田川郡大任町は人口約5,000人。筑豊地区にある小さな町だ。町政トップは、今年6月からハンターが追及を続けている県町村会の会長で全国町村会の副会長も務める永原譲二氏。永原町政については、法を無視して入札結果を隠したり、公共事業の関連文書を隠蔽するなど、疑惑まみれとしか言いようのない行政運営の実態が明らかになっている。
歪んでいるのは町政だけではない。永原氏を巡っては、常習的な賭け麻雀や選挙後の買収行為が疑われる事態となっており、町長としての資質、資格が問われる状況だ。その永原町長が君臨する同町の町議会副議長が、今月20日、県庁内で記者会見を開き、狂った町政の実態について告発した。
■副議長がハンターの報道を裏付ける告発
会見を開いたのは、6年以上一般質問が行われてこなかった大任町議会の次谷隆澄副議長。今年3月と12月の議会で一般質問するため質問通告(下、参照)を行ったが、町執行部の圧力によって質問の機会を奪われたため、会見を開いたという。
「大任町では2元代表制も議会制民主主義も死んでいる」と話す次谷副議長が町長に聞こうとしていたのは、コロナ感染や賭け麻雀、菊池温泉での宴会といった疑惑について。町政上の疑問があれば質すのが議会の使命であり、町長自身の違法行為が疑われていればなおさらだ。しかし、“一般質問を行ったら、今後執行部は議会側に協力しない”という町長サイドからの圧力に屈した町議会は、次谷氏の質問を認めようとしなかった。やむなく次谷氏は、町の異常事態について問題提起するため、記者会見を開くことを決意する。何を訴えようとしたのか――?同氏が会見で配布した資料から、一部を抜粋する。
今年1月、コロナ禍で国民が多大な犠牲と我慢を強いられる中、自粛を呼びかけるべき立場にある永原町長自身が、多人数で大分県内にある別荘にこもるなどしてコロナに感染していたことが分かりました。
さらにはその別荘で、長年にわたり町長主催の賭け麻雀が行われてきたことも分かっております。
そうしたことは、すでに一部の報道でも明らかになっているところですが、別荘の賭け麻雀に参加し、コロナに感染した複数の関係者から私自身が直接詳細を聞き取っており、常習賭博の疑いがあるものと考えております。
また、熊本県菊池温泉で町長選挙の慰労会が開かれ、いわゆるピンクコンパニオンを呼んでの宴会に町長や町議1名が参加し当選御礼をしたこと、さらには宴会や宿泊の費用を町長の弟が支払ったとみられることなどを、複数の参加者から聞き取っております。この件については、公職選挙法上の問題が検討されるべきだと考えております。
10月8日には、一連の事実を知らせようと町内でビラを配っていた町民が、永原町長に襲われるという事件が起きました。ちなみに、町長が特殊警棒を振るって恫喝した若者の中には、私の息子もおりました。
役場の職員として町長の所業を知る息子は、どうしても町民に事実を知らせたという一心で、町民団体に加わったと言っております。町長は、「役場の職員がビラまきをしているという情報があったので探していた。私の息子が向かってきたから警棒を出した」と主張しているようですが、それが真っ赤な嘘であることは、周りにいた町民が知っています。そもそも、部下の職員に話をするのに、なぜ特殊警棒が必要だったのでしょうか?
私はつい数年前まで、町長と極めて親しい関係にありました。だからこそ、永原氏の行ってきた行為について、熟知しております。これ以上、町民を騙し、町政を歪めさせるわけにはいきません。町会議員は町政のチェック役であり、町民が疑問に思っていることを質す役割を担っています。そうした考えに立った私が、最初に町政の実態について一般質問で質そうとしたのは今年の3月でした。
そこで町長のコロナ感染に関することなど数点についての質問通告を行ったのですが、信じられないことに、町の執行部が議会事務局に対し、「一般質問するなら、執行部は今後一切議会に協力しない」と脅しをかけてきたのです。
執行部イコール永原町長です。恐れをなした議会側は、全員協議会を開いて私の質問を取り下げさせたのです。
状況が一変したのは今年の6月頃からでした。インターネットのニュースサイトが、町の情報公開制度が機能していないことや建設工事の入札情報が隠蔽されていることを報じ始めると、町長の周りがバタバタとし始めました。
一連の報道に接して私も勇気づけられ、議会だよりで少しでも状況を伝えようとしましたが、これも執行部の抵抗にあって頓挫しました。町民のためにもあきらめるわけにはいきませんでしたから、次の機会には何としても一般質問で、町長と対決する覚悟でした。
ご存じかもしれませんが、大任町議会では6年以上、一般質問が行われてきませんでした。町長が独断で町政運営を進め、議会はそれを事後承認するということが続いてきました。つまり、大任町では2元代表制も議会制民主主義も死んでいるのです。
わたしは12月議会が最後の機会になると思い定め、職をかけて12月議会で町長のこれまでの所業について、一般質問で質そうとしました。
提出した質問通告をお配りしておりますが、質そうとしたのは、主に先ほど申し上げた賭け麻雀や選挙違反といった疑惑についてで、コロナ感染についての質問は、その導入部分に過ぎませんでした。
しかし、通告したとたん、議長から呼び出しがあり「質問は受け付けない」と断言されました。それでも私があきらめなかったため、こんどは議長が「コロナ感染については質問させるが、後の質問は認めない」と言い出しました。
二元代表制の一方である議会のトップが、町長を守るため、町民の知る権利や議会の質問権を奪おうというのです。暴挙です。これでは議会の使命が果たせないばかりか、ただのお飾りになってしまいます。承服できないと伝えたとたん、議長は「辞任届」を持ち出してきました。なんとしても私の質問を止めようとしたかったのでしょうが、開いた口が塞がりませんでした。
私は熟慮の末、10日の議会で、議長の辞任が認められた段階で「流会」を宣言し、13日からの議会再開までに、皆さんでこの状態がまともなものなのかどうか、問題提起することにしました。長くなりましたが、以上が流会にした理由です。
重ねて申し上げますが、議会と町政の実態を知ってもらい、共に考えてもらうための問題提起だったということを、ぜひご理解していただきたいと思います。
次谷氏は、ハンターが報じた町長の賭け麻雀や選挙の事後買収疑惑について自ら調査。複数の関係者から直接話を聞き、確認を取っていた。町長の暴走を町民に知らせようとビラを配布していた若者らを、永原氏が特殊警棒を振るって襲ったことについても厳しく批判している。襲われたうちの一人が、役場に勤務する副議長の子息だったというから、怒り心頭だったはずだ。
町長がハンターの配信記事を参考にしたビラの配布に異常なまでの敵意を示したり、議会の一般質問を拒んだりしたのは、正月のコロナ感染と賭け麻雀がセットになっていたからに他ならない。感染が知られれば、感染した場所や経緯を追及され、結果として賭け麻雀が発覚する。違法行為が明るみに出るのを恐れた町長サイドは、法律はもちろん2元代表制や議会制民主主義を無視してまで、真相究明への動きを止めるしかなかったということだ。日本全国を見渡してみても、これほどルールや常識を踏みにじる自治体はあるまい。
■常習賭博に買収疑惑 ― 問われる永原氏の刑事責任
「賭け麻雀」は、事実関係が証明された段階で、公人としての資格がなくなる犯罪行為だ。黒川弘務・元東京高検検事長は新聞記者との賭け麻雀が露見し更迭されたし、飯塚市の斉藤守史市長(当時)は、役所の業務時間中に賭け麻雀を繰り返していたことが分かり、責任をとって辞任している。では永原町長の賭け麻雀は、どのような形態で行われていたのか――ここで、おさらいしておきたい。
永原町長の娯楽の一つが、側近らを集めての賭け麻雀。暴力団幹部だった人物から町長の息子が買った日田市天ケ瀬の別荘では、7~8年前から、ほぼ同じメンバーが顔をそろえて雀卓を囲んでいたという。正月には賭け麻雀に興じた挙句、参加したメンバーとともに新型コロナウイルスに感染したことが分かっている。
賭けのレートは非常に高く、チップ1枚1,000円(東1局から始めて南4局を1半荘とし、半荘終了時に3万5,000点を原点にして、マイナス1,000点ごとに1,000円を支払う)、これとは別に「ゲーム代」(いわゆる場代です)を1回(1半荘終了)ごとに永原氏に500円支払うことになっていた。このゲーム代は、飲食費として使われる決まりになっているという。
今年1月元旦から2日までに行われた半荘約20回で、一人の参加者が約10万円~15万円ほど勝ち、町長ら3人ががそれぞれ約5万円~6万円負けたというから、別荘レートは黒川元東京高検検事長のケース(レートはいわゆる点ピン。1,000点を100円と換算)の10倍にも上るものだった。常習性があることと合わせれば、極めて悪質と言わざるを得ない。
違法性が問われる行為は賭け麻雀だけにとどまらない。関係者の証言によれば、3月の町長選挙で5選を決めた永原氏を囲む二十数名は、コロナ禍の4月に熊本県の菊池温泉で、ピンクコンパニオンを呼んでの宴会で乱痴気騒ぎ。選挙のお礼と称して開かれた宴会の経費は町長の弟が全額支払ったという。いわゆる事後買収の疑いが持たれており、刑事告発される可能性もある。
疑惑まみれとなった大任町政だが、最大の問題は町長が絡む公共事業利権。ハンターの追及は年明けからが本番となる。