北海道警察が特定の警官不祥事に係る公文書について、条例に基づく開示請求に適切に対応していなかったことがわかった。問題の文書は未発表の強制性交事件(当時)の捜査記録などで、本来であれば昨年8月に開示の対象となる筈だった。道警の担当部局は筆者の問い合わせに「意図的な隠蔽ではなく、単純な見落としだった」としているが、当該事件に関する一連の対応状況からみて、形を変えた「隠ぺい」が図られた疑いさえある。
■「隠ぺい」否定するも・・・
公文書の“開示漏れ”が伝わったのは、本年10月28日。筆者が定期的な開示請求の一環で道警本部を訪ねた際、担当者から謝罪の申し出があり、前年の開示請求に対して少なくとも2件の不祥事に係る文書が開示されていなかった事実が明かされた。
発覚のきっかけは、本年10月1日に筆者が道警へ寄せた文書特定依頼。昨年6月に起きた警察官による交通事故の捜査に伴って作成・取得された文書の特定を求めたところ、文書探索の過程で同事故の当事者が昨年10月に監督上の措置(懲戒処分よりも軽い制裁)を受けていた事実が判明し、これを機に改めて昨年1年間の開示請求への対応を精査した結果、同年5月に「所属長注意」の監督上の措置となっていた事案が強制性交事件として捜査されていたことがわかったという。事件は報道発表されておらず、当時の筆者の請求に対して一部開示された『監督上の措置一覧』では「異性に対し、不適切な行為をした」との記述があるのみだった。
当時の『一覧』を入手した筆者は昨年7月24日付で道警に追加請求を打診、同『一覧』に記録された事案の中に「事件捜査の対象になったもの」及び「報道発表されたもの」がある場合、それぞれの記録の有無をあきらかにするよう求めていた。これを受けた道警は8月上旬までに関係文書を特定、同年4月に免職処分となった住居侵入事案と同6月に所属長注意となった交通違反事案、計2件に係る捜査の記録などがあったとして8月8日付で筆者の再請求を受理、同22日にその2件に係る文書28枚を一部開示した。本来であればこの時、道警は5月16日付で所属長訓戒となっていた巡査長の事案について、強制性交事件の記録を開示すべきだったことになる。
今回の開示漏れ判明を機に特定された文書は、強制性交事件の『犯罪事件受理簿』など計28枚。前述の謝罪時に筆者の再請求を受理した道警は本年11月8日付で同文書の一部開示を決定、11日午前にそれらの写しを筆者に交付した。
■「不同意性交」、懲戒にせず軽い制裁
開示された文書によると、事件が起きたのは昨年3月28日未明。現場は不明だが、事件を捜査したのが釧路方面帯広警察署の捜査一課だったことから、帯広市のある十勝地方管内で発生した可能性が高い。
当事者が警察官だったため事案は本部長指揮事件扱いとなり、5月16日付で釧路地方検察庁帯広支部に送致された。墨塗り処理の多い海苔弁当状態で開示された『事件指揮簿兼犯罪事件処理簿』からは、次のような事実関係が読み取れる(※ 伏字は道警)。
《被疑者は、令和5年3月28日午前0時41分頃、■■■■において、■■■■に対し、劣情を催し、強制的に■■と性交をしようと考え、■■■■その反抗を著しく困難にした上、■■と性交したものである》(*下の画像)
事件を引き継いだ釧路地検帯広支部が容疑者の巡査長を起訴したかどうかは確認できておらず、巡査長が現在も警察官として勤務しているかどうかも不明。確かなのは、送検と同日付で本人が所属長訓戒という「監督上の措置」を受けた事実。これが不自然に軽い制裁であることは、警察庁が定める『懲戒処分の指針』を紐解けば一目瞭然だ。同指針では、「不同意性交」(法改正前は「強制性交」)をした職員へのペナルティは「免職」一択とされている。ところが実際は、クビどころか懲戒処分ですらない訓戒措置留まり。加えて、それらの事実は今回たまたま開示漏れが発覚したことであきらかになったもので、それがなければ永久に表面化しなかった可能性が極めて高い。
懲戒を避けて措置に留めたことやその事案が開示漏れとなったことの裏には、未発表の強制性交という現職警官による深刻な事件を隠蔽する意図があったのではないか――。請求人として筆者が問い合わせると、道警の担当部局はこれを否定、漏れの原因については単純な見落としがあった可能性が高いとし、文書を管理する部署と開示を担当する部署のいずれのミスだったのかはわからないとしている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |