【速報】ヤジ排除尋問で警官が珍答弁|実力行使の要件、答えられず

発生から2年以上が過ぎた首相演説ヤジ排除事件で9日、排除被害者が北海道警察を訴えた国家賠償請求訴訟で初めて証人尋問があり、市民の排除にあたった警察官3人が札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)で証言台に立った。ほぼ終日にわたった尋問では、複数の警察官が有形力行使の要件について「お答えを控える」と発言する場面があり、関係者や傍聴人らを大きく驚かせることになった。

◇   ◇   ◇

提訴以来11回目を迎えた口頭弁論で最大の山場といえる証人尋問が始まったのは、9日午前10時半。一昨年7月に札幌市内で選挙応援演説中の安倍晋三総理大臣(当時)に「やめろ」などとヤジを飛ばした同市の大杉雅栄さん(33)を演説現場から排除した警察官2人と、同じく「増税反対」と叫んだ桃井希生さん(26)に長時間にわたってつきまとった警察官1人の、計3人が地裁に出廷した。

被告側代理人による主尋問では、これまでの道警側の主張に沿い、いかに大杉さんらの行為が危険なものだったかを強調する問答が続き、改めて警察の排除行為が警察官職務執行法に基づく正当な措置だったとの主張が繰り返された。

一方、原告側代理人による反対尋問では、複数の警察官がごく基本的な職務執行のルールを確認する質問に答えを返さない場面がしばしばあり、官僚や政治家の答弁に頻出する「仮定の質問には答えられない」という言い回しが繰り返し登場、傍聴人らを呆れさせることになった。

◆   ◆

ひときわ傍聴席がざわついたのは、本来ならば答えに窮する筈のない問いに証人が立ち往生してしまった一幕。警備・公安の警察官がはからずも本音をさらけ出してしまったという意味では、貴重な証言が得られたといえる。

原告代理人「一般的に、警察が有形力を行使するには法律の要件を満たしていなければいけませんよね」
警察「……仮定の質問にはお答えできません」

まず、そもそも原告側の問いは「仮定の質問」ではない。ヤジ排除の場面で実際に起きた出来事を尋ねているのでもない。文字通り「一般的に」、警察が国民の自由を奪うには明確な法的根拠が必要であるという、自明の事実を確認するだけの質問だ。まともな警察官ならば、「はい」と即答してやり取りは終わる。実際、問いを向けた弁護士は尋問後の会見で「まさかあそこで詰まるとは思わなかった」と驚きを隠せずにいた。

さらに驚くべきは、この日の法廷で同じように答えた警察官が複数いるという事実だ。少なくとも北海道の警備公安警察は、法の要件を満たさないで実力行使に乗り出すことがある、と認めてしまったことになる。一般の国民ならば暴行や逮捕・監禁などの罪に問われるような行為を、警察は法的根拠なしに行なっているというわけだ。

◆   ◆

この日の尋問ではほかに、以下のようなやり取りもあった。当時の現場で排除にあたった警察官たちは、言論の自由を定めた憲法さえ認めたくないようなのだ。

原告代理人「ヤジは憲法上、やってもいいという認識でしたか」
警察官「…個別の法令解釈についてはお答えしかねます」

原告代理人「いや、あなたの認識で違法か適法かと」
警察官「…個別の法令解釈についてはお答えしかねます」

原告代理人「えっ、違法か合法かわからなかったら、現場で対処できないんじゃないですか」
警察官「法令に基づいて適切な判断をしたと思っております」

原告代理人「うん、法令に基づいて判断してますね。ヤジは適法な行為ですか」
警察官「ヤジがあったか否かという問題ではなく、大声を出して興奮した人が安倍前総理の街宣車に迫ってきたので…」

原告代理人「興奮しないで飛ばすヤジだったらいいのね」
警察官「…仮定の話にはお答えしません」

さらに極めつけといえるのは、次に引く問答。このやりとりの際は、傍聴席からどよめきが止まらなかった。

原告代理人「当日、ヤジを飛ばす人がいるかもしれないという想定はあったんでしょうか」
警察官「ありません」

原告代理人「東京・秋葉原で何年か前、安倍首相の街頭演説に多くの人がヤジを飛ばして、安倍氏が『こんな人たちに敗けるわけにはいかない』と言ったのはご存じですね」
警察官「…認識はありませんでした」

原稿代理人「えっ、あなた警備を担当されたんですよね。…知らなかった?」
警察官「はい」

一連のやり取りから裁判長がどんな心証を抱いたのかは定かでないが、貴重な裁判記録が生まれたことだけは確かだ。本邦で政治家などの要人警護にあたる警備公安警察は、この程度の認識で現場に出ているという事実がわかった。

ヤジ裁判の証人尋問では、続く10日に原告2人と排除の目撃者2人、計4人が証言台に立つことになっている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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