先進国では、医薬品のほとんどが営利企業によって研究・製造される。企業は利益を上げる必要があるので、それ自体が悪いことではない。
一方で、患者に数日から数週間、薬を投与して病気が完全に治るとしたら、その人は幸せで健康的に過ごすことになるが、製薬会社のビジネスとしては成立しない。
コレステロールを抑えるスタチンのような薬を売り、それを毎日飲み続ければ、ビジネスとして成立する。高血圧を治療するための血圧降下剤も、同様にビジネスとなる。血圧の薬は血圧をコントロールするもので、根本的な原因を治療するものではないからだ。倫理的には問題があるかもしれないが、製薬会社が本当に求めているのは、慢性的な治療であり、一生飲み続ける薬だ。
かつて、製薬会社は胃酸を減らすためのH2ブロッカーを大量に販売していた。これは一生飲み続けなければならない。ところが、オーストラリアの胃腸科医バリー・マーシャルが、消化性潰瘍の原因の多くがヘリコバクター・ピロリ菌の感染であることを発見し、プロトンポンプ阻害剤や抗生物質を使ってそれを根絶する方法を編み出した。それにより製薬会社は利益を失うこととなった。
これらは別の視点からの問題も抱えている。それは、貧しい人々が罹患する病気を治療するインセンティブがないことだ。例えば、マラリアの治療はまだ不完全で、デング熱の治療も満足のいくものではない。しかし、これらの病気は主に貧しい地域の人々の罹患率や死亡率に大きな影響を与えるだけなので、製薬会社の視点では特効薬を開発するメリットがない。
現在の新型コロナウイルスによるパンデミックを終わらせるためには、ワクチンだけでなく、治療薬も必要なことは明らかだが、もし既存の薬、ジェネリックな抗ウイルス治療薬があれば、さらに効果的である。
そのした中、バイデン政権は、抗ウイルス剤の開発に32億ドルという巨額の資金を承認した。これは、メルク社とリッジバック社が開発している170万回分の新薬を前払いした金額。承認されれば、12億ドルで170万回分の投与が可能となるが、それは非常に高価な薬だ。
■「イベルメクチン」
北里大学の大村智博士が発見した抗寄生虫病の特効薬イベルメクチンが、コロナウイルス感染症に効果あり、との臨床試験が途上国を中心に報告され、米英の多くの医師も「効果あり」として予防・治療に使うよう主張している。
新型コロナの変異株の蔓延で感染爆発が起きていたインドでも、各州が抗寄生虫病の特効薬「イベルメクチン」の本格投与に踏み切ってから、感染者数・死亡者数ともに減少に転じている。
ペルーでも投与に踏み切った州は効果が出ており、医療体制が整っていないアフリカ諸国でも、イベルメクチンを配った国は感染者が少なく、配っていない国は感染者が多いと報告されている。
しかし、世界保健機関(WHO)や製薬会社はイベルメクチン投与に対し、先進国が出した治験データがないとして使用を阻止している。なぜだろうか?
米国の救急救命医有志の集まりFLCCCのの ピエール・コーリー博士(前ウィスコンシン大学医学部准教授)は次のように述べている。
「イベルメクチンのCOVID-19への使用における世界的な専門家の一人として、私は今日、声明を発表しなければならないと感じています。この声明は米国政府がメルク社と契約を結び、メルク社を潤すために税金を12億ドル投入すると発表したことを受けたものです。内部告発の対象となっている薬で、すでに入院中の患者さんで失敗している薬です。その薬を入院患者ではなく今度は外来患者で試験を行うというのです。すでに低コストで安全性が高く広く普及していて、外来患者だけでなく様々な疾患の段階で効果があることが証明されている薬がありながらです。
その薬には現在、世界中の独立した委員会から5つのレビュー論文が発表され、イベルメクチンの有効性が示されており、20以上の無作為化対照試験において死亡率の統計的に有意かつ大きな効果が示されています。にもかかわらず私たちは製薬会社にお金を渡して、すでに今あり利用できる薬以下の薬を作ってもらおうとしているのです。そのお金はイベルメクチンを国内に供給するために使われるべきです。これは、税金のとんでもない無駄遣いです。
その薬の効果を我々は理解しています。世界中でその効果が確認されています。複数の国がこの薬をガイドラインに採用しているという証拠があります。
メキシコでは、イベルメクチンを使った結果、病院は空になり、実質的にCOVIDを排除しました。アルゼンチンでは、イベルメクチンを用いたプログラムにより、入院の必要性が大幅に減少したとの報告がありました。インドでは、イベルメクチンを広く使用することで、多くの州で危機が回避されました。
私たちは、イベルメクチンに関してこのような行動をとった製薬会社に、これ以上お金を使ったり与えたりすべきではありません」
今年2月、メルク社は次のような声明を発表した。
――「イベルメクチンがCOVID-19に効くという証拠はない」、「大多数の研究では安全性データが不足している」、「この薬は安全でない可能性がある」
これまでに37億人に投与され「安全な薬」と認定されているイベルメクチンを、あえて「安全でない」と声明を出す同社の態度には違和感を覚える。
メルク社がイベルメクチンの効果を否定しなければならない理由は、まさに「企業の論理」にある。同社は現在、イベルメクチンとは別のCOVID-19の新薬(モルヌピラビル)開発に取り組んでいる。開発中の薬剤は、4月下旬には最終的な臨床試験に取り組み、9月ごろには承認申請を行う予定だという。しかし、この新薬には疑惑がある。
専門家は「新薬モルヌピラビルは、イベルメクチンと同じ分子特性を持っているように見える」という。つまり、モルヌピラビルはイベルメクチンのメカニズムの1つをコピーしたもので、「このメカニズムのコピーで、メルク社は既存の安価な薬剤の作用を再表示して稼ぐことができる」というわけだ。
メルク社としては、COVID-19に対して、イベルメクチンの効果が証明されては困るのだ。
■「イベルメクチンは効果なしと強調する論文」を拡散させる団体と学者たち
米国の権威ある医学界雑誌(JAMA)にイベルメクチンの効果に対する否定的な論文が投稿された。その後、国内でも論文を根拠にした「日本のイベルメクチン狂騒曲に見る危険性」という船戸真史医師の論説が発表されている。
「狂騒曲に見る危険性」とまで批判されれば、医師としては使用を躊躇してしまう。しかし、このJAMAの論文に対しては、米国の128名の医師の署名で「JAMA イベルメクチン研究は致命的な欠陥がある」との抗議文が出され、JAMAに対する批判が高まっている。
■国内の対応は?
国内では、2月に東京都医師会が、イベルメクチンのほかステロイド系の抗炎症薬「デキサメタゾン」の使用を国が承認するよう求めた。
衆議院予算委員会では立憲民主党の中島克仁議員がイベルメクチン使用を訴えた際に、田村憲久厚生労働相が、「適応外使用では今でも使用できる。医療機関で服用して自宅待機するという使用法もある」と答弁。菅首相も「日本にとって極めて重要な医薬品であると思っているので、最大限努力する」と発言している。
イベルメクチンや他の再利用薬(抗うつ剤であるフルボキサミンなど)が早期治療に有効だと承認されれば、現在試験中のワクチンを使用する必要がなくなる。なぜならば法律上、接種されているワクチンの緊急使用許可は「他に有効な治療薬が存在しない」ことを条件に認められているからだ。
万が一感染しても、イベルメクチンが身近にあれば、早期に家庭で治療することができ、ウイルスの複製を早期に防ぐことにより、大部分の人が病院に行かずに済む。しかし、厚生労働省は過去の薬害訴訟を恐れるあまりイベルメクチンの承認をためらい、米英など先進国が認めるまで何も決めようとしない。
早期承認が下りず医師の免責事項がないことにより、医師の判断で処方していることで、副作用が出た場合は医師が賠償責任を負うことにより使用を躊躇してしまう。だが、もし承認されれば、保険も適用されることから、処方する医師は一気に増えると予測されている。
パンデミック収束のために必要なのは、早急に治療薬の承認を下すという国の指導者の決断なのだが、残念ながらその姿は見えてこない。