カネまみれ五輪、裁判で浮き彫りになった森元首相の存在

東京五輪・パラリンピックの舞台裏で起きた贈収賄事件。スポンサーやライセンス商品の選定で便宜を図ってもらおうと組織委員会の理事だった高橋治之被告に賄賂を渡したとして、贈賄罪で逮捕された紳士服大手「AOKIホールディングス」の前会長・青木拡憲被告ら3人の初公判が先月22日に東京地裁で開かれ、3被告とも検察の起訴内容を認めた。検察側の冒頭陳述や関係者の供述調書から明らかになったのは、森喜朗元首相の事件への関与だった。

■冒頭陳述で明らかになった森元首相の存在

青木被告らは、大会のオフィシャルスポンサー選定や公式スーツのライセンス使用を認めさせようとして高橋被告を頼った。その見返りが、2017年10月から2022年3月にかけて高橋被告の会社「コモンズ」に送金された5,100万円だとみられている。時効の関係で立件された贈賄額は2,800万円となったが、冒頭陳述や証拠採用された供述調書から、高橋被告の背景に、組織委員会の会長を務めていた森喜朗元首相の存在があったことが分かった。

冒頭陳述で検察側は、理事会の決議で森氏にスポンサーなどの決定が一任されており、その森氏はマーケティング担当理事の高橋被告にスポンサー集めを任せていことを明かしている。

高橋被告が紹介したスポンサー候補は、組織委内部で「高橋理事案件」として特別扱いされ、できる限り実現するよう配慮されていたという。その一つが、青木被告関連の事案であり、次々に摘発された他の事件にも発展していた。

高橋被告は、以前から親しかった青木被告に「TIER3のカテゴリーなら5億円か6億円の協賛金でスポンサーになれる」と持ちかけたとされる。通常10億円以上とされていたスポンサー料からみれば、ほぼ半額。青木被告らは、最大の商機だと捉え、高橋被告と面会していた。この際、「他のスポンサー企業が支払う協賛金額を下回る見込み」と伝えられていた。

高橋被告は、部下に自身の意向通りに事が運ぶよう命じたが、その前に立ちふさがったのが権限を有する森氏だった。

「別のスポーツイベントに関連して森会長と青木会長の間に誤解がある」(冒頭陳述より)と判断した高橋氏は、2017年7月3日に自身の経営するステーキ店「そらしお」において、森氏、青木被告らの会談をセットし、誤解を解く工作を行っていた。その直後、組織委の「優先順位検討会」でAOKIの優先度がアップ。同年5月30日には森氏が、AOKIの5億円という格安スポンサー料契約を了解していた。

その後青木被告らは高橋被告に、公式スーツ採用にあたっての取り計らいも要請。2018年9月5日、森氏、青木被告、高橋被告らが再度会食し、森氏に「要望事項8項目の書面を渡し、高橋被告の後押しを依頼した」ことも、冒頭陳述で述べられている。

冒頭陳述を通じて明確になったのは、森氏が、高橋被告とともに青木被告らから請託を受ける立場だったということ。青木被告の要望は森氏をバックにした高橋被告が実現させ、森氏はその後、青木被告から「入院のお見舞い」として200万円を受領していた。一般的な見舞い金からすれば、桁違いの金額だ。

AOKIの特別扱いは、他にもあった。東京五輪・パラリンピックが新型コロナウイルス感染拡大で1年延期となった際、すべてのスポンサー企業は追加協賛金1億円を求められた。だが、青木被告は高橋被告に泣きを入れ、最終的には1,000万円の追加金に落ち着いていた。

■森氏を逃した特捜部

公判では、起訴事実を全面的に認めている青木被告らの、証拠採用された供述調書の朗読も行われた。森氏に高橋被告を推薦したのは、元JOC会長で組織委員会副会長だった竹田恒和氏。同氏は供述で「組織委員会にはスポンサーや、マーケティングに詳しい理事がいませんでした。私が電通で詳しい高橋さんがどうかと推薦。理事になった」と高橋氏が組織委の理事になったいきさつを説明。一方、森元首相は「高橋さんは、スポーツビジネスに詳しく、知見がある。スポンサーとのライセンス契約に関する電通とのパイプ役になってほしいと考えた。はやり電通出身が理事にも必要ではないかと思いました。高橋被告には(金銭問題など)よからぬウワサもあるが、広告業界での人脈や実績もあり、やってくれるはずと信用して理事に推した」と供述していた。

高橋被告、青木被告との会食について森氏は、「会食した時、青木被告の印象はよいものでした」とスポンサー選定にいたった経緯も語っている。

東京地検特捜部の捜査に、当初は容疑を否認していた青木被告。しかし被告人質問では一転、疑惑が拡大したことを受け「証拠はシュレッダーにかけろ」「手帳など、危ないものは燃やせ」などと部下に命じていたを、青木被告自身が認めている。

その青木被告の供述調書によれば、森氏との会談について「高橋被告からの勧めで会食をしました。なんだかんだ言っても最後は森さんだと高橋被告は言っていました。そう私も思いました。森さんに好印象を持ってもらわねばと(思った)」と、高橋被告ではなく森氏こそが最高権力者だと認識していたことを自白。10億円以上とされるスポンサー料が半額程度になったことについては、「本当の正規の金額では、大き過ぎてうちでは無理でした。そんな(金額が出せる)力はありません」などと、事実上高橋被告に賄賂を贈った理由を明かす供述を行っていた。

青木被告の初公判を見ていると、なぜそこに森氏が「被告」として名を連ねていないのか首をひねりたくなるほどだ。森元首相は、2度も高橋・青木両被告との会談に同席し、その場で請託の証拠ともいえる書面まで高橋被告には手渡されている。なぜ罪に問われないのか――?その疑問に対し、ある捜査関係者は、苦虫を嚙み潰したような顔でこう話す。
「森元首相には破格の見舞金とはいえ、200万のカネの動きしか見えなかった。確かに、最高決定権は元首相にある。しかし贈収賄事件とするには理由に乏しく、金額も低い。高橋被告から森元首相にカネが渡ったという供述があれば、切り込めたのだが……」

「見舞い金」名目で青木被告から森氏に渡ったカネは確かに200万円だ。事件化するには額が小さいというが、庶民にとっての200万円は大金。盗めば必ず捕まるだろう。現に、これまでに全国で立件された地方公務員や首長などの事件を見れば、数十万円でも贈収賄事件となっている。高橋被告が青木被告のスポンサー料を半額にするにあたっては、最終的に森氏の判断が必要だったと検察は冒頭陳述で指摘している。特捜部はいったい、どこをみて捜査をしていたのか――。

今からでも遅くない。五輪を汚した疑いがある森元首相や竹田元JOC委員長について、再捜査すべきだろう。

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