【鹿児島県医師会職員わいせつ事件】隠蔽されたハラスメント|調査委議事録が問う報告結果ねつ造の可能性

鹿児島県医師会が、新型コロナウイルス感染者の療養施設などで起きた強制性交が疑われる事件の裏にあったハラスメント被害を組織として把握しながら握りつぶし、池田琢哉会長が吹聴した「合意があった」という主張に合わせた調査報告書を県に提出していたことが分かった。報告内容のねつ造が疑われてもおかしくない事態だ。

ハンターが独自に入手した第一回調査委員会の記録文書(議事録)から明らかになったもので、医師会が設置した調査委は、性行為をはたらいた医師会の男性職員(今年10月末で退職)が常習者にセクハラ・パワハラを行っていたことを示す証言や証拠を確認しておきながら、調査報告に反映させず、懲戒理由にも加えていなかった。医師会は、県への報告にはもちろん県民向けの記者会見でも男性職員のハラスメントに触れておらず、組織ぐるみで真相を歪めた可能性がある。

「強制性交」に結びつく可能性があるハラスメントの事実が隠された結果、男性職員や池田氏が主張した「合意に基づく性行為」だけが強調され、被害を訴える女性の人権が著しく侵害された形になっている。

■調査委、ハラスメントを把握

広範囲に被害者を出していたとみられる男性職員のハラスメントは(既報参照)、「合意に基づく性行為だった」とする男性職員の証言を一方的に採用し、それを喧伝することで自己保身を図ったとみられる池田会長にとっては極めて都合の悪い事実。顧問弁護士らで構成された調査委は、1回目の会議でハラスメントの実態を把握していたが、9月27日に鹿児島県に提出した調査報告書にはその点について何も記載されていなかった。医師会として経緯を説明した記者会見でも、医師会側はハラスメントについて一切言及していない。弁護士も加担した組織ぐるみの真相隠しが疑われる。

9月27日に開いた記者会見で医師会顧問の新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)は、ハラスメントのことを伏せたまま、刑事事件として捜査中の事案であることを無視して「合意に基づく性行為だった」と断定。一方的に強制性交を否定していた。

男性職員の行為について検証するため医師会が設置した調査委員会が開いた第一回会議の議事録を確認したところ、新倉弁護士が、男性職員や池田会長ら医師会幹部が主張していた「合意に基づく性行為」を前提に、調査委の議論を進めようとしていたことがうかがえる記述が多数あった。

それによると、新倉弁護士は会議の冒頭、男性職員によるセクハラとパワハラを調査に加えることを宣言していた。

新倉弁護士
新倉弁護士
本調査委員会における調査範囲について、セクハラやパワハラも含めた懲戒事由を調査することとなった。

別の弁護士からは、セクハラの実態を示す報告がなされていたことも分かる。

早瀬弁護士――この件とは別に、セクハラを受けた話について2名の職員に話を聞いた。◆◆◆◆さん、●●●●さんの2名。◆◆◆◆さんは、(男性職員が)下ネタをLINEで送ってくる、そういうキャラクターだと思ってかわしていた。3~4年前、胸を揉まれた他の職員がいても平気でやっちゃうスキンシップのハードルが低い人。大事にするつもりはなかったと。●●さんは、誰もいない時に頬っぺたにキスをされたりということもあった派遣社員の▽▽▽さんがエレベーターの中でハグをされた。令和2年9月に、やめろというLINEを送った。■■課長にも報告するようにと言った。できれば、派遣さんについては無記名でもアンケートをして欲しいと話をしている。

ハラスメントについての話を把握していた新倉弁護士は、宿泊施設内でのハラスメントについて報告を求めていた。

新倉弁護士
新倉弁護士
医師会内部でもそういう話(セクハラ・パワハラの話)がある。宿泊施設内でもあったのではないか。

会議の中で、医師会の役員がこう打ち明けている。

医師会役員――(男性職員から)セクハラをしてしまった(と報告を受けた)。(相手から)病気じゃないのと言われたらしい。東急ハンズの一番上にあるお店で、1~2時間くらい本人(男性職員)と話をした。親密さから抱きついてキスをしたのを、本人は愛情表現と言っていたが、私は、普通しないよねと言い、セクハラなんだから謝罪するしかないよねと話をした。訴えられたらどうする。

この医師会の役員は、問題の男性職員と別の女性看護師を嫌がる新型コロナ療養施設のスタッフが、LINEで、男性職員によるパワハラを訴えてきていたことも明かしている。

医師会役員――(男性職員から)勤務から外すというLINEが来て、不安でしょうがないという感じだった。本人はハラスメントと感じている状態だった。

これはすべて第1回調査委員会の記録であり、早い段階において男性職員のハラスメントが医師会内部の共通認識になっていたことは明らかだ。しかし、男性職員によるこうしたハレンチ行為は懲戒処分の理由に加えられず、対外的に公表もされなかった。何故か――?

■「合意があった」に誘導か

疑問に対する答えは、この会議の中で出されていた。県医師会が調査委員会を設置することになった原因は、男性職員によるコロナ療養施設内でのわいせつ行為。本来なら事実認定された時点で“懲戒解雇”が当然だ。しかし、池田琢哉会長は今年2月10日、強制性交の被害を訴えている女性の話も聞かないうちに、わざわざ県庁の担当局に出向いて「強姦といえるのか、疑問」、「(警察からは)事件には該当しないと言われている」などと男性職員を庇う姿勢をみせていた。

同月22日に開かれた県医師会郡市医師会長連絡協議会ではさらに踏み込んで、「本人(男性職員)によりますと、昨年8月下旬から9月上旬にかけて当該医療機関と宿泊療養施設内で複数回、行為を行った。そのうち、性交渉が5回で、すべて合意のもとであった」、「まあ、ちなみに本事案は短時間の間になされて数回性交渉が行われていることは双方の代理人弁護士の主張からも明らかで、強姦とは言い難いと思います」、「今日あったこういう情報(合意があったという情報)をですね、ある程度かみ砕いて伝えていただければ、現状はこうなんだよということをですね、伝えていただければありがたいなと思います」などと話していたことが分かっている。

いずれの発言も、“合意があっての性交渉だから問題ない”という身勝手な考えに基づいており、事案の矮小化を図ろうという狙いがみえみえ。療養施設で不安を抱えながら過ごしていたコロナ患者に対する配慮や、「強制性交」の被害を訴えている女性に対する思いやりの気持ちは一切なかった。

医師会の顧問を務める立場としては当然なのかもしれないが、新倉弁護士は、こうした池田氏の姿勢に沿う形で会議をリードしていた。“誘導”ともとれる同弁護士の、会議での主な発言を拾ってみた。(*以下、議事録にある男性職員の実名を伏せ「男性職員」と表記)

新倉弁護士
新倉弁護士
事実認定を公正公平にしていくことになるが、証拠品が足らない。客観的な証拠が非常に重要。メッセンジャーやメールなどは、後から偽造ができないので、事実認定のために重要である。最終的に、合意かそうでないかの事実認定をどこまでするのかを決めなければならない。既に刑事告訴されているので、裁判、警察による捜査、検察による捜査、裁判という流れになる可能性がある。そうなれば、裁判所が最終的な事実認定をする。しかし、検察が不起訴にしたら、誰も事実認定をしないことになる。合意があれば、不起訴にするはず。強姦があった場合でも、罪の判断を下すのは裁判所。あくまでも懲戒事由に関しての事実認定になる。
新倉弁護士
新倉弁護士
現在、証拠書類が男性職員側からしか来ていない。12月1日の資料2、女性側から男性職員に送ってきたメールらしいが、(女性側が)行為があったのは1回だけであること(と述べている)。(女性側から)これまでのメッセンジャー等の削除依頼が来ており、(女性側が)証拠隠蔽をお願いしている。こちらは男性職員には有利しかし、資料4の謝罪文に関しては不利。これから裏付けの証拠が男性職員から出る、女性側からもっと客観的資料が出るかもしれない。
新倉弁護士
新倉弁護士
女性からのメールは)男性職員の主張を裏付ける証拠になるんじゃないか。県への報告書は、証拠書類や委員の意見を反映させたものを作る。新聞報道は、そのあたりでしっかりこちらの主張を言うのかなと思う。謝罪文は男性職員がレイプを認める内容だが、9月30日だけのこと刑事事件だったら、いつ、どこでという事実認定をしないといけないが、日時は置いておいて、場所は重要だと思う。懲戒認定ではそれでいい。

性被害を訴えている女性の立場を尊重する姿勢は皆無。どう見ても男性職員寄りの発言ばかりだが、新倉弁護士の発言を受けた医師会の大西浩之常任理事(*現在は副会長。医師会の会議で池田氏の「合意論」を補強)は、「トラブルがあった9月30日の後も、(被害を訴えている)女性から会いたいと言ってるので、私は強制的ではないと思う。保護しているドクターからの情報でBさんから10月7日に(被害を訴えている女性の姓名)の方から会いたい(とあり)、そのメールに男性職員は、忙しいから会えないというやり取りもある」として、被害を訴えている女性と男性職員との間で交わされたメールの記述を理由に、「強制的ではない」と短絡的な見方を示していた。その後の、新倉弁護士の発言はこうだ。

新倉弁護士
新倉弁護士
大西先生が言ったような物(女性の方から会いたいと送信し、男性職員が、忙しいから会えないと返信したメールのやり取り)があるなら、起訴はされない検察、警察は動かない
新倉弁護士
新倉弁護士
警察で受け取って、こっちで調べますねと周りから調べて行って、最後に本人から聞く。告訴があったとしても、男性職員に今いってないのは不自然ではない。(男性職員の代理人弁護士の)▲▲▲先生さえ、バーンと(男性職員と被害を訴えている女性の間で交わされたメールのデータを)出してくれれば、ここで話をしなくてもいい

こうなると真相究明を目的とする調査委員会の進行役というより、事件を起こした男性職員の罪を軽くするための主任弁護人。はなから「合意に基づく性行為」という結論に持っていくための動きだったとみられても仕方がない発言が続いていた。

新倉弁護士の本音が透けて見える発言もある。

新倉弁護士
新倉弁護士
懲戒事由を宿泊療養施設まで広げるのかどうか。

男性職員のハラスメントを調査対象にすると宣言しておきながら、懲戒事由を宿泊療養施設まで広げることを躊躇するかのような発言だ。明らかに整合性に欠ける。

推測になるが、療養施設でのハラスメントまで明らかにした場合、女性から訴えが出ている「強制性交」の信憑性が高まるということを見越した新倉弁護士が、対象を広げた調査を避けようとしたのではないか。そして実際には、宿泊施設でのパワハラも医師会内部のセクハラも握りつぶされ、男性職員にとって不利な事実が表面化することはなかった。

■ハラスメント隠蔽の背景

先週8日、男性職員が、常習的にセクハラ、パワハラを行う人物だったことを報じた(既報)。調査委員会の議事録からは、その事実が県医師会上層部の共通認識となっていたことや、同会顧問の新倉弁護士が、調査委の初回会合でハラスメントを懲戒処分の対象に加えると宣言していたことも明らかとなった。

医師会の女性職員にだけではなく、宿泊医療施設に勤務していた組織外の女性にまで及んでいたハラスメントの被害――。同時期に起きたのが、「強制性交」の疑いが持たれている事件だったという事実を重ねれば、池田会長ら医師会幹部による「合意に基づく性行為」という主張の信憑性は大きく揺らぐ。

おさらいになるが、鹿児島県への調査報告書に記された医師会の主張はこうなっている。
1 宿泊療養施設における性行為は、「合意」に基づくものだった。
2 これまで男性職員が就業規則に反した処分に処せられるようなことはなかったし、宿泊療養施設の立ち上げや運営、医療機関のクラスター問題などに尽力しており、宿泊療養施設の看護師からも評価されている。
3 一定の社会的な制裁を受けている。
――以上の理由から 情状を酌量し、停職3か月の処分にする。

調査委員会の議事録と、前稿で紹介したハラスメントを証明する証拠となるメール画面から導き出されるのは、県に提出された調査報告書の内容が、真相を隠して都合のいいように捻じ曲げられた――つまりねつ造された――ものだったのではないかという見立てだ。真相隠しの目的は、言うまでもなく2010年から続く池田体制の維持。今年5月の医師会長選挙を控えていた池田氏やその周辺が、大した根拠もなく吹聴してしまった「合意があった」を引っ込められなくなり、歪曲された筋書きに沿った調査結果を求めた可能性がある。女性の人権を顧みない調査結果を導き出したのが医師会側についた弁護士たちだったとすれば、残念というしかない。

ところで、取材を進めてきたハンターの記者は、男性職員のわいせつ行為が強制性交だったか否かを検証する上で、重要な役割を果たすことになる証拠を掴んでいる。もちろん医師会は、その証拠も保有しているはずだ。次の配信記事で、「証拠」が残された経緯に迫りたい。

 

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