「NHK除名」の会議資料が暴く記者クラブの談合体質

北海道・知床沖で沈没した「KAZU1」の取材過程で、NHKが遺族から『報道各社へ』という形で預かった資料を先行して使い、「独自ニュース」として放送。その後、遺族や他の報道機関から抗議を受け、兵庫県警記者クラブから「除名」された顛末については本サイトで報じたとおりだ(*参照記事⇒「KAZU1」取材合戦の裏で記者クラブを除名されたNHK)。

NHKの「除名」が正式に決まったのは5月27日の記者クラブ総会だったが、3日前の24日に開催されたクラブ加盟社の幹部が参加した「NHK問題・兵庫県編集部会議」で、「NHK除名」という流れが既に決められていたことが分かった。救いがたい「談合体質」である。

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兵庫県警記者クラブはNHK神戸放送局の能美龍太郎コンテンツセンター長に事情を聞いたが、同氏は各社の抗議について正面から受け止めようとせず、「真摯に受け止める」などと政治家のような回答ばかりを続けたことで無期限の「除名」となった。

ところが、ある記者クラブ関係者は「無期限は形だけ」と話す。
「兵庫県警記者クラブの中で、読売新聞と地元紙の神戸新聞が強硬にNHKの除名を訴えていた。朝日新聞と毎日新聞は、そこまでしなくともとの立場でした。というのも、除名になっても永遠にというわけではなく、いずれNHKは戻ってくるのだからというのが大前提だからなのです。つまり、談合組織内のけじめということです」

そうした中、ハンターが入手した会議のやりとりをまとめた資料から見えてきたのは、「記者クラブ」という特権を背景にした予定調和の世界。ジャーナリズムとは無縁の「談合」だった。

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24日の会議に呼ばれたNHKの能美氏は、1時間ほど説明をして退場。その後、クラブ加盟社の幹部たちがNHKへの処分を話し合ったが、冒頭から「NHKを除名したら県警のレクに出席できなくなる」、「除名になると、クラブに入れない、レクに出れない。兵庫県警はクラブとは別にNHKに対応しなければならない」などとNHKや県警の立場を心配する発言が相次いだ。なんとも親切な方々だ。

NHKは公共放送とされているが、実質的には「国営」。その看板があれば、記者クラブに加盟していなくとも取材は可能だ。それどころか、記者クラブの足かせがない分、自由な取材が保証される。例えば、「KAZU1」の事故における遺族への取材は、メディアスクラム回避のために「各社共同で」という申し合わせが記者クラブ内であったのだが、クラブから除名されれば、そんな合意とは無関係。豊富な資金力とスタッフの数で圧倒してくるNHKが好き勝手に動き始めれば、他社にとっては大変な脅威となる。NHKが記者クラブを無視して放送をはじめるとどうなのか――他社の幹部たちは、その点を危惧したのかもしれない。

会議では「NHKが開き直ったらどうするのか」との声もあがったという。さらに「謝罪文を出してもらい、収めるというのはありではないか」、「謝罪文を出さない場合はどうするのか」などと、処分の方向性さえ決まっていない中、除名後にどうNHKを復帰させるのかのすり合わせがはじまっていた。その結果、NHKが勝手に「独自ニュース」を出したことを咎めるのではなく、「幹事業務を怠った」という理由で除名処分にするという方向性が決まった。

期間については、表向き無期限となっているが、「これまでの除名は長くて3か月。1か月から3か月ってのが多い」と、実は「大甘」な内容になることを示唆。さらに、「復帰するときにはポーズで反省してもらわないと」、「謝罪文、詫び状を出してほしい」、「戻る時は幹事業務をしっかりやるといえば、戻りやすように」などと談合の寄り合いのような発言が続く。要するに、除名にはするが「謝罪文」で復帰、という道筋まで用意したということだ。これが、日本を代表するメディア各社が加盟する「記者クラブ」の実態である。

そもそも、なぜNHKが兵庫県警記者クラブを除名になったのか。それは沈没事故の遺族が、「KAZU1」の運航会社や桂田精一社長の対応などを疑問視して記者クラブで共有できるようにと託した資料を、NHKが出し抜いて「独自ニュース」として報じたからだ。

一番に考えなければならないのは、資料を“メディア全体”に託した遺族の思い。NHKがまず謝罪すべきは相手は、兵庫県警記者クラブではなく、資料を託してくれた遺族だったはずだ。そのことについては一切触れず、談合組織内の予定調和を優先させた記者クラブもまた、お粗末な集団と言うしかない。談合体質が染みついた記者クラブ制度が、この国の報道を歪めている。

 

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