今月16日、島根1区、長崎3区、東京15区の三つの選挙区で実施される衆議院の補欠選挙が告示される。自民党の裏金事件で国民の政治不信は増幅する中、とりわけ注目されるのが、自民党の柿沢未途前法務大臣が公職選挙法違反で逮捕され、議員辞職となった東京15区だ。
その15区で乙武洋匡氏を擁立した小池百合子東京都知事に「学歴詐称」の問題が再燃。7月の都知事選挙にも影響が出そうな状況となっている。
■小池氏擁立の乙武氏、自民は推薦見送り
自民党は当初、候補者擁立を模索していたが、最終的に断念。共闘を持ち掛けていたのが、東京都の小池百合子知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」が設立した「ファーストの会」。小池氏側が「五体不満足」で有名な作家の乙武洋匡氏を擁立したため、「人気抜群の小池氏が知名度ある乙武氏を推すとなれば、まず勝てると踏んで自民党としても推薦を出す方向だった」(自民党幹部)。
しかし、今月8日から9日にかけて事態は一変する。8日、乙武氏は出馬会見を開いて「ファーストの会副代表ですが、無所属で出馬します」と表明。過去の女性問題を問われると「5股とか言われますが、同時に5股、5人と不倫ではない」と苦しい説明に終始した。それもあってか、自民党が実施した世論調査では次ような結果が出ていた。
・酒井なつみ(立憲)18ポイント
・金沢ゆい(維新)15ポイント
・乙武洋匡(無)11ポイント
・須藤元気(無)9ポイント
・秋元司 (無)3ポイント
・吉川里奈(参政)5ポイント
・飯山 陽 (諸) 2ポイント
・根元 良輔 (諸) 1ポイント
自民党は、乙武氏が圧勝と読んでいたので「びっくりするような調査。乙武氏の女性問題が強い反発を受けていることを改めて痛感。いくら選挙に強い小池氏でも、このままじゃ勝てないんじゃないかと空気になってきた。婦人部が強い発言権を持つ公明党は、うち以上に乙武氏を毛嫌いしていて最初から乗り気じゃなかった」(前出・自民党幹部)
15区問題で迷走していた自民党は4月12日、小渕優子選対委員長が乙武氏について「乙武氏から推薦要請がなく、選挙区の江東総支部から推薦を出さないでほしいと要望された」とコメント。同党の「不戦敗」が決まった。
一方、小池知事は乙武氏をファーストの会が推薦したことを発表。国民民主党も追随し、13日、小池知事と玉木雄一郎代表が乙武氏の応援のためにマイクを握り「乙武、乙武、よろしくお願いします」と訴えた。だが、聴衆の反応はいま一つ。乙武氏と同様に小池知事にもスキャンダルが浮上しているからだ。
■再燃した「学歴詐称」 — 元側近がカイロ大卒業に異議
2020年、小池知事は2期目を狙った東京都知事選直前に石井妙子氏著の「女帝 小池百合子」(文藝春秋)が出版された。その時明るみに出たのが、エジプトのカイロ大学を首席で卒業したという経歴が虚偽ではないかという疑惑だった。
【参照記事】
・《緊急インタビュー|話題の書『女帝 小池百合子』の著者・石井妙子氏に聞く》
・《都知事への反論|『女帝 小池百合子』の著者・石井妙子氏に聞く》
エジプトで小池知事のルームメイトだった女性が「小池氏はカイロ大学に通っていたが1年で落第した」、「カイロ大学を卒業していない」と暴露。大騒動になったことは記憶に新しい。小池氏はすぐさまカイロ大学が出したという卒業証明書を手に都議会などで反論。エジプト大使館は、小池氏がカイロ大学を卒業した旨を記載した声明をフェイスブック上で公表した。これを機に風向きは一気に変わり、小池氏は同年7月の知事選で圧勝する。
今回は、小池氏の元側近で、東京都の特別顧問だった弁護士の小島敏郎氏が「小池氏の学歴詐称に加担させられた」と文藝春秋5月号で告白。記者団の取材に対しては「小池氏から、学歴詐称ではないカイロ大学を卒業したということでどうすればいいのかと聞かれた」「カイロ大学を卒業したという証明を出してもらえばよいのではないかとアドバイスした」「その案は小池氏に近いジャーナリストが作成して、すぐにエジプト大使館がフェイスブックで公表した」「小池氏がカイロ大学を出ていないということを疑うに足る合理的な理由がある」などと述べた。
スキャンダルが再燃した小池知事は、記者会見で「4年前の選挙でもカイロ大学のことが出た。いくら説明して、卒業証明書を見せても疑われ残念だ。フェイスブックはカイロ大学、エジプト大使館の意思で発出された。真実は卒業しているということ」と反論している。
これまで小池氏は東京都知事に転身後、2017年に希望の党、2022年には参議院選挙で国政進出を目論んだが思い通りにはなったいない。都民ファーストのある都議は、こう語る。
「小島さんは小池知事だけなく、都民ファーストの都議や区議の相談役のような存在。まさか小島さんがこんな告発に踏み切るとは思わなかった。小池知事に切られ、よほど腹に据えかねたんでしょう。知事は“乙武で勝って7月の知事選へ”――と思っていたはずなのに、事態はまったく逆方向に進んでいる。乙武氏の応援に入っても、江東区の有権者が冷たい反応なのは確か。小池知事のの人気をもってしても、勝ち目はなさそうですね」
弁護士でもある小島氏は、学歴詐称が公職選挙法違反にあたるとして刑事告発も示唆している。そうなると東京15区どころか知事選にも響きかねない。「女帝」の時代が、いよいよ終えんを迎える」ということなのか……。