問題発覚からまもなく丸1年になる北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で1日、被害者への謝罪や関与教員の処分について今なお「検討中」の段階であることを、地元議会での答弁で道の担当課が明らかにした。昨年12月に終えているはずだった告発当初の不適切対応に関する調査も未だに終わっておらず、新年度を間近に控えてほとんど進展がないパワハラ対応のお粗末さが浮き彫りとなった形だ。
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議会質問があったのは、1日午後に招集された道議会保健福祉委員会。昨年5月から数えて10回目になる質問に臨んだ同委の平出陽子議員(民主、函館市)は、前回委員会の道の答弁でパワハラ教員の異動が年度明けになる方針が示されたことを受け、改めて「その前に処分と謝罪を」と求めた。(*参照記事⇒《江差看護学院パワハラ教員、年度末まで異動なし|保護者らが疑う「先延ばし」》)
「異動の前に処分がなければならず、また謝罪がなければなりませんよね。(新年度までの)あと2カ月で、謝罪もして、処分もして、そして異動させると。その準備、本当にできてるんですか」
これを受けた担当課は、当初「教員から個別に謝罪したい」と被害者らへ打診した経緯を説明した上で、次のように答弁した。
「一部の学生や保護者の皆様から『個別の謝罪は希望しない』とのご意向を伺っておりますことから、謝罪のあり方について検討を進めているところでございまして、今後お一人お一人のご意向をふまえつつ、具体的な対応についてお示しする予定でございます」
被害者らが個別の謝罪を拒む思いは、ある程度予測できたはずだ。学生の中には、加害教員と一対一で向き合っただけで被害がフラッシュバックするという人も少なからずいる。このため保護者らでつくる「父母の会」が“開かれた場での謝罪”を求める声を上げたのは、昨年10月のこと。それから3カ月以上が過ぎた今も道は対応を「検討中」で、被害者の意向を「今後」確認するというのだ。
対応の遅さは教員の処分についても同じで、答弁は以下のように続くことになる。
「現在、関係部署において法令に基づき必要な手続きを進めているところでございます」
平出議員はこれに、担当課の“逃げ切り”を疑ってこう釘を刺した。
「30年も議員をやってますから、道のやり方はわかってます。ことが起きると、すぐ職員を“スリッパ異動”させてしまう。異動してしまったら『私はもう関係ありません』と。そういうことを何回も見てきましたから、まさか今回はないだろうねと」
指摘される「スリッパ」異動は昨年度、少なくとも担当課員2人についてそれがあったことが疑われている。一昨年秋から上がり始めた被害告発の声を半年間にわたって受け続けた当時の主幹と主査が、年度替わりとともに別の課へ異動した人事。現在はもっぱら本年度以降に着任した担当課員などが矢面に立ち、前年度に被害を握りつぶしたことが疑われる職員たちは責任の追及を免がれているのだ。
この前年度の不適切対応疑いについて道は、昨年12月までに事実関係の調査を終えるとしていた。だがこの調査は、2カ月が過ぎた今も終わっていない。1日の議会でこれを追及された保健福祉部長は、次のように釈明することになる。
「保存文書が限られていることや、当時の幹部職員の多くが退職していることなどから、当初の想像以上に確認に時間を要しておりますが、近く確認作業を終える見込みとなっております」
この「近く」という言い回しに、「(同じことを)何カ月も前から聴いている」と平出議員。答弁を受けては「決意の安売りにならないように」と再び釘を刺すことになった。
学生らへの被害対応をめぐっては、昨年末に道が弁護士への委任を被害者らにアナウンスしたところだが、2月になっても同弁護士からは被害者らに何の連絡も届いていない(委任通知を除く)。1月下旬には「父母の会」関係者などが改めて道に疑問の声を寄せたが、担当課からは「調整中」との答えが返されたのみで、事態は事実上ほとんど進展していないという。
新年度開講まで、残すところ2カ月弱。被害学生の保護者の1人は「年度内の対応が不可能だから、やったふりをしながら4月まで引き延ばすつもりか」と疑っており、被害告発から足かけ3年となった今、当事者間の溝は深まる一方の様相を呈している。地元議員が懸念する「スリッパ人事」が現実のものとなるかどうかは、まもなく明らかになるはずだ。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |