不祥事隠蔽の北海道警と記者クラブの蜜月(下)|問われる大手メディアの報道姿勢

先月27日夕、北海道警察が児童ポルノ禁止法に違反した現職警察官に対し懲戒処分を下しながら未公表にしていた問題を、毎日新聞がスクープ。道警記者クラブ加盟社も、次々に「後追い記事」を出した。

ハンター編集部が知る限り、当該事案が未公表となっていることを道警への情報公開請求で見つけ出したのは、北海道の月刊誌「北方ジャーナル」を中心に活動するジャーナリスト小笠原淳氏。しかも、公表すべき重大な不祥事案は3件あり、毎日がネット上で記事を配信した27日の午前に、道警の広報に事実関係の確認を求めたばかりだった。

このタイミングでの「1件」に絞った毎日のスクープとそれに続いた大手メディアの報道は、「権力と報道の癒着」の象徴。記者クラブ加盟社が、そろって不正の矮小化に手を貸した格好となっている。
(*参照記事⇒《不祥事隠蔽の北海道警と記者クラブの蜜月(上)|毎日新聞「スクープ」の問題点》)

■記者クラブメディアの情報源は「道警」

まず、問題の毎日の記事を再掲しておきたい。

<北海道警、児童ポルノ製造容疑で20代巡査を書類送検 公表せず>
 2021年12月、北海道警が道内の警察署に勤務する20代の男性巡査を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで書類送検していたことが27日、関係者などへの取材で判明した。巡査は懲戒処分を受けた後、依願退職している。道警は「公表事案に当たらない」として発表していない。

関係者などによると、送検容疑は、警察署員だった21年、インターネットを通じて知り合った少女に「自撮り」させたわいせつ画像を送信させ、自身の携帯電話に保存したとしている。元巡査は容疑を認めているという。

道警は内部調査で事案を把握。同年12月8日付で、減給10分の1(1カ月)の懲戒処分とし、元巡査は直後に依願退職した。

道警は、①逮捕を伴わない任意捜査であること②処分が比較的軽い減給にとどまること――などを踏まえ、公表事案に当たらないと判断したという。監察官室は取材に対し「公表するかどうかは指針に照らして事案ごとに検討し、適切な判断に努めている」としている。【谷口拓未】

前稿で述べたとおり、毎日の記事には「道警への情報公開請求で入手した文書によれば」であるとか「道警への情報公開請求で分かった」といった記述は一切なく、「関係者などへの取材で判明した」という極めて曖昧な表現で情報源をぼかした形となっている。

「いや、我が社も開示請求をかけていた」という言い逃れができるとは思えない状況だが、仮に請求していたとしても、1月27日の時点で事実関係の確認を求めた小笠原氏に「1月中の回答はできない」と断言していた道警が、毎日にだけ処分を受けた巡査が依願退職したことや、事案を未公表にした理由を教えたことについての合理的な理由は見出せまい。毎日側からの開示請求がない状態で、小笠原氏が見つけた警官不祥事の情報を同紙の記者にだけ流したとすれば、当該警察官の守秘義務違反による情報漏洩なのだ。

そもそも、情報開示した文書の内容については、事案の実施主体である道警に説明責任がある。文書の記載内容について質した小笠原氏の質問に答えず、開示請求もしていない他の第三者に詳細を教えたとすれば、道警自ら「北海道情報公開条例」を否定したことになる。

毎日が記事で明らかにしているように、同紙の記者がネタを掴んだのは、小笠原氏が道警に事実関係の確認を求めた「27日」。一連の経緯からして、どう考えても情報源は道警だ。怪しいスクープが浮き彫りにしたのは「監視される権力側(道警)」と「監視する側(記者クラブ=大手メディア)」の癒着の構造である。毎日のスクープを後追いした他社の横並び記事を見れば、一目瞭然だ。まず、地元紙「北海道新聞」(道新)の28日朝刊の記事から。

北海道新聞――<児童ポルノ製造容疑20代巡査を書類送検道警発表せず
 道警が昨年12月、道内の警察署に勤務する20代の男性巡査を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで書類送検していたことが27日捜査関係者への取材で分かった。道警は「公表事案に当たらない」として発表していない。

道警は送検容疑についても「説明することはない」としている。巡査は12月8日付で減給10分の1(1カ月)の懲戒処分を受け、その後、依願退職した。北海道新聞の取材に、道警監察官室は「公表するかどうかは指針に照らして事案ごとに検討し、適切な判断に努めている」としている。

記事によれば、道警の巡査が処分されたことが分かったのは毎日がネタを掴み、ネット上で記事を配信したのと同じ「27日」。小笠原氏が道警に事実確認を求めた日だ。毎日と違うのは、情報源が「捜査関係者」であることを明示したことくらい。ただしこれは、27日の段階で、道警もしくは検察が、道新側に記事に書かれている内容を伝えた証拠でもある。

捜査内容を漏らさない検察の体質からいって、情報源は道警と思料するのが妥当だろうが、この記事の発端が「情報公開請求」でないことだけは確かである。そのため、本来なら児童ポルノ禁止法に違反した警察官の問題同様に報道すべき別の悪質な懲戒事案2件が、隠れてしまう結果となる。先行した毎日と地元メディアの雄・道新が、権力側の情報だけを垂れ流した結果だ。

■右へ倣えの記者クラブ報道

以下に道警記者クラブメディアである「朝日新聞」、「北海道テレビ(HTB)」、「北海道放送(HBC)」、「北海道文化放送(UHB)」の記事と、紙面、画面を紹介するが、いずれも取材源は「捜査関係者」もしくは「関係者」。すべての記事が、児童ポルノ禁止法違反の件だけを取り上げていた。

朝日新聞――<児童ポルノ容疑巡査を書類送検 道警、公表せず
 道内の警察署に勤務する20代の男性巡査が、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで道警から書類送検されていたことが、捜査関係者への取材で分かった。道警は巡査を減給10分の1の懲戒処分としたが、「発表事案にあたらない」として発表していない。巡査はすでに依願退職している。

捜査関係者によると、元巡査は昨年、少女のわいせつ画像を自分の携帯電話に保存した疑いがある。処分は昨年12月8日付。道警監察官室は「発表するかどうかは指針に基づき判断している」としている。

◆  ◆  ◆

北海道テレビ(HTB)――<道警非公表 男性警察官が”児童ポルノ”で書類送検>
 去年12月、道警の男性警察官が児童ポルノ禁止法違反の疑いで書類送検されていたことが分かりました。道警は処分について公表していませんでした。
 児童ポルノ禁止法違反の疑いで去年12月に書類送検されたのは、道警の20代の男性警察官です。関係者によりますと男性警察官はSNSで知り合った少女にわいせつ画像を撮影させ、自らの携帯電話に送信させたうえで携帯に保存していた疑いがもたれています。男性警察官は懲戒処分を受け、その後に依願退職しました。道警は処分を公表しておらず、これについて「指針に基づいて総合的に判断した」としています。

◆  ◆  ◆

北海道放送(HBC)――<20台の男性巡査、わいせつ画像送らせ書類送検・・・道警は公表せず「指針に基づき、総合的に判断」>
 北海道警察の男性巡査が去年、インターネット上で知り合った少女にわいせつな画像を送らせた疑いで書類送検されていたことがわかりました。道警は、この事案を発表していません。

捜査関係者によりますと、書類送検されたのは、北海道内の警察署に勤務していた20代の男性巡査です。
 去年、インターネット上で知り合った10代の少女にわいせつな画像を送らせて携帯電話に保存していた児童ポルノ禁止法違反の疑いが持たれています。
 男性巡査は減給の懲戒処分を受けましたが、その後、依願退職しました。容疑について認めているということです。
 道警は、この事案を発表しておらず「指針に基づき、総合的に判断した」と説明しています。

◆  ◆  ◆

北海道文化放送(UHB)――<20代男性警察官が少女に”わいせつ画像”送らせる…書類送検&減給処分 北海道警「総合的判断」公表せず>
 ネット上で知り合った少女に”わいせつな画像”を送らせたとして2021年、北海道警察の警察官が書類送検されていたことがわかりました。

関係者によりますと、児童ポルノ禁止法違反の疑いで書類送検されたのは、北海道内の警察署に勤務していた20代の男性巡査です。

男性巡査は2021年、インターネット上で知り合った少女に、わいせつな画像を撮影させた上で送信させ、携帯電話に保存した疑いが持たれています。

男性巡査は、容疑を認めているということです。

北海道警察の内部調査で発覚し、2021年12月、男性巡査は減給の懲戒処分を受け、その後依願退職しています。

北海道警察は今回の事案について公表しておらず、「指針に基づき、総合的に判断した結果」としています。

 各社の記事に出てくる「捜査関係者」や「関係者」が道警を指すことは述べてきた通り。道警は、わざわざ開示請求を行ったジャーナリストの動きを無視し、複数ある懲戒事案の中の、1件だけを漏洩させたということだ。「意図的に」というべきだろう。

改めて述べておくが、小笠原氏が情報公開請求で確認した重大な懲戒事案は3件。「屋外において、自己の陰部を露出した公然わいせつ」「無車検・無保険車を運転した交通違反と文書の不適切管理」、そして各社が報じた「児童ポルノ禁止法違反と不倫」である。

個別に発覚したものなら、当然のように報道される「街中で自分の陰部を露出するという“公然わいせつ”を行った警官」や、「無車検・無保険車を運転した警官」の違法行為を見逃した形になったせいで、隠していた警察不祥事が3件もあったこと――隠蔽の悪質性――が薄れる結果となっている。守秘義務違反も厭わず情報漏洩を行った道警の最大の狙いは、ここにあっとみるべきだ。

道警が記者クラブ加盟社の記者にネタを流したのは、「隠蔽」を否定する姿勢を取り繕いながら「複数事案の隠蔽」という最悪の形を「隠蔽」するために他なるまい。道警にとっては、スクープネタを与えて記者クラブ加盟社に「貸し」を作れるという一石二鳥。記者クラブ制度を悪用する権力側と大手メディアの「持ちつ持たれつ」を証明する、分かりやすい出来事だった。

「新聞」や「テレビ」が報じるニュースは、権力側と大手メディアの共同作業で作られているという現実が、そこにある。

(中願寺純隆)

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