新型コロナウイルスの感染爆発を前に、打つ手をなくした小池百合子東京都知事が、政治パフォーマンスの道具に子供を利用し、独善的な本性をさらけ出した。この人は、政治家である前に人として最低だ。
■都議会で「修学旅行中止」明言
今月19日、都議会本会議で答弁に立った小池氏は、「緊急事態宣言下における修学旅行などの取扱いについて」として、次のような方針を示した。
――修学旅行等の学校行事ですけれども、自然や文化に触れる体験を通じまして、次代を担う子供たちの人格形成に資する意義のある教育活動でございます。そして、現在、コロナとの闘いが始まって以来、最大の危機を迎えているわけでございますが、緊急事態宣言下におきまして、不要不急の外出や都県境を越える移動の自粛を都民の皆様方に対して強く呼びかけているところでございます。
こうしたことから、都立学校におきましても、都県境を越える修学旅行等については中止または延期するということといたしておりますけれども、子供たちの心身の健康のために、学校現場において工夫をしながら学校行事を行っていくことは必要、このように考えております。
緊急事態宣言下でも感染爆発が止まらない東京都の現状を考えると、修学旅行を中止、または延期するという方針はやむを得ないことなのかもしれない。若年層の感染者が増え、重症化するケースも出ているのだからなおさらだ。ただ、修学旅行中止という小池都政の方針が、十分な議論を経たものであるかというと、どうも怪しい。
周知の通り、小池氏は東京五輪・パラリンピックの開催に反対したことはなく、菅政権の「安心・安全のオリンピック」という欺瞞に便乗して、開催都市の顔を演じ続けている。国民の大多数が五輪開催に懐疑的だったにもかかわらず、そうした民意は完全に無視した。
首都圏で五輪への反発が高まったのは、ワクチン接種を含めたコロナ対策が機能せず感染が拡大したからで、責任は言うまでもなく状況を悪化させた国や都にある。
実際、小池知事がやってきたコロナ対策は、フリップに記したキャッチフレーズで行動制限を都民に訴えるようなものばかり。「3密」(密集、密接、密閉)を定着させたのがその代表例だったが、次に打ち出した「5つの小」(少人数・小一時間・小声・小皿・小まめ)は大した話題にもならず、今年6月のカエル(職場からかえる、お店からかえる、寄り道せずかえる、ウチで気分をかえる)や「8時だよ、みんな帰ろう」は、冷笑の対象にしかならなかった。
昨年の都知事選で都民は小池氏に366万票もの支持を与えたが、言葉で自身を飾るだけの小池流都政のせいでコロナ感染は拡大。事実上の医療崩壊をきたして自宅療養者が増え続ける事態となっており、今月12日にはコロナに感染して家族3人が自宅療養中だった家庭の母親が亡くなるという痛ましい“事件”が起きている。東京都が病床の確保を怠ってきたのは明らかで、都民の命より五輪を優先した形の小池知事の責任は極めて重いと断ぜざるを得ない。
■パラリンピック観戦は推進
その小池氏が、唐突に言い出した「修学旅行中止」――。目立つところにターゲットを絞って、「やってます」感を演出するためのパフォーマンスにしか見えない。事実、小池知事は「修学旅行中止」とは真逆の方針を、平気で都民に(というより子供に)押し付けた。2日の定例会見における発言。
――それから、学校ですけれども、小中学校や高校については、もう来週から順次、新学期に入るわけであります。10代以下の家庭内感染が増加をしているという中において、家庭での児童、子供さんの毎日検温をするなど、まず家庭そのもので健康観察をしっかり行ってください。そして、これは本人はもとより、同居家族に体調不良の方がおられる場合は、そこは子供さん自らは元気だけれども、中で、ちょっと調子が、お父さん調子が悪いよというような時は登校を控えていただきたい。そして、医療機関を受診していただいて、それでしっかりと対策をうっていただく。治療が必要なら治療する。また、様々な検査などを進めることによって、また家庭内での感染防止ということにも繋がりますので、万全を期していただきたいと思います。あと学校によって、もう学校でも色々な感染対策行って、学校で最初に登校する際の検温などがすぐできるようになったり、消毒液など置いてあるけれど、だんだん慣れてくると、そこが、確認が少し疎かになってはいないだろうか、そこも学校ごとにもう一度ご確認いただきたいし、また児童・生徒の感染状況に応じてオンラインを活用した分散登校であるとか、時差通学、短縮授業などの取組をお願いをいたします。
さらに今回もオリンピック同様でありますけれども、無観客でということでございます。学校連携の方についても、現下の厳しい感染状況を踏まえながら無観客としておりますけれども、学校連携観戦というのは、まさに教育的な要素が大きいということから、保護者の皆様方の意向も踏まえて、自治体そして学校設置者が希望する場合に、安全対策を講じて実施をということであります。その際は、感染症や熱中症や、また交通など、安全の対策を徹底をしていくということで準備をしているところであります。
19日に都議会で修学旅行中止を明言した小池氏が、翌日には学校連携観戦(児童生徒のパラリンピック観戦)を実施するというのだから支離滅裂。「安全の対策を徹底」だの「治療が必要なら治療する」だのともっともらしい言葉を吐いているが、保健所も医療機関もアップアップで、家族3人が自宅療養を余儀なくされたあげく、母親が亡くなるという事例が明らかとなったばかり。首都圏で「治療が必要なら治療する」という当たり前のことができなくなっている状況を、小池氏は他人事としか捉えていないのだろう。
■矛盾する姿勢に相次ぐ観戦辞退
五輪とパラリンピックは、パフォーマンスだけでのし上がってきた小池氏にとって、世界に顔を売る最大の見せ場。中止や延期はもってのほかで、なんとしても「成功」を印象付けたいはずだ。しかし、無観客のパラリンピックでは盛り上がりに欠ける。そこで「教育的要素」とやらを持ち出して、子供たちを拍手要員に仕立てようという魂胆だったのだろう。一方で、就学旅行は中止するという矛盾――。独善的な権力者の暴走に、批判と観戦辞退が相次ぐのは当然の成り行きだった。
利用できるものは何でも使うのが小池流。その上で、必要な相手にはおべっかを使うが、不必要な人間は平気で切り捨てる。対象が政治家なら文句を言うつもりもないが、子供を政治パフォーマンスの道具にした姿勢は、絶対に容認できない。
(中願寺純隆)