北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で、ハンターの報道であきらかになった過去の告発について、告発当時の北海道の担当課長が現在のパワハラとの関連性を否定する認識を示した(*参照記事⇒《道庁作成「隠蔽の証拠」を関係者が公開|葬られたパワハラ被害》。元課長は取材に「当時の教員が教育熱心なあまり、指導に『行き過ぎ』があったと理解している」と話し、問題への対応は「相談をくれた保護者さんにも納得していただけたはず」としている。
■食い違う証言
4月25日朝に札幌市内の自宅で取材に応じたのは、2011年6月から13年3月まで北海道保健福祉局医務薬務課で看護政策担当課長を務めた男性(68)。元課長は12年7月から8月にかけ、江差高等看護学院の学生の保護者から寄せられた相談に対応、教員のパワハラが疑われる事案の調査などにあたった。同時期に作成した保護者向けの文書では「学生を畏縮させるほどの強い指導につきましては、行き過ぎであると考えます」と、そのころの学院で不適切な指導があったことを事実上認めている。
この事案について、筆者が元課長の後任にあたる元道職員に確認をとったところ、「異動の際に申し送りなどがなく、そういう問題があったとは知らなかった」との証言を得られた。事実であれば、当時の問題は12年度内に解決し、パワハラを疑われる指導が一時的に収まったことになる。
一方、これまでハンター編集部に寄せられた卒業生・退学生らの証言では、江差でのパワハラは10年以上前から連綿と続いているとされている。だとすれば、9年前の事案はまさにパワハラの具体例。証言が食い違っているのは明らかだ。指導の行き過ぎなどではなく“パワハラ”だった場合、昨年から告発が始まった問題との間の連続性の有無が問題となる。
この疑問を元課長にぶつけると、次のような言葉が返ってきた。
「当時のことはあまりよく憶えてないのですが、たしか2組ぐらいの保護者さんから道政相談センターにお声が寄せられたと思います。対応としては、すぐに現場の教員などに確認をとりました。札幌の道庁まで呼ぶには到っていません。結果として『行き過ぎ』があったと判断したのは事実ですが、江差には教育熱心な先生が多く、熱心さのあまりそういうことになったのだと理解しています。今年になって報道され始めた問題が事実であれば、それはやはりハラスメントなんだろうと思いますが、当時の事案との関連性はないのではないでしょうか。『行き過ぎ』があった教員への処分などはとくにありませんでしたが、最終的には保護者さんにも納得いただける形で落ち着いたはずです」
元課長の言い分が正しいかどうかは、当事者である保護者の証言と突き合わせることで検証可能だ。報じてきた通り、当時の保護者は、知人を通じて今年発足した「父母の会」への情報提供を行っており、今後も同会の活動に協力を続ける可能性がある。新たな証言が得られ次第、改めて事実関係を検証することとしたい。
4月9日に道へ「要望書」を提出し、同15日付で文書回答を得た「父母の会」は、道からの回答が「学生や父母の願いに応えるものになっていない」と(参照記事⇒《父母会要望書に鈴木北海道知事が事実上のゼロ回答》、27日に改めて「緊急要請」を申し入れることを決めている。
(小笠原淳)
(※ 江差高等看護学院パワハラ問題のレポートを、現在発売中の月刊「北方ジャーナル」5月号に掲載しています。)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |