北海道新聞でクラスター|原因は「ソファ飲み」「野球」?

北海道新聞本社(札幌市中央区)で今月中旬から編集局員の新型コロナウイルス感染が相継いでいる。同社は13日付で記者ら5人の感染を発表しているが、その後もさらに少なくとも2人の感染が確認されており、社内からは危機管理のあり方に疑問の声が上がり始めた。

■杜撰な危機管理で感染拡大

道新の報道発表によると、7月7日までに本社編集局報道センターの記者1人が咽喉の痛みや発熱などを自覚、PCR検査を受けたところ同8日に新型コロナウイルス感染を確認した。同日には同センターの別の記者の感染も判明し、また自主的に民間PCR検査を受けていたもう1人の記者も翌9日までに感染を確認、さらに11日に北海道政担当記者が、12日には部次長が感染していたことがわかった。感染者は計5人となり、13日までに地元保健所がクラスター(感染集団)発生を認定。5人は20歳代または40歳代の男性で、うち1人は感染力が強い「デルタ株」に感染していたという。

発表翌日の14日、同社は報道センターのある本社6階を消毒したが、その後16日までに同センターの幹部職員1人の感染が判明、さらに20日までに編集本部で1人が感染していたことがわかった(いずれも現時点で未発表)。編集本部の感染者は18日ごろから38度超の発熱があったが、感染が判明する日まで出社し続けていたという

先の13日付の発表で道新は「5人はいずれも終始マスクを着用しており、感染経路は特定されていません」としていた。職場内で感染対策が徹底されていたのであれば、5人、否7人はいずれも個別に、外部との接触を通じて感染したことになる。当の道新も同じ発表で、感染者の1人が6月下旬にいわゆる「ノーマスク団体」の講演会を取材していた事実を明かしていた。

だが、複数の証言者から筆者に届いた情報では、クラスターの原因は別のところにありそうだ。日常的に報道センターに出入りしている関係者は、次のように明かす。
道新では7月に大規模な人事異動があるんですが、センターでは6月下旬から毎晩のように異動対象者を囲んだ宴会が開かれていました。警察や市役所、道庁などに詰めている記者も本社に呼び出され、参加していたようです

証言者によると、宴会の現場は報道センターの応接ソファ。事情をよく知る現役記者の1人が、これを補足する。
宴会というほどオフィシャルではないですが、出稿後の一区切りついた時間、21時とか22時ごろにセンターのソファで何人かが飲んでいたのは事実です

さらに別の記者が「それだけではありません」と耳打ちするのは、次のような話だ。
感染者のうち1人は、7月4日に開かれた社内野球大会に出場しています。野球の参加者は若手が多く、民間PCRで陰性だったとしても、ちょっと信用できません。そもそも、緊急事態が解除されてから2週間足らずで野球大会なんて、報道機関のすることとは思えない。試合当日は、関連会社の女子社員などが応援に駆り出されていました

宴会と野球のいずれが社内の感染拡大を招いたのか、あるいはどちらも因果関係がないのか、外部からは検証しようもないが、少なくとも職場の危機管理のあり方として適切とは言い難いのは確かだ。

■「ソファ飲み」主導・幹部社員の正体

社内で「ソファ飲み」と呼ばれる宴会を主導していたとされるのは、先の発表後に感染が判明した報道センターの幹部職員。飲酒中は当然ながらマスクを着けておらず、しかもこの幹部は声が大きいことで知られる。毎晩のように飲みながら話す声は、同じフロアの別の部屋にまで響いていたという。

この幹部職員は、道新社内ではいわく付きの人物だ。かつて同社が新聞協会賞などを受賞した北海道警察の裏金問題報道にからみ、当時の道警幹部が裏金取材班のデスクとキャップを名誉棄損で訴えた際、同元幹部と“裏交渉”にあたった1人として知られる。元幹部が裁判に提出した証拠の中には、この裏交渉のやり取りを隠し録りした音声データの反訳が含まれており、くだんの幹部職員が元幹部に「早く裁判を起こして」などと促していたことがわかっている。いわば身内を警察関係者に売った人物で、その後裏金取材班の記者たちが事実上閑職に追いやられてからは編集局内で威勢を誇るようになり、ちょうど1年前に現在の幹部ポストに就いた

「上の人間は彼に何も言えない」とは、当時からの経緯を知る記者の証言だ。今回のクラスター騒ぎを受け、道新編集局は21日までに、感染のリスク回避を呼びかけるメールを局員に一斉送信したが、そこでは発熱後も出勤し続けた編集本部員の行動などを批判しつつ、かの幹部職員の「ソファ飲み」などについては一切触れていない。

メールを受けた記者の1人は、憤りとともに指摘する。
「そもそも幹部が感染対策を怠ったツケが現場に回ってきたのに、会社はその責任を問わないで、現場に責任をなすりつける。『またか』という思いです」

ちょうど1カ月前に旭川市で起きた新人記者逮捕事件で、道新は7月上旬の紙面を使って内部調査結果を読者報告したところだ。だがそこでは、逮捕された記者を現場に向かわせるまでの指示系統や逮捕後の警察対応などが一切明かされず、あたかも新人記者が独自の判断で公共施設に「侵入」したかのような印象を読者に与えることになった。社命で「侵入」したことがあきらかだったにもかかわらず、自社の記事で新人記者の実名を報じた理由も明かされなかった(他社報道はすべて匿名)。

つまり、何か問題が起きた時に現場に責任を負わせるかのような当時の会社の姿勢は、今回のクラスター問題にも通じているというのだ。

そして、2つの問題に共通するのはそれだけではない。今月中旬、地元誌『北方ジャーナル』編集部に届いた道新関係者とみられる人物からの告発文書には、先の「ソファ飲み」幹部について次のような証言が綴られていた(要約)。

旭川記者逮捕事件で彼は「実名に決まってるべや」と編集局で声を荒らげて実名報道を主導。記者逮捕報道と今回のクラスターの2つの事件は一見無関係のように見えるが、実は彼という人間で繋がっている

同じ趣旨の証言は、筆者が直接やり取りした複数の道新関係者からも得られており、事実ならば道警裏金取材班解散後の同社上層部の劣化を象徴する事件といえる。

旭川で起きた問題については本サイトのほか、先の『北方ジャーナル』最新号でも事件後の混乱などを報告しているが、その後も道新内部では労働組合を中心に会社の対応を批判する声が相継いで上がっており、また外部からもさらなる説明の要請や公開質問などが寄せられている。いずれも無視できない動きであり、これについては近く別稿で報告することとしたい。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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