黙秘権侵害・ノート検閲疑いで国賠提訴 |道警の不当捜査に弁護士「違法」指摘

今年8月に本サイトで報告した北海道警察による黙秘権侵害・私物点検問題で20日、被害を訴える元容疑者(のち不起訴)と事件を担当した弁護士が道警を相手どる国家賠償請求訴訟を札幌地方裁判所に起こし、当時の捜査の違法性を訴えた。原告及び代理人を務める弁護士らは、裁判を機に警察の対応や捜査に臨む意識の改善を求めていくとしている。

◇  ◇  ◇

訴えを起こしたのは、6月下旬に起きた事件で道警に逮捕された札幌市の女性(20歳代)と、同事件に関わった河西宏樹弁護士(札幌弁護士会)。訴状などによると道警は当時、女性が処分保留で釈放されるまでの22日間にわたって連日長時間の取り調べを重ね、黙秘権の行使を申し出る女性に対して執拗に供述を迫ったほか、弁護人とのやり取りを記録した『被疑者ノート』を無断で持ち去るなどの不当捜査に及んだ。河西弁護士らはこの間、4度にわたって警察と公安委員会に抗議や苦情を寄せ、また現場の警察官に対しても口頭で抗議したが、事態はほとんど改善されなかったという。

当時の捜査員らは、供述を拒否する女性に次のような言葉を浴びせて黙秘権を侵害していたという。
「あなたは逃げるのか」
「何も言わないのは誰のためにもならない」
「刑罰を重くしたくないから黙っているのか」
「黙っていたら『あの時言えばよかった』と後悔する」
「弁護士が何を言っても、あなたは大人なんだから自分で判断できる」

こうした不当な強要について、国賠訴訟の代理人を務める東浩作弁護士(札幌)は「そもそも捜査機関は容疑者の言葉を真実だと思っていない」と指摘、捜査側がほとんどすべての証拠を握っている以上、容疑者が黙秘せざるを得ないという事情を説明する。
「真実を語れば警察は聞いてくれると思っている人は多いかもしれないが、そもそも人は何日も前の事実を事細かに覚えていない。曖昧な記憶を頼りに供述し、少しでも誤りがあると、相手は『嘘だ』と迫ってくる。黙秘の目的は真実を守ることにあると、これを機に改めて考えてもらいたい」

同事件の取り調べではさらに、女性が釈放される1週間ほど前に警察官が『被疑者ノート』を無断で持ち去り、別室に持ち込んで約15分間ほど返却を拒み続ける「事件」が起きている。河西弁護士に合流する形で事件を担当した吉田康紀弁護士(札幌)がこれに抗議した際、留置担当の警察官らは「つづり紐がほつれていたのを直そうとした」「凶器が持ち込まれなかったか確認する必要があった」などと弁明したという。吉田弁護士はこの抗弁に「それは持ち去らなくてもできること」と呆れ、15分の間にノートの中身が検閲されたことを強く疑った。
「被疑者ノートを捜査側に見られると、弁護活動に大きく支障が出る。われわれと容疑者との打ち合わせ内容を知られるのは、接見を盗み見られることに等しく、非常に大きな問題」

本サイト既報の通り、この問題では女性釈放後の8月中旬、札幌弁護士会(坂口唯彦会長)が道警本部に申入書を寄せ、黙秘権侵害や私物検査を控えるよう強く求めていた。その後の9月上旬に女性は不起訴処分となったが、以降今日に至るまで道警から弁護士会へは何ら回答が届いていないという。

一連の不当捜査疑いについて筆者が同本部へ質問を寄せたところ、道警は8月の時点で「不適切な取り調べはなかった」と回答、ノート持ち去りについては「法令に基づく適切な検査だった」とした。だが弁護士などの立ち会いが事実上不可能な密室の取り調べでは、今回の弁護士らが指摘したような事態は常に起こり得る。不当捜査の常態化を疑う国賠原告の河西弁護士は「この訴訟を通じて警察の対応の改善をはかりたい」と、裁判に込める思いを語っている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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