黙秘権侵害取り調べ映像公開 |北海道警の違法捜査問う裁判で異例の提出

黙秘権侵害や勾留中の私物検閲など警察の違法捜査が問われている裁判で2月下旬、違法な取り調べの被害を訴えている女性の代理人らが問題の取り調べを記録した映像を報道公開した。映像は1月31日にあった口頭弁論の法廷で上映されたもので、昨年春に裁判所の「文書提出命令」で開示されていた。同命令で取り調べ動画が陽の目を見るのは、関係者によれば極めて異例。

◆   ◆   ◆

訴えを起こしていたのは、2021年6月に起きた事件で北海道警察の捜査を受けた札幌市の20歳代女性(のち不起訴)。同事件の容疑者として逮捕され、20日間にわたって道警本部3階の留置施設に身柄を拘束され続けた女性は、その間に私物の『被疑者ノート』などを無断で持ち去られたり、黙秘権行使を申し出た取り調べで執拗に供述を迫られるなどの被害に遭った。事態は当時の札幌弁護士会も問題視し、警察に対して複数回にわたる申し入れを行なっているが、道警は違法行為を認めない姿勢を貫き続けた。女性の弁護人を務めた弁護士らはこれを看過できないとし、不起訴処分後の同年12月に国家賠償請求訴訟を提起、翌年から札幌地方裁判所で始まった弁論で捜査の違法性を追及し続けている。
問題とされる取り調べ映像は、約25時間にわたって記録されていた。早い段階から黙秘を申し出ていた女性に対し、捜査員が執拗に供述を迫り「供述拒否権は嘘をついていい権利じゃない」などと権利行使を侵害し続ける様子が記録されている。国賠原告側は22年5月に札幌地裁へ「文書提出命令申し立て」を行ない、一連の捜査は適正だったとする道警の主張を覆す重要な証拠として動画の開示を求めた。これを受けた同地裁の谷口哲也裁判長(当時)が提出命令に踏み切ったのは、昨年3月末。データを管理する札幌地検が同決定に抗告(不服申し立て)しなかったことで命令が確定し、映像が開示された。既報の通り、昨年12月にはとくに問題とされる場面などを約12分半にまとめた一部映像の上映を原告側が求め、札幌地裁の布施雄士裁判長がこれを認めたことで、本年1月に法廷内で動画が再生されるに到った。

映像の冒頭、容疑者だった女性が「何も言いたくないです」と黙秘権行使を申し出るが、これに耳を貸さない捜査員は「それは間違った選択肢だと思う」などと事実上その権利を否定、激しい言葉で女性を追及し続けている。勾留中に亡くなった女性の長男を引き合いに出し、警察官が「要らない子だったの」「産まなきゃよかったんじゃない」などと暴言を吐く様子も確認できる。全国的には1月中旬、元弁護士の男性が東京地裁に起こした裁判で違法取り調べを記録した動画が公開されたところだが、不起訴事件の国賠での動画上映は札幌のケースのほかに前例がない可能性が高く、当事者が法律家ならぬ二十歳そこそこの一般女性だったという点で権利侵害の度合いがより大きかったと言える。

国賠被告の道警は映像公開後も捜査の違法性を認めず、取調官の言動は「説得行為」だったと主張している。1月の上映後、原告代理人の吉田康紀弁護士(札幌弁護士会)は「あれだけの『説得』がそもそも許されるのか」と憤り、「あれを合法というなら黙秘権は何のためにあるのか。被害の再発防止のためにも、裁判所にはしっかりとした判断を求めたい」と話している。

裁判の次回弁論は3月12日午後、札幌地裁で開かれる。黙秘権侵害のみならず私物検閲についても違法性を否定する道警は今後、留置担当の警察官らの尋問を求めていくことになるという。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

この記事をSNSでシェアする

関連記事

注目したい記事

  1.  鹿児島県警による事件隠ぺい疑惑を受けて今月19日に開かれた県議会の総務警察委員会で、県警側があたか…
  2. 7月19日、兵庫県議会では斎藤元彦知事の内部告発にかかる「文書問題調査特別委員会」(百条委員会)が開…
  3.  警察組織によるもみ消しや証拠隠滅の疑いが出ている、2023年2月に鹿児島県霧島市で起きたクリーニン…
  4. 鹿児島県警察が職員の非違事案(懲戒処分などがあった事案)の捜査記録の開示を拒んでいる問題で、開示請求…
  5. 19日、鹿児島県議会の総務警察委員会が開かれ、野川明輝本部長ら県警幹部が県議らの質問に答えた。わかっ…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る