7月8日午前11時半ころ、奈良市の近鉄西大寺駅近くで演説していた安倍晋三元首相が、銃撃を受けその場に倒れこんだ。
ドクターヘリで奈良県内の病院に搬送されたが、救命措置のかいなく死去。安倍元首相を銃撃した山上徹也容疑者(42)は現場で取り押さえられ逮捕された。事件現場の路上には、自作の銃が落ちていた。
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「安倍さんが来たのは11時20分くらい。それまで国会議員らの演説が続き、いよいよ安倍さんの番だと盛り上がっていた。演説をはじめて2分くらいで安倍さんの背後からすごい音がして、何かが飛んできた。爆発テロかと思い、伏せましたが、それから『救急車だ』『AEDありませんか』と大騒ぎになり、安倍さんが倒れていたので、撃たれたことが分かりました」――現場で安倍元首相の演説を聞いていた男性は、そのように語る。
現場で一部始終を撮影した動画のデータを入手したが、演説をはじめた安倍元首相の後方、車道をはさんだ場所に、山上容疑者の姿が映し出されていた(下の画像)。
演説の始まりから1分20秒後に山上容疑者が動き始める。そこから、1分25秒後にバーンという大きな爆発音が周囲に響く。
現場で見ていた女性は、次のように振り返る。
「2度目の大きなバーンという音と同時に、安倍さんがガードレールのところに倒れました。真っ青な顔で、胸のあたりから血が流れていました。安倍さんを狙った男は撃った直後、逃げることもなく平然としていたところを、黒っぽいスーツ姿の人たちに道の上に抑え込まれていました」
この日は参議院選挙の投票まであと2日という終盤戦の追い込み時期。全国的にも注目される京都選挙区の繁華街で、安倍元首相、岸田文雄首相、茂木敏充幹事長が街頭演説に立つとあり、大きな注目を集めていた。ところが、京都の前の予定だった長野は、急遽奈良県に差し替えられていた。ある自民党幹部が、動転した表情のまま声を絞り出した。
「もともと、安部元首相は長野県と京都市で演説する予定だった。しかし、選挙情勢から前日に予定変更。長野を取り止め、奈良が追加されて、その後に京都ということになった。急に変更された予定なので、奈良県警がキチンと警備ができていたのか疑問だ。テレビでニュースを見ていると他県での街頭演説と比較して、警備が薄いような感じも受けた」
安倍元首相は首相退任後、自民党の最大派閥である清和政策研究会(清和会)の会長に復帰。昨年10月の自民党総裁選では高市早苗氏を担いで敗れたものの、「数の力」を見せつけ、岸田政権下でもアベノミクスにつながる「積極財政」や憲法改正を主張するなど大きな影響力があった。
「前代未聞の元首相の銃撃、死亡で正直参議院選挙どころではない。暴力で言論弾圧をするというのは、許せません。参議院選挙は安倍元首相死亡の効果で圧勝ムードですよ。けど、最大のキングメーカー死亡で、その後の政局が流動的です。安倍元首相という重鎮がいなくなると、最大派閥、清和会がまとまるのか。それでなくとも、清和会は次の総理総裁候補が群雄割拠。西村康稔氏、下村博文氏、萩生田光一氏、世耕弘成氏ら複数いますが、どれも決め手に欠く。安倍元首相と近い高市早苗氏は清和会ではない。また、盟友関係にある、麻生太郎氏も安倍元首相亡きあと、清和会と共同歩調がとれるのか、そこも不透明。自民党の1強の中で党内は揺れそうです」(前出・自民党幹部)
逮捕された山上容疑者の奈良市内の自宅では、奈良県警の爆発物処理専門の捜査員が家宅捜索。拳銃や爆発物のようなものが押収され、危険性があると一時、マンションの住民へ避難命令が出されるほど緊迫した様子だった。山上容疑者は、海上自衛隊に在籍したことがあった。最近では、派遣会社に登録して仕事をしていたという。
「山上容疑者は淡々と調べに応じ『安倍元首相に恨みがあり、殺そうと銃撃した』『銃は自作で爆発物も作った』『安倍元首相に政治的な恨みはない』などと供述しています。だが、なぜ凶行に及んだのか判然としない。警備体制は、計画通りにできていたと思うが、こうした事態になった以上、不備を認めざるを得ない。言葉もない」(捜査関係者)