今月13日、新型コロナウイルスの影響で、大学進学を目指す外国人留学生にとっての”センター試験”にあたる「2020年度日本留学試験(第一回)」の中止が決まった。毎年、6月と11月に実施されていた試験だが、今年は11月の1度きりとなる予定だ。国内で学ぶ外国人留学生の進学に影響が出るだけでなく、進学をサポートする日本語学校や試験評価を合否の判定に用いる大学側も、例年通りの運営が難しくなるものとみられている。
◆留学生版「センター試験」
国内の日本語学校で学ぶ外国人留学生は、日本での大学進学を目的として来日するケースが多い。一般的には、母国で基礎的な日本語を学んだあと来日。その後1年から2年かけて、日本語学校で大学の講義が理解できる水準まで日本語能力を高める。
日本国内の多くの大学では、日本人とは別に留学生用の入試を行うが、そこで、利用されるのが「日本留学試験」のスコアだ。得点によって、出願できる大学が変わってくる「足きり」があり、大学独自の2次試験はあるものの、合否判定には日本留学試験のスコアが影響する。留学生にとっての「センター試験」といえる。
異なる点は、日本留学試験は年に6月と11月の2回開催されること。大学にはどちらか得点の高いほうを提出する場合が多いが、どちらのスコアを提出するか大学に指定される場合もある。
なお、科目は「日本語」だけでなく、「数学」、物理・化学・生物の「理科」、社会・歴史・経済などを含む「総合科目」などがある。現在、国内16都道府県、国外14か国・地域の18都市で実施されており、2019年6月の受験者数は3万1,942人だった。
日本留学試験を実施している独立行政法人日本学生支援機構は「感染リスクを回避したうえで、通常通り実施するのは困難」と判断しており、出願料は返金するという。なお同機構は、「中止となった6月試験の成績を外国人入試に利用する予定だった大学等に対し、受験者に対する最大限の配慮を依頼している」と発表している。
◆対応に苦慮する日本語学校
外国人留学生が在籍する国内の日本語学校も休校措置を取っているケースが多く、勉強するため異国に来た多くの若者が学ぶことができなくなっている。自粛要請で外出さえままならず、どうにもできない状況だ。さらに今回、追い打ちをかけるように「日本留学試験」という大きなチャンスを失うことになった。
「緊急事態宣言以降、自宅学習が続く中でのこの発表はあまりにも酷」――そう話すのは、福岡県内の日本語学校関係者だ。同校も、新学期だというのに休校措置が続く。例年、進学クラスを設けて日本留学試験の対策を行うが、今年は試験までの「追い込み」もままならない。それに加え、アルバイト先の減少で、学生の雇用確保が難しくなっており、勉強と生活の両面について相談を受けるケースが多いという。「安全を第一に考えれば致し方ない。学生の不安を軽減できるよう努めるしかない」(同校関係者)
進路指導を担当する別の日本語学校関係者は「大学は独自試験など別のものさしで代替するしかないだろう。7月に予定されている『日本語能力試験』の開催が気になる」と話す。今のところ、国内会場での試験は中止になっていないが、海外ではすでに数か国で中止が決定しており、開催は微妙。日本語能力試験まで中止になれば、学生の能力を証明する方法がなくなってしまう可能性がある。
◆大学側は入試スケジュール変更を視野
留学生の進学先となる大学側も「日本留学試験中止」の発表に頭が痛い。日本語学校の進路担当者によると、近年は6月の試験のスコアを基にして、年内に留学生入試を実施する大学が増えているという。留学生の受け入れに積極的な大学も多く、入試スケジュールの見直しを余儀なくされるなど影響は小さくない。
6月の日本留学試験が中止されたことについて、熊本県内の私立大学関係者は次のように話す。
「影響は少なくない。本学では6月の試験結果を用いて、10月に外国人留学生入試を実施する予定だった。スケジュールを大幅に見直す必要が出てくる。昨年11月の結果を用いることや独自試験を設けることも代替策だが、昨年のスコアは今の学力を測るのには時間が経ちすぎている。また独自試験を急に作れと言われてもすぐにできるものではない」
福岡県内の私立大学入試部に確認したところ、「現在、対応は検討中であり、今後の動向を注視しながら判断していく」と回答している。
この国を選んでくれた留学生を落胆させないよう、国や自治体も対策を講じるべきだ。