組織内部の壮絶なハラスメント被害が明らかとなった福岡県久留米市の社会福祉法人「高良内福祉会」(田畑典健理事長)。同法人が運営する認可保育園「高良内保育園」は、理事長によるハラスメントに端を発する「法人売買」の動きに大きく揺れている。(*参照記事⇒揺れる保育の現場(1)|被害者が明かす「高良内福祉会」ハラスメントの実態)
「法人売買ではなく、理事長の交代だ」という言い訳も予想されるが、田畑理事長と後任理事長を名乗る女性が、二人の関係を確認した久留米市の担当職員に対し、幼稚な“ごまかし”で仲介業者が介在する法人売買の実態を隠そうとしていたことが明らかとなった。
■法人売買隠すための“ごまかし”
先月25日、法人の理事長を辞任すると宣言していた田畑氏あてに、投資家やM&Aの当事者が対象企業の経営状況や財務状況などを調査する「デューデリジェンス」のために用意する書類の一覧がFAXされてきた(*下の画像参照。デューデリ=デューデリジェンスのこと)。
このFAXを送ってきたのは、福祉施設などのM&Aを手掛ける東京のB社。同社のホームページには、《保育事業経営者様へ》《売り⼿側》《買い手側》といった言葉が並ぶ。
さらに、《保育業界に特化している当社が積み上げてきたネットワークをフル活⽤。売却・譲渡のご相談をいただいた際にご紹介できる譲渡先企業を多数確保しています》、《圧倒的な成約スピードと最適なマッチングを実現しています》などとあり、「成功報酬」については《成約基本料100万円+譲渡企業の時価総資産額に応じた額》といった内容が明記してある。つまりB社は、保育園売買を『仲介』して報酬を得る業者なのだ。
説明を求める園長らに対し、満足な答えが示せない田畑理事長。すると翌26日には、田畑氏が定められたルールを無視して勝手に決めた“後任の理事長”一行4人が保育園に来て、財務資料などを精査して帰っていったという。その直前、田畑氏と“後任の理事長”は、久留米市役所を訪れ担当課に挨拶していた。法人売買の実態を隠すための「ごまかし」は、その際に行われたものだ。
“後任の理事長”とされる女性(以下「Y氏」)は、兵庫県内で3か所の企業主導型認可外保育園を運営する株式会社の関係者。登記簿で確認したところ、Y氏は今年3月に取締役を辞任していた。
不可解なのは、その翌日に漢字表記の社名がアルファベット表記の別の社名に変わっており、本社の住所も京都市中京区→京都市東山区→兵庫県西宮市と転々としていること。保育という社会性の高い事業を営む会社にしては、珍しい動きだった。
先月26日、久留米市子ども未来部に出向いたY氏に同行していたのは田畑理事長一人。わざわざ出張してきていた仲介業者B社の社員は顔を見せておらず、久留米市はハンターが事実確認するまで同社が介在していることを知らなかった。すぐに見破られる「ごまかし」があったのは、この時だ。
久留米市側の説明によれば、いきなり挨拶にきたことに疑念を抱いた担当職員は「お二人はどのようなご関係ですか?」と聞いた。それに対する答えは「ええ、まあ」「ちょっとした知り合い」。話をそらしたことが明白だったため、「おかしい」と感じたという。
何も問題がなければ「東京のB社という仲介業者の紹介」と打ち明けていいはず。「ちょっとした知り合い」などというその場しのぎのごまかしは、違法な「法人売買」が把握されるのを避けるための対応だったとみられる。
保育をカネ儲けの道具にしている東京の仲介業者、所轄庁を平気でごまかす関西から来た「後任の理事長」、ハラスメント加害を棚に上げ保育園を売り飛ばそうとする法人理事長――この人たちの視界の中に、「こども」の姿はない。