先月29日、東京地検特捜部が所得税法違反容疑で日本大学理事長の田中英寿容疑者(12月1日付で理事長辞任:74歳)を逮捕した。
特捜部が捜査を進めてきた背任事件に絡んで逮捕・起訴された元理事の井ノ口忠男被告と医療法人「錦秀会」前理事長の籔本雅巳被告から、日大板橋病院の建て替え工事に関する謝礼として現金を受け取り脱税した疑いだ。
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突破口になったのは、特捜部が田中容疑者の自宅と同じ建物にあるちゃんこ料理店で見つけ出した現金2億円。さらに田中容疑者逮捕後には、ちゃんこ料理店従業員宅の家宅捜索で、現金2,000万円が発見されている。
「前理事長は脱税で逮捕となったわけですが、疑惑はそれだけにとどまりません。背任についても、徹底的に捜査してほしい」と訴えるのは、ある日大の関係者。「でも、一抹の不安が残る」と表情を曇らせる。
田中容疑者は当初、東京地検の任意での調べに対して容疑を否認。逮捕後、理事長は辞任したが「理事」にとどまろうとしたことから「理事解任」となった。「裁判で無罪を争い、大学に復帰するつもりだろうか」――その日大の関係者は、内部での田中容疑者の「悪行」の追及や検証に、田中容疑者の姿勢が影響を与えるのではないかと懸念する。
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田中容疑者についてはこれまでも、出入り業者からのカネの授受、暴力団との交際、裏口入学など多くの疑惑が浮上していた。政治家との不透明な関係についても、様々な噂があった。そうしたことから、日大の関係者に「謀議の場」「夜の理事会の場所」などと呼ばれていたのが、件のちゃんこ料理店だ。日本最大クラスの学校法人とされる日大の巨大な利権は、業者の垂涎の的だ。ある中小ゼネコン関係者はちゃんこ料理店に行った日のことをこう打ち明ける。
「日大の有力OBを通じて、仕事を受注したいと何度も依頼。理事らとも話ができたが『直接、田中理事長に話してくれ』と言われて、ちゃんこ料理店に行きました。そこには、田中理事長と側近が2、3人いました。その時、田中容疑者は『ご苦労様』と言うだけ。こちらは『ぜひ、お付き合いをよろしくお願いします』と代金を払って帰りました。しばらくして『日大の〇〇の祝賀会がある』などと何度か会合のお誘いが側近からありました。要は、そこにいくらか包んでカネを持ってこいというサインでした。相談して何十万円かお祝いとして持参しました。そういうことが何度か続き、田中理事長が再任されて時には、直接ちゃんこ料理店に食事に行って、お祝いを置いて帰りました。すると、やっといくつかの仕事がとれるようになったんです。だが、数十万円が何度も続けば、すぐに数百万円ですよ。うちのような中小クラスのゼネコンでにとってはすごく厳しい話なんです。結局、そのうち、発注はなくなりました」
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ゼネコン関係者が言うような現金授受などの場を仕切っていたのが田中容疑者の妻であり、井ノ口被告だったという。井ノ口被告は背任事件では「謝礼は、田中容疑者の妻を通じて渡した」などと証言していることから、東京地検はさらに捜査を広げていくとみられる。
「東京地検特捜部が次に注目しているのは、田中容疑者による裏口入学疑惑ではないかと、学内では噂になっています。スポーツ推薦枠などを使った裏口ルートがあるというのはちょくちょく聞く話。ある理事が田中容疑者から命じられ裏口担当をやっていた、なんて話もあります。事実なら、ぜひメスを入れてほしい」(前出・日大の関係者)
日大は、2018年と17年の2年間に医学部卒業生の親族ら10名を不当に優遇し、合格させていたことを認めている。合格点にまったく届いていない受験生を「合格」としていたこともわかっている。その際の記者会見で日大側は、「裏口入学? 裏口の定義が何かわかりません」などとすっとぼけた回答をしていた。
田中容疑者は逮捕前、東京地検の任意の調べには「相撲取りです、細かいことはわからない」などと否認。周囲には「逮捕なんてありえない、オレはシロだ」と繰り返し無罪を主張し、「オレが逮捕なんてなれば、知っていること全部、ぶちまける」とまで語っていたという。現実に逮捕された田中容疑者が「ぶちまける」のは、脱税の手口なのか、政治家へのカネの流れなのか?