警察職員による不祥事の公表に際し、福岡県警察が少なくとも過去3年間で「免職」「停職」に満たない懲戒処分をことごとく未発表としていたことがわかった。少なからぬ事案が地元報道の独自取材により明るみに出ているものの、そうした取材活動がなければ多くのケースが闇に葬られていた可能性がある。
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県警の懲戒処分の公表状況がわかったのは、本年9月中旬。本サイト既報の通り、筆者は鹿児島県警の情報開示の適正性を検証する過程で比較対象として福岡県警にも公文書の開示を請求し、過去3年間の懲戒処分と監督上の措置(懲戒に到らない軽い制裁)の記録、及びそれらの公表の有無がわかる文書などを入手した。
開示されたのは、処分の記録としては『処分説明書』などで、公表の記録としては『広報文』。前者からは2020年から昨年までの3年間で23件の懲戒処分があったことがわかり、後者からはそのうち10件が公表の対象となったことがわかった。
念のため、文書入手後の10月上旬に県警本部へ問い合わせを寄せ、開示対象となった『広報文』のほかにも同様の記録があるかどうか(廃棄などで開示できなかった文書があるかどうか)を確認したところ、開示した記録がすべてであり、それ以外の事案は広報対象になっていないとの回答を得られた。
23件中10件が公表されたということは即ち、残る13件は伏せられたということだ。どういう事案が明るみに出てどういう事案が未発表となったのか、時系列でまとめると以下のようになる(行頭に「未」とあるケースが未発表)。
懲戒処分は、重いものから順に「免職」「停職」「減給」及び「戒告」の4種あり、これはどこの都道府県でも変わらない。「免職」はクビ、「停職」は出勤停止、「減給」は給料カット、「戒告」はお説教。中央官庁の警察庁が定める『懲戒処分の発表の指針』では、このうち私的な行為に係る「減給」以下の処分は公表しなくてもよいことになっている。福岡県警はこの原則に忠実に公表・非公表の別を判断しているようで、上の一覧を見ると「免職」「停職」以外の処分が例外なく未発表となっていることがわかる。
未発表事案には、窃盗や盗撮などの法令違反も含まれていた。筆者が検索した限りではそれらのいくつかは地元報道の独自取材によりニュースとして発信されており、警察発表に頼らない報道が日常化しているという点で当地のメディアを高く評価できる。だが本来、警察職員の不祥事は当局側がむしろ積極的に「広報」すべきこと。警察庁の指針は飽くまで原則であり、県独自の判断で「減給」以下の処分を公表することは決して難しくないはずだ。
とはいえ、こうした批判が可能なのは、ひとえに福岡県警による適正な情報公開がなされているからにほかならない。既報の通り、比較検証のきっかけをつくった鹿児島県警は同旨の請求に対し昨年3月の『報道資料』1枚のみを一部開示し、一昨年以前の記録は存在しないとした。さらに各事案の事件捜査の記録に到っては存否応答拒否の姿勢を示している。これについては筆者の審査請求(不服申し立て)により鹿児島県公安委員会の審査が続いているところで、特筆すべき動きがあり次第、引き続き報告していきたい。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |