鹿児島県警幹部が事件捜査に不当介入し、鹿児島西警察署が対応すべき告訴状を強引に鹿児島中央署に受理させていた問題で、同署が同一人を“被疑者”として『取り調べ』しながら同時に“被害者”として『聴取』を行うという、非常識な事態を招いた“証拠”をハンターが入手した。背景にあるのは……。
■不当な捜査指揮示す内部文書「告訴・告発事件処理簿一覧表」
ハンターが入手したのは鹿児島県警の内部文書「告訴・告発事件処理簿一覧表」2枚。いずれも同じ案件に絡むもので、本筋は昨年1月に男性Sが強制性交の疑いで告訴された事件だ。
これに対しSは同年3月、被害者側の関係者を名誉棄損で訴え事実上の反訴。県警幹部がこの告訴事案に不当介入し、本来鹿児島西警察署が対応すべきものを強引に鹿児島中央署に処理させていた。
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「警察一家」の身内が訴えられた本筋の事件を矮小化し、被害者側の関係者に攻撃を加えようとする歪んだ意図が明確になる事態。一連の捜査を指揮している県警幹部の姿勢は、鹿児島県警の腐った体質の象徴だ。
では、不当な捜査指揮とはどのようなものだったのか――?それの経緯がハッキリと記載されているのが、下の2枚の「告訴・告発事件処理簿一覧表」である。
まず上掲の1件目。赤い四角で囲んだのが、被害者がSを告訴した事案についての記録。事件として「認知」された日は「R04.01.11」となっているが、これは告訴状を提出しようとした被害者を、鹿児島中央署が「門前払い」にした日だ。弁護士の抗議を受け正式受理したのが「R04.01.17」。ここまでの記載に間違いはない。問題は、ここからだ。
「R05.06.09」に『検挙』となっているが、これは『処理経過』にあるとおり、事件を鹿児島地検に送付した日のことである。ただし、捜査の遅延やSの父親が警察官だったことを国会で追及された警察庁刑事局長が、「要件が整っていればこれを受理し、速やかに捜査を遂げて検察庁に送付する」と明言した答弁内容とはかけ離れた、追い込まれた末の事件送付だった。事件送致の際、警察は起訴の必要性について意見書を付けるが、通常なら起訴を求める「厳重処分」の事案であるにもかかわらず、鹿児島中央署は“上層部”の意向で、ワンランク落とした「相当処分」を付したという話さえある。
注目してもらいたいのは、①の記述――『R05.01.28被告訴人の取調べを実施』と、②の記述――『R05.2.24被告訴人の取調べを実施』だ。両日とも被疑者であるSを「取調べ」したことになっている。後述するが、この両日の「取調べ」が本当のことなのかどうかという点に、もう一件の事件処理状況が重大な疑義をもたらすことになる。
それが下の文書。強制性交で告訴されたSが、こともあろうに被害者の関係者を筋違いとみられる事実上の反訴に及んだ件だ。文字はハンターの編集部で加工したが、「捜査主任官」も「処理担当者」も前掲の処理簿と同じ警察官である。
まず、赤い★印で示した2行―『R4.3.31 10:00 告訴相談受理、鹿児島西署管轄と判明』と『R4.4.11 上層部から当署で処理方針との伝達がなされた』が、警察幹部の“不当な捜査介入”の証左だ。
鹿児島県警はもちろん、他の都道府県警察の幹部OBや現職にまで聞いてみたが、こうした記述は「見たことがない」と口を揃える。当然だ。鹿児島西署が扱うべき事案であると分かっていて、『上層部』とやらが無理やり中央署で処理するよう指示したからで、ほとんどの警察関係者は、この2行が“不当な捜査指揮の証明”であることを見抜くという。つまり、捜査指揮に不満があるからこそ、こうした例のない記述が残ったということだ。
その結果、前述したSが告訴された事件の処理簿の記載である①の記述――『R05.01.28被告訴人の取調べを実施』と、②の記述――『R05.2.24被告訴人の取調べを実施』の信憑性が崩れる。
Sが名誉棄損を訴えた事案の③と④の記述を見れば一目瞭然。なんとSを被疑者として『取調べ』したはずの『R5.1.28』と『R5.2.24』に、Sが『被害者』となって『告訴事実に関する聴取』が行われたことになっているのだ。前稿までに指摘してきた《捜査員が被疑者Sに「あなたがやったんですね!」と追及しながら、「Sさん、被害にあわれて大変でしたね」と告げなければならなくなる》――という、テレビドラマでもお目にかかることのない取調室の茶番が、実際に演じられていた。
「処理経過」の記載の仕方もかなり異なっている。Sが告訴された事案では出来事に時間が明示されていない。一方、Sが告訴した事案の処理簿の「処理経過」は、同じ時系列でも“時刻”が分刻みで記されている。「取調べ」と「聴取」の時間を変えて公平性を担保したと主張するための布石だったのかもしれないが、しょせんは言い逃れ。処理簿の記述に嘘はないという前提に立てば、こうした非常識な過程を経て検察に送付された捜査資料に、信頼性はあるまい。
何度も指摘してきたが、Sの父親は、今年3月まで鹿児島中央署に勤務していた現職の警部補。その中央署の強行班係に、Sが被疑者と被害者になる両方の告訴事案を担当させるという、著しく公平性を欠く捜査指揮が行われたのは紛れもない事実だ。背景にあるのは、「警察一家」特有の身内を庇う体質であることは言うまでもない。一連の経緯からして、中央署が、強制性交の疑いで送検されたSの事件捜査に“手心”を加えた可能性さえある。
この異常事態は、強制性交事件をもみ消したい「県内有力団体最高幹部」の思惑と「警察一家」の利害が一致した結果ではないのか?つまりは「癒着」。その点については、稿を改めて詳細を報じる予定だ。