12月5日、東京都の小池百合子知事が、都議会本会議で「高校授業料の実質無償化、給食費の負担軽減に大胆に踏み出す」「スピード感をもって子育て世帯を全力サポート」と述べた。大阪府などで実施されている高校の実質的な授業料無償化を実施したいと
表明したのだ。その後の記者会見では「国に先行して高校の授業料無償化に取り組みたい。物価の高騰に対応するため、メリハリのある予算を組む」などと話したが、突然の政策発表をあやしむ関係者は少なくない。
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東京都知事選は、来年7月はじめに予定されている。それを見据えてのものかと思われるか、最近、どこかで聞いたばかりのフレーズだ。11月30日、国民民主党を割った前原誠司氏が5人で新党「教育無償化を実現する会」を立ち上げると記者会見。「教育無償化を実現し、教育予算を少なくとも倍にする。政策本位で非自民非共産の野党結集を求めていく」と語っている。
小池知事と前原氏、まさに共同歩調ではないのか。この2人は以前も同じように結束した過去がある。
2017年9月、当時の安倍晋三首相が解散総選挙を決断。そのタイミングで小池知事は「希望の党」の設立を宣言した。当時、民進党代表だった前原氏は連合会長らの了解をとりつけ、民進党と希望の党の合流を決めた。
世論は人気絶頂の小池知事に傾き、安倍政権も風前の灯火かと思われたが、知事が民進党の一部議員を「排除します」と明言。希望の党に合流させない方針を示した。
この時の上から目線が反発を生み、支持率は急落。また、合流を拒否された枝野幸男氏らが立憲民主党を設立したことで野党票は分散し、小池新党が惨敗したのは記憶に新しい。過去を知る国民民主党の国会議員は冷ややかだ。
「前原新党の5人の中で残れるのは前原さんただ一人ではないのか。衆議院解散となった場合、立憲民主党も国民民主党も対立候補を立てるはず。そんなことは前原さんも十分わかっているはずだ。政党助成金の交付請求期限である年末ということもあって前原さんが動いたということだ。小池知事の国政進出を前提に、先陣を切る意味合いもあるのではないか。いずれ前原さんと親しい日本維新の会と組むつもりだろう」
前原氏が新党結成会見を行う前、日本維新の会の馬場伸幸代表は、マスコミの前で「教育無償化を実現する会ですが……」とうっかり口を滑らせた。すでに前原氏が立ち上げる新党の党名まで知っていたということだ。馬場氏は「教育無償化を実現する会とはしっかり協調していきたい。前原氏からは事前に話は聞いていた。教育無償化は維新がやってきたことで非常に有効なことだ」と述べている。
前原氏の新党結成を契機に、小池知事と維新が一つの塊になって野党再編が進むのかどうか。前原氏らが抜けた国民民主党の勢力は17人。解散総選挙となった場合、確実に小選挙区で勝てるのは玉木雄一郎代表しかいないというほど厳しい状況だ。
「組合系の4、5人の議員はすでに立憲民主党に合流できないか模索中。名古屋市長選に出馬表明している大塚耕平氏は我関せず。自民党に行きたくて仕方ないのは、玉木代表と古川元久氏、榛葉賀津也幹事長の3人だという。前原新党をきっかけに、これまでうっ積していた不満が一気に噴き出している。そのうちバラバラになって、消滅するんじゃないでしょうか」(前出・国民民主党の国会議員)
事実、国民民主党が主張してきたガソリン税引き下げの「トリガー条項」の受け入れについて、岸田文雄首相は前向きな姿勢。国民民主は、それを前提に臨時国会での補正予算案に賛成している。ある自民党幹部が、警戒感を露わにこう話す。
「年明けにも国民民主党を取り込み、公明党と三党連立に近づくと思っていた。玉木代表か古川のどちらかを閣僚とすることで、小幅な内閣改造もあるのではないかとの見方だった。しかし、安倍派をはじめとする派閥のパーティー券キックバックが事件化しそうなので、それどころではない。おそらく国民民主党も乗ってこないだろう。国民民主は今後、抜ける議員が増えるばかりで草刈り場になるんじゃないか。(国民民主は)解党して玉木代表はじめ数人がうちに自民党い来ればいいんじゃないか。それより、自民党のキックバックが事件になれば、しゃしゃり出てくるのは小池知事だろう。機を見るに敏な人だから。前原新党が接着剤になる形での小池・維新連合が一番怖い」
12月10日投開票の東京・江東区長選で、小池知事は自民、公明と相乗りし、都庁OBの女性候補圧勝させた。前出の自民党幹部は、「自民党がキックバックのスキャンダルで江東区入りできなくなったので小池知事が応援に入り、最後は都民ファーストの候補のような様相だった」と嘆く。
勢いを増してきた小池知事。7月の都知事選で仮に勝利し3選を果たしても、現在71歳という年齢からみて先行きは明るくない。前原氏を踏み台にしたサプライズがあるのか?