福岡県警・不祥事の事件化 3年間で25件|“轢き逃げ”が懲戒に到らないケースも

福岡県警察が職員の不祥事を事件として捜査していたケースが2020年から22年までの3年間で25件あったことがわかった。このうち8件が懲戒処分に到らない監督上の措置(注意・訓戒)として処理され、報道発表も免れていた。不祥事の記録に「不適切な言動」とのみ記されていた事案が実際には暴行事件だったことなども判明している。

◇   ◇   ◇

事件捜査の概要が記録されていたのは、筆者が福岡県警への公文書開示請求で入手した各ケースの『事件指揮簿』など。本サイト既報の通り、同県警はこれまで過去5年間ぶんの不祥事記録を開示し、うち2020年から22年までの3年間については報道発表の対象となったケースの広報文を追加開示している。これらの文書に併せ、筆者は処分・措置のあった事案に係る事件捜査の記録も開示請求したところだった。

請求は昨年8月21日付で、これに部分開示決定が出たのが同12月22日のこと。当該文書の写しの交付を求めた筆者に対し、県警は年末年始を挿んだ本年1月上旬、計368枚の記録を開示することとなった。

入手した写しを確認したところ、上掲の既報で伝えた23件の懲戒処分のうち17件が事件として捜査され、さらに懲戒処分に到らない訓戒・注意となった事案8件も捜査の対象となっていたことがわかった。文書を管理していた部署ごとにまとめると、以下のようになる(報道発表の対象となった事案には「」を付した)。

【生活安全総務課:4件】
・20年2月27日処分 巡査部長 減給 スマートフォンで女性を盗撮
・同年5月14日処分 巡査部長 減給 スマートフォンで女性を盗撮(上とは別件)
・同年7月2日処分 巡査 減給 独身寮内で同僚の居室を覗き見
・22年3月10日処分 巡査 減給 地下鉄内で複数回の痴漢行為

【人身安全対策課:1件】
・22年11月17日処分 警部補 減給 SNSで中傷・物理的にも嫌がらせ

【生活保安課:1件】
・※20年11月27日処分 行政職員 免職 ホテルで売春斡旋・無断欠勤

【生活経済課:1件】
:22年12月8日措置 巡査部長 本部長注意 泥酔して他人の農地で寝込む

【刑事総務課:1件】
・21年7月8日措置 巡査部長 所属長訓戒 捜査書類を偽造

【捜査一課:4件】
・※21年4月2日処分 巡査部長 停職 酩酊状態の女性に準強制性交
・20年12月14日措置 巡査長 所属長注意 女性に対し不適切な言動(実は暴行)
・21年1月15日措置 巡査部長 本部長注意 飲酒して不適切な行為(実は暴行)
・22年10月20日措置 巡査 本部長訓戒 飲酒して脅迫、暴行・傷害

【捜査二課:2件】
・※22年9月1日処分 警部補 停職 交通管制センターの記録を擬装
・※同年9月8日処分 巡査 免職 情報漏洩・不適切交際・横領ほか

【捜査三課:4件】
・20年1月16日処分 巡査 減給 独身寮内で同僚の現金を盗む
・同年1月16日処分 巡査 減給 独身寮内で同僚の現金を盗む(上とは別件)
・同年1月16日処分 巡査 減給 独身寮内で同僚の現金を盗む(上2件とは別件)
・21年9月30日処分 巡査 減給 警察署内で同僚の現金を盗む

【交通指導課:1件】
・※22年8月10日処分 巡査 停職 酒気帯びで自家用車を運転

【交通捜査課:5件】
・※20年6月18日処分 巡査部長 停職 酒気帯びでバイクを運転
・同年12月17日処分 巡査 減給 無許可アルバイト・物損事故
・同年7月22日措置 巡査 所属長注意 自家用車で人身事故
・21年12月10日措置 警部補 所属長注意 事案対応を怠る(実は業務上過失傷害)
・22年3月18日措置 巡査部長 所属長訓戒 人身事故(実は轢き逃げ)

【公安三課:1件】
・22年8月25日処分 巡査 減給 小売店で現金を騙し盗る

法令違反が疑われるケースがことごとく捜査の対象となっていたのは当然として、注目すべきは注意・訓戒という軽い制裁で処理されていた事案も少なからず事件化されていた事実。しかもそのうちいくつかは、今回の追加開示請求を経ない限り法令違反が確認できない体裁になっていた。

たとえば、2020年12月4日に警察署巡査が「所属長注意」の措置を受けた不適切行為事案。昨年7月時点で筆者に交付された『措置伺い』には、事案の概要がこう記されている――《当該職員は、女性に対して不適切な言動をしたものである》

いかにも抽象的な文言だが、捜査にあたった福岡中央警察署の『事件指揮簿』には、この件が次のような言い回しで記録されていた――《暴行被疑事件である。男は本県警察官》

似たようなケースはほかにもある。21年1月15日付で巡査部長が「本部長注意」となった不適切行為事案は、措置の記録では「飲酒の上、不適切な行為を行ったもの」となっていたが、小倉北署の『事件指揮簿』ではこれが「現職警察官による暴行被疑事件」と記録されることになる。どうやら福岡県警ではこの時期、懲戒に到らずに処理された未発表の「暴行」事案を「不適切な言動」「不適切な行為」と言い換える慣行があったようだ。

言い換えがみられたのは、暴行事件のみではない。21年12月10日に警察署警部補が「所属長注意」となった業務不適切事案は、措置伺いにこう記録されている――《当該職員は、事案の対応に際して必要な措置を怠ったものである》。

本部交通捜査課の『事件指揮簿』では、こうなる――《警察官による業務上過失傷害被疑事件》

さらに、22年3月18日付で警察署巡査部長が「所属長訓戒」を受けた過失運転致傷等事案。措置伺いの記録では、こうだーー《当該職員は、令和4年2月14日、人身事故を起こしたにもかかわらず、適切な処置を行わなかったものである》

いささか回りくどい表現だが、これを短い一言で表わす言葉が小倉南署の『事件指揮簿』には記されていた。即ち――《警察官によるひき逃げ事件》

この件はのちに全国紙などの報道で明るみに出たが、注意・訓戒は公表の対象にならないため、報道がなければ今も隠蔽され続けていた可能性がある。

このほか、小売店で現金を騙し盗った巡査の事件がなぜか刑事畑ではなく警備公安部門で捜査されていた事実など、開示文書から初めて読み取れる情報は少なくない。前回の記事で指摘したように、こうした検証が可能なのは情報公開条例が適正に運用されているからにほかならず、仮に公文書の隠蔽が行なわれることがあったら警察の不祥事対応は完全なブラックボックスとなってしまう。

同じ九州管区の鹿児島県警でその隠蔽が大きく疑われているのは、これまで何度も指摘してきた通り。福岡県警が事件捜査の記録を適切に開示したのに対し、鹿児島県警は同旨の開示請求に「存否応答拒否」決定をもって対応、文書が存在するかどうかを明らかにせず開示を拒否する姿勢を見せている(既報)。

上の拒否決定に筆者が審査請求(不服申し立て)を行なったのは、昨年7月23日のこと。そこからすでに半年以上が過ぎた本年1月下旬時点で、鹿児島県公安委員会の審査結果は伝わっていない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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