【沖縄知事選2022】争点であり続ける「辺野古」

 台風11号の影響が残る中、取材で訪れた沖縄県。県知事選挙の様相は、4年前から一変していた。

 これまで経験してきた選挙の熱気は感じられず、県内のどこに行っても、しらけムードが漂う。前回までの知事選で最大の争点となってきたのは基地問題だったが、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移転先にされた名護市辺野古も、比較的静かな雰囲気だった。

 “辺野古は争点ではなくなったのか――?”民主主義を無視して辺野古移設を強行する自公政権の政治手法を批判してきたハンターとしては、現在の県民の思いが知りたいところ。知事選の戦況を探りながら、県民の声を拾った。

■盛り上がらぬ理由

その1】 消えた「沖縄公選法」―― 前回(2018年)の知事選はもちろん、やはり4年ごとに取材している名護市長選を含む沖縄県内の選挙では、公職選挙法を無視した選挙運動が繰り広げられてきた。

 林立する候補者名や顔写真を染め抜いたのぼり旗、ポスター。何台出ているのか分からないほど、ひっきりなしに行きかう無許可の街頭宣伝車――。(*下は、これまでの知事選や名護市長選での様子)

 そうした状況について、2018年の知事選の折に、記者の疑問に答えたある陣営の関係者は、笑って次のように話していた。
「沖縄公選法とでも言うんですかね。占領下の名残で、なんでもありの選挙が続いている。県警もなんとか是正しようとした時期があったが、うまくいかなかった。いけないことかもしれませんが、ある意味、選挙の原点みたいなところがあるんじゃないかと思ってます。選挙は自由にやるべきで、なんでもかんでも規制するのがいいとは思えない」

 今回は駆け足で県内を回ったが、どこに行っても「沖縄公選法」などなかったかのような状況だ。台風の影響かと思って選挙関係者に聞いてみたところ、違法な選挙戦の実態を重く見た選挙管理員会や県警が厳しく取り締まるようになったせいで、かつての「風物詩」はなくなってしまったということだった。

 かつて県内各地でみられた選挙手法は確かに違法だったが、本土並みの面白くない選挙になってしまったことに、ある種の寂しさを覚えた。カネがかからなくなったことは確かなのだろうが……。

その2】 消えた選挙ポスター掲示板――5日、6日と那覇市内を取材した記者が困惑したのは、選挙ポスターの掲示板がないこと。どれだけ走り回っても見つからない。那覇市役所で話を聞いたところ、台風の直撃を受けたため、ほとんどのポスター掲示板が取り外されているのだという。

 教えられた掲示板の場所に行ってみたところ、下の写真のように、鉄パイプで組まれた枠組みだけになっていた(九州の選挙では木製の枠組みがおなじみだが……)。少なくとも那覇市内では、選挙が行われているという緊張感を感じることはできなかった。

その3】消えた与党側候補者の勢い――8月25日に告示された知事選は、下地幹郎元郵政改革担当相(61)、政権与党である自民・公明が推す佐喜真淳前宜野湾市長(58)、そして「オール沖縄」が推す現職で再選を目指す玉城デニー氏(62)の3人で争う構図だ。

 当初は、前回同様玉城氏と佐喜真氏の事実上の一騎打ちとみられていた。近年続いた首長選におけるオール沖縄勢の退潮傾向を受け玉城知事の苦戦も予想されていたのだが、予想もされなかった事態が、佐喜真氏の支持を大きく減らすことになる。

 安倍晋三元総理銃撃事件で突如として浮上したカルト集団・統一教会の問題が、佐喜眞氏の支持を大きく減らす原因になったのだ。佐喜眞氏自身が、統一教会系団体のイベントに度々参加するなどズブズブの関係だったというのだから、自業自得と言うべきだろう。(*参照記事⇒【沖縄知事選】与党側・佐喜真氏を統一教会問題が直撃|現職・玉城氏が大幅リード

■消えない「辺野古」という争点

 いくつかの要因が重なって、一向に盛り上がらない沖縄知事選――。では、最大の争点であるべき「辺野古移設」の是非について、沖縄の有権者はどのように考えているのだろうか。

 報道各社が行っている沖縄知事選の情勢調査によれば、有権者がもっとも重視する政策課題は「経済」「暮らし」や「観光」。これまでの各種選挙で政府与党が、「野党では経済の発展は見込めない」として、予算を餌にした経済対策で沖縄を揺さぶってきたことが、一定の成果を上げてきたのは確かだ。

 さらに安倍政権が民意を無視して辺野古の埋め立て工事を強行してきたことで、「反対を唱えても、どうせ政府は聞く耳を持たない」と、あきらめムードも出てきていた。政府側の思惑通り、今回の知事選では辺野古移設の是非が、ついに2番目の政策課題となっている。

 しかし、それでも辺野古を重視すると答えた有権者は4割前後いて、依然として大きな争点であり続けている。

■消えた「カネ」の行方

 ところで、政府与党が自分たちしかできないと強調する経済対策だが、自民党政権だから沖縄が発展するという主張は、嘘だ。

 沖縄の本土復帰は1972年(昭和47年)5月。復帰と同時に沖縄開発庁が設置され(2001年1月に内閣府に統合)、巨額な予算を投入して沖縄振興が図られてきたはずだが、同県の1人当たり県民所得は、47都道府県の中の最下位から浮上したことがない。ばら撒かれるカネが、一部の地域や土建屋に集中したからに他ならない。

 2015年、工事の着工を急いだ政府は、条件付きで辺野古移設を認めるとしてきた名護市辺野古、豊原、久志の3地区の自治会組織に、地域振興関連費を直接支出するというエサを投げて賛成派の結束を固めさせた。

 辺野古を訪れる度に感じることがある。2014年頃には、かつての繁栄の名残を感じさせる廃墟のような建物が多数残っていた。それが、年を追うことに減り、行くたびに新しい建物や店舗が増えている。まさか住民個々に振興関連費を配っているはずはないだろうが、新基地建設を睨んで移住者が増えているとも思えない。軟弱地盤のせいで工事が遅れている新基地は、政府の最新の計画によれば完成が2030年代。本当に完成するのかどうか怪しくなっている現状では、明るい未来を見込んで移住してくる人などいないだろう。

 実は、地元のカネの動きに疑念を持つ関係者は少なくない。今回の取材で話を聞いた地元の住民は、次のように話す。
「新しく移住してきたとしても、町内会には入れてもらえないんです。移設に反対か賛成かは関係なく、新規は突っぱねられる。『取り分が減るから』というのがその理由。本土では考えられない話でしょうが、それもまた辺野古の現実です。政府がばら撒いたカネは辺野古の集落に入りますが、どう使われているのは不明。新しい家やリニューアルが増えていることと、無縁ではないと考えています」

 政府・自民党は、沖縄県や名護市の頭越しに地元地域を黙らせようと躍起になってきたが、カネの力で民意をねじ曲げる手法は、仲井真弘多元知事が辺野古埋め立てを承認した時と同じ。この時の材料は、当時の安倍政権が打ち出した毎年度3,000億円の沖縄振興予算だった。そのカネはどこへ行ったのか?

 沖縄をカネまみれにする安倍自民党の手法は、選挙でも一定の効果を上げてきた。2018年2月に行われた名護市の市長選挙で、「移設反対」の現職を破って初当選した渡具知武豊氏の陣営に流れこんだ資金の大半が、辺野古の工事を請け負っている建設会社を中心にした地場業者約50社の自民党側への献金だったことが、ハンターの調べで分かっている(*参照記事⇒名護市長を支える辺野古埋め立て業者のカネ)。

 政府や自民党がばら撒いてきたカネは、沖縄に米軍基地を押し付け続けるための、ほんのわずかなエサだったということ。自民党政権だから沖縄が潤うという話は、真っ赤なウソなのである。

■消えない「本土の責任」

 新聞やテレビの記者たちは、訳知り顔に沖縄のことや安全保障の問題を口にする。しかし、これまでの経験では、「日米安保条約は何条まであるか?」「日米地位協定を読み込んだことがあるか?」という問いに、まともに答えられた記者はほとんどいない。

 国内にある米軍基地の7割が集中する沖縄には、31もの米軍関連施設があり、県土面積の約1割(沖縄本島に限れば約2割)は基地という状況だ。私も含めて本土の人間は、そうした沖縄の理不尽な現実に、真正面から向き合うことができていない。

 安倍政権が続いた8年半の間に、本土メディアは牙を抜かれ、沖縄について、あるいは沖縄県民の思いについて、報じる回数が極端に減った。太平洋戦争、特に県民の4人に一人が犠牲になった沖縄戦の悲惨さを伝えるテレビドラマが減ったのも、安倍政権になってからのことだ。

 その安倍氏は、各種選挙で示された「辺野古移設反対」という有権者の意思を踏みにじり、ついには県民投票の民意まで黙殺して、辺野古の海を埋め立ててきた。

 「聞く力」を売りにして総理になった岸田文雄氏も、辺野古問題に触れたくないのか、沖縄の声を聞こうともしていない。

 国民の反対意見を無視して「国葬」を強行する岸田の姿勢は、「聞く耳持たず」で辺野古の工事を進めた安倍の傲慢さに通底する。これを、本土のメディアはなぜか叩かない。民主主義を否定する政治を批判できない連中に、報道を名乗る資格はあるまい。「記者」を名乗るのなら、沖縄に犠牲を払わせることによって平和を享受してきた本土に、重い責任があるということを自覚すべきだ。

 ちなみに、大手メディアが唱えてきた「公平公正」を権力に忖度する際の言い訳の道具だとみてきた私は、本土の責任を強く感じる者の一人として、政府与党が推す知事候補を応援する気にはならない。

■デニー氏優位で終盤戦へ

 知事選の戦況だが、現職の玉城デニー氏が大きく佐喜真淳氏を引き離す展開で、永田町の選挙関係者の間では、与党側の不利をひっくり返すのは困難との見立てが大半となっている。両陣営の本部に出向いてみたが、台風の影響を受けたせいか、佐喜真陣営が入る建物には選挙事務所の看板がない。地味な雰囲気は、活気のある玉城陣営の選挙事務所とは対照的だった。

(中願寺純則)

 

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