公称700万人とされるが、大半は大企業の社員たちで、国内の就業者数約6,700万人(令和22年)の1割程度でしかない。一握りの就業者しか加盟していない団体の会長が、「労働者の代表」を名乗るのは僭越が過ぎよう。連合と縁のない9割の就業者にとって、芳野氏が「労働側の代表」を理由に国葬に出席することは、迷惑至極。庶民感覚に欠ける労働貴族の暴走に、“何様のつもりか”と言いたくもなる。

 重ねて述べるが「国葬反対」がこの国の民意。「民主主義を守り抜く」という岸田首相の言葉が嘘でないのなら、即刻「国葬」を断念すべきだろう。

 過ちては則ち改むるに憚ること勿れ”――論語の一節である。

 

(中願寺純則)

 

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