本サイトで折に触れ報告している鹿児島県警察の不適切な情報開示問題。ほかの都道府県警で当たり前に受理される請求を「存否応答拒否」で突っぱねた対応は第三者機関の審査により撤回を余儀なくされたところだが(既報)、本年に入ってハンターに開示された公文書について、およそ適切な情報開示とは言い難い対応があきらかになっている。隠す必要のない情報をみだりに墨塗り処理した「のり弁当」の如き文書を見るにつけ、紙と黒インクの無駄遣いに首を傾げざるを得ない。
◆ ◆ ◆
鹿児島県警がこのほど開示したのは、昨年1年間に県警で記録された不祥事のうち事件捜査の対象になった事案の捜査記録など。同県警はハンター・中願寺純則記者の請求に対し、計10件の事案に係る『本部長指揮事件指揮簿』などの公文書を一部開示した。それらの写しを入手した筆者は、地元・北海道警への同旨の請求で得られた文書とのあまりの違いに驚くこととなった。
結論を述べると、鹿児島の文書はことごとく「文書」の体裁をなしていない。意味のある情報が片っ端から墨塗り処理され、最低限の事実確認も困難になっている。例を挙げて比較すれば、それは一目瞭然だ。
改めて引き合いに出すのは、昨年11月配信の本サイト記事( 既報2)で伝えた北海道警の不祥事2件。現職警察官による強制性交事件(発生時の罪名)と、同じく交通違反事件の記録だ。
まず、前者の性犯罪の記録を紐解いてみる。当時の記事でも詳報したように、道警の開示した『事件指揮簿兼犯罪事件処理簿』には「令和5年3月28日午前0時41分頃」と発生日時が明記され、犯行の様子も「劣情を催し」「性交をしようと考え」「その反抗を著しく困難に」などと再現されていた。事件が釧路地方検察庁帯広支部へ送致された事実やその送致年月日も開示され、捜査を手がけた警察署が「帯広警察署」と明記されているのはもちろんのこと、捜査主任官の警視や調べにあたった警部の氏名も墨塗りされず、決裁した課長や次席の名も読み取れるようになっている。一般的に被害者などの特定を避けて公表されるべき性犯罪にあっても、この程度の開示は充分に可能ということだ。言うまでもなく、公文書は開示が原則。役所の情報は役所の所有物ではなく、国民の財産だからだ。
これが鹿児島県警の文書になると、事情が大きく異なってくる。手元にある『本部長指揮事件指揮簿』には「強制性交被疑事件」の事件名が記されているのみで、発生日時や犯行態様などはまったくわからない。計8枚の文書は意味のある記述がすべて真っ黒の「のり」で隠され、適切な捜査が行なわれたのかどうか、そもそも実際に事件があったのかどうかすら確認できない体裁だ。これを「開示」というのはあまりに無理がある。
同時に開示された「道路交通法違反(酒気帯び運転)被疑事件」の記録はさらに輪をかけて「のり」が多く、のっけから警察署の名や捜査主任官の氏名がべったり墨塗り。採取されたアルコール量が「呼気1リットルに0.15ミリグラム」と明かされるのみで、事件の現場や日時は完全に不開示。送致先の検察庁の名も隠され、否、送致されたかどうかも判断できない状態にされており、文書はただただ「酒気帯び運転がありました」という事実を語っているのみだ。
一方の北海道警。現職警察官の起こした交通事故の捜査記録として開示された『重要特異交通事故発生報告書』には、事故の発生日時や現場の記載があるのみならず、状況を示した略図まで添えられている。当日の天候や路面の状況、破損したタイヤの種類、制限速度の有無も明記されている。併せて開示された『指揮簿』には「同乗中の被疑者を負傷させた」との記述があり、それが護送中の事故だった事実を確認できるようになっている。
どちらが適切な情報開示なのかは、改めて言うまでもない。本サイトで繰り返し伝えているように、警察は日常的に事件・事故の情報を報道機関に提供し、軽微な交通違反などでもあっても場合によっては当事者の個人情報を公開するような役所だ。ならばこそ、身内の警察官が法令違反を起こした時には自戒を込めていっそう詳しい情報を、少なくとも一般市民の事件・事故と同じぐらいの情報を積極的に公表する責任がある筈だ。鹿児島県警がその責任を充分に果たしているとは、お世辞にも言い難い。
筆者の審査請求で決定が覆った同旨の公文書開示では2月上旬現在、県警からなおも具体的な進捗連絡が届いていない状況。いずれ「開示」される文書がどれほどの「のり」に覆われることになるかは、追って報告を続けたい。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |