「安倍辞めろ」ヤジ排除訴訟結審、原告ら渾身の陳述

本サイトで折に触れ報告してきた首相演説ヤジ排除事件で24日、排除被害者が地元警察を訴えた国家賠償請求訴訟が札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)で審理を終えた。法廷で意見陳述に立った原告2人は「この国が民主主義を続けるのか、やめるのか、それが問われている」「ヤジさえ飛ばせない社会で、いったいどのような表現の自由が認められるのか」と強く訴え、裁判所に適切な判断を求めた。提訴から2年あまり続いた争いは来年3月下旬、一審判決の言い渡しに到ることになる。

■警職法要件が争点

北海道警察を訴える裁判を起こしたのは、一昨年7月に選挙応援演説で札幌を訪れた安倍晋三総理大臣(当時)に「安倍やめろ」などとヤジを飛ばして警察官に排除された大杉雅栄さん(33)と、同じく「増税反対」と叫んで警察官からつきまとい被害などを受けた桃井希生さん(26)の2人。同年12月に大杉さんが訴えを起こし、のちに桃井さんが合流した裁判では、これまで13回の口頭弁論が設けられ、実力で市民を拘束した警察の対応の違法性が問われてきた。言論・表現の自由を不当に侵害されたと訴える原告に対し、被告の道警は排除行為を警察官職務執行法に基づく適切な措置だったと反論。双方の主張は真っ向から対立し、当時の現場が警職法に言う「急を要する場合」だったかどうかが争点となっている。

24日の法廷では、原告の2人が最後の意見陳述に臨み、多くの支援者らに見守られながら裁判に込める思いを語った。

国賠提訴に到るまでの刑事告訴や検察審査会申し立てなどがことごとく奏功しなかった結果を改めて振り返った大杉さんは「権力の濫用を防ぐチェック機構がこの国ではほとんど機能していない」と批判、「市民がその責任を追及しようとしても解決どころか真実にすら辿り着けない。現場の警察官からたった一言の謝罪を聞くことさえ果てしなく難しい」と、この2年間で抱いた不条理な思いを吐露した。争いのある警職法の要件については「問われていることはそのような個別の法律に留まるものではない」と指摘し、次のように訴えた。

「政府の最高責任者を名指しで批判する言論の自由・表現の自由が認められるのかどうか。違法な暴力行為、言論弾圧を行なった警察が裁判所に裁かれるのか、それとも治外法権が追認されるのか。つまるところ、この国は民主主義を続けるのか、それとももうやめるのか。それこそが、この裁判を通じて本当に問われていることであり、多くの市民やメディアが関心を寄せる理由であると思います」

続いて証言台に立った桃井さんは、排除行為の違法性が認められなければ言論の自由が形骸化するおそれがあるとし、「公共の場でヤジさえ飛ばせない社会で、いったいどのような表現の自由が認められるというのか」と訴えた。その「自由」を享受するのが「一部のエライ人」だけであってはならないと、改めて次のように述べている。

「肩書きがなく、組織もなく、友人さえいなくても、どのような人にでも表現の自由はあります。それが人権というものだと思います。さまざまな不平等、明らかな差別がはびこるこの社会では、それに抵抗する声を上げなければ私たちは尊厳を持って生き続けることができません」

被告の道警はこれまで同様、当時の原告2人が「興奮状態」だったなどとし、現場では「危険な事態が発生していた」「トラブルが発生する危険が生じた」と、飽くまで排除行為が適切な職務執行だったと主張。さらに「組織的に政治的意見を排除する方針などなかった」と、飽くまで排除行為に言論を封じる目的はなかったと抗弁した。

■判決は来年3月下旬

訴訟は北海道外からも大きな関心を集め、弁論終結にあたっては複数の支援者が海を越えて札幌に足を運んでいる。岐阜・大垣市から訪れた近藤ゆり子さん(72)は、風力発電施設の建設をめぐって地元の公安警察が市民の個人情報を関係業者に提供していた問題で現在、国賠訴訟を闘っている原告の1人(来年2月判決)。札幌のヤジ排除事件も深刻な問題と捉えており、当日は大杉さんらにエールを贈るため札幌を訪れた。

「排除事件を知り『公安はとうとうここまでやったか』と思いました。彼らは権力にとって都合の悪い人間を監視する。監視から排除までは連続しているんですが、ここまでやったのかと。公安を律するきちんとした法や監視機関は何もなく、実際に権力の手先として動いています。しかもどんどんひどくなり、よりいっそう権力に近づいている。これに『おかしい』と声を上げる皆さんの活動に敬意を表します」(近藤さん)

原告の大杉さんは結審後の報告集会で、被告・道警の姿勢を「裁判に勝つことよりも『真実をあきらかにしないこと』に力を入れているようだ」と評し、「判決では排除の違憲性に言及して欲しい」と裁判所への期待を述べた。同じく桃井さんは「表現の自由について改めて考えた2年間だった」とこれまでを振り返り、「その自由を認める判決になって欲しい」と語った。

注目される一審判決は来年3月25日、札幌地裁で言い渡される。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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