警察職員の不祥事を記録した公文書の開示請求で、捜査対象となった事案の記録を「存否応答拒否」という形で非開示にした鹿児島県警。警察組織特有の隠蔽体質によるものと結論付けるのは早計で、おかしいのは鹿児島だけ。北海道や福岡など他の警察本部は、まったく違う対応をとっている。
■不祥事情報、隠さぬ北海道警
筆者は6年ほど前から地元・北海道警察へ開示請求を重ね、一定期間ごとに不祥事関連文書を入手し続けている。不祥事がいつ発生するかは予測ができないため、とりあえず3カ月間を節目として四半期ごとに開示請求し、得られた情報を地元誌『北方ジャーナル』などで発信しているところだ。直近では本年第2四半期(4―6月)の記録を一通り入手し、同期間の処分などの概要を把握することができた。
手順はこうだ。まず対象期間に記録された懲戒処分と監督上の措置(懲戒に到らない軽微な制裁)の一覧などを請求する。今回の第2四半期でいえば7月3日付でその請求を行ない、これを受理した北海道警が10日あまり後の同14日に一部開示決定を出した。開示された「懲戒処分一覧」など27枚の公文書により、同期間に処分があった不祥事は懲戒1件・監督上の措置16件の計17件に上ることがわかった。
ここまでが、いわば第1段階。次に筆者は、上の17件のうち報道発表されたものが何件あり、また事件捜査の対象になったものが何件に上るのかを確認するため、第2段階の請求に向けた問い合わせを道警に寄せた。7月24日付で筆者の照会を受けた道警が対象文書を特定し終えたのは8月7日。翌8日、筆者は道警の案内に従ってさらに8種の公文書を開示請求、約2週間後の同22日にそれらの一部開示決定を受け、同25日に計28枚の公文書を入手するに到った。この時開示されたのが、報道発表の対象となった不祥事に係る「報道メモ」と、事件捜査の対象となった不祥事に係る「事件指揮簿」などだ。
そう、不祥事の捜査記録は開示できるのだ。今回でいうと、4月13日付で免職となった巡査部長による住居侵入・窃盗事件、及び6月16日付で所属長注意となった巡査部長の交通違反事案の計2件が捜査の対象になっていたようで、道警は一部に「のり」を施しつつもそれぞれの記録を開示した。とくに後者の交通違反は報道発表されておらず、多くの北海道民にとっては“なかったこと”になっている事案だが、今回の情報開示により詳しい事実関係があきらかになった。その概要は、次のようなものだ(一部墨塗りは道警)。
被疑者は、令和5年4月13日午前11時43分頃、道路標識により、その最高速度が50キロメートル毎時と指定されている北海道■■■■■■■■■■■■■■■■付近道路において、その最高速度を30キロメートル超える80キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行したものである。
違反の現場こそ黒く塗り潰されているが、同時に開示された「指揮伺い用紙」には捜査主任官として「札幌方面倶知安警察署 警部」との記述があり、また先の「指揮簿」には事件が「岩内区検」に送致された事実が記されていることから、現場をある程度絞り込むことさえ可能となっている。
なぜこれらが開示されたのかは、いうまでもない。隠す必要がないからだ。ほかの多くの都府県と同様、北海道にも情報公開条例はあり、鹿児島と同じように道の公式サイトで全文公開されている( →当該ページ )。本文に眼を通せばわかることだが、内容は先に示した鹿児島県の条例と大きく違わず、当然ながら情報公開制度の趣旨に異なるところはない。もとより公文書は開示が大原則で、不開示とするには充分に合理的な理由がなくてはならないのだ。ならば、北海道警察で開示できる公文書が鹿児島県警で「存否応答拒否」になるのはなぜなのか。
■福岡県警も「開示」の姿勢
参考までに、筆者は本年5月、鹿児島警と同じ九州管区警察局に属する福岡県警に過去5年間の不祥事記録を開示請求、7月下旬までに交付された「処分説明書」など計418枚の公文書を確認した上で、それら各事案の公表の有無と事件捜査の有無がわかる公文書を追加請求した。8月21日付の請求に対し、福岡県警は9月7日付の決定で「広報文」など18枚を開示、過去1年間ぶんだけではあるものの不祥事の報道発表の概要をあきらかにした。捜査の記録については延長がかかり、当初9月7日だった開示期限が12月22日までとなった。通知された延長理由によると、やはり文書特定作業の物理的な作業量がおもな原因のようだ。
ここで、鹿児島県警の対応を振り返る。同県警は2種の開示請求について、一方(公表の記録)の開示を決めると同時にもう一方(捜査の記録)の存否応答拒否決定を出した。これに対し今回の福岡県警は、一方(公表の記録)の開示を決めると同時にもう一方(捜査の記録)の開示延長決定を出した。つまり鹿児島が問答無用で不開示を決めた判断とは異なり、福岡は少なくとも本年12月まで文書の探索を続けるというのだ。これは、対象文書の開示を前提とした作業だと読み取って間違いないだろう。参考までに、福岡県の情報公開条例も同県の公式サイトで公開されており、もはや言うまでもないがその内容は鹿児島や北海道のそれと大きく変わらない( →当該ページ )。
■際立つ鹿児島県警の隠蔽姿勢
福岡や北海道で当たり前に開示される情報を、鹿児島県警が頑なに隠す理由は、現時点では想像するほかない。先の存否応答拒否決定を受けた筆者は7月23日、これを不服として鹿児島県公安委員会( →当該ページ )(増田吉彦委員長)に審査請求し、拒否決定を撤回して対象文書を適切に開示するよう求めた。申し立ては8月9日付で公安委に諮問(意見伺い)され、審査の対象となった県警は9月7日付で「弁明書」を提出、筆者に反論する形で拒否決定の適正性を主張することとなった。とはいえその内容はもとの決定文に記された不開示理由とほとんど変わらず、とくに新たな主張を伴わずに「原処分は適法、妥当である」と改めて強調している。
公安委員会の役割は、地元警察が適切に公務を行なっているかどうかを監視することにある。筆者の審査請求を受理した鹿児島の公安委は、県警の情報公開のあり方をどう評価することになるのか。そもそも公平な審査が行なわれるかどうかを含めて、引き続き請求人の立場で今後の対応を「監視」していきたい。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |