またしても道警|黙秘権侵害し被疑者ノート検閲|容疑者は処分保留で釈放

北海道警察の捜査員が容疑者の黙秘権行使を事実上妨害し、さらに私物のノートを“検閲”したとして、札幌弁護士会(坂口唯彦会長、826人加盟)が16日、道警に取り調べの適正化を求める申し入れを寄せた。権利を侵害された当事者らは近く、道警を相手どる国家賠償請求訴訟を起おこす方針だ。

■ルール無視で強引捜査

弁護士会の『申入書』などによると、道警は本年6月下旬に札幌市内で発生した事件の捜査に伴い、容疑者の20歳代女性が黙秘権の行使を宣言していたにもかかわらず、連日長時間の取り調べを続けて執拗に黙秘の撤回を迫ったという。さらに7月6日には容疑者女性の私物である『被疑者ノート』を勝手に持ち去り、およそ10分間にわたって“検査”していた。ノートには容疑者と弁護人との接見内容などが書き込まれており、捜査機関がこれを閲覧することは接見交通権・秘密交通権の重大な侵害にあたる。弁護士会は道警に対し、これらの違法行為を「厳に控えられたい」と要求、同様な事案の再発防止や法の周知徹底などを申し入れた。(*下が「申入書」)

 女性の事件を担当した弁護士によると、捜査にあたったのは札幌市内の警察署員。逮捕当初から黙秘の意向を示していた女性に対し、捜査員らはこれを認めず「反省は嘘だったのか」「子供に恥ずかしくないのか」などの言葉を浴びせながら長時間にわたり取り調べを続けたという。事件では検察の聴取も5回ほどあったものの、検事は女性が黙秘を告げると「わかりました」と1分ほどで調べを終えていたといい、先の弁護士は「検察がルールを遵守しているのに対し、警察では未だにこれが徹底されておらず、多くの事件で同じ被害が表面化していない可能性がある」と指摘する。

女性が身柄を拘束されていたのは、道警本部内にある女性専用留置施設。逮捕から2週間ほどが過ぎた7月6日午前、この留置施設に備えつけられた私物用のロッカーから、留置担当の女性警察官2人が「検査するから」と複数のノートを持ち出した。容疑者女性が「見せてはいけないと言われている」と訴えたが、警察官らはこれを聞き入れず、別の部屋に持ち去って10分間ほど戻ってこなかったという。

のちにこれを知った弁護士が問い詰めると、警察官らは「凶器が隠されていないか確かめるつもりだった」「綴り紐がほつれかけていたので直す必要があった」などと弁明した。持ち去られたノートは私物の大学ノート2冊と、日本弁護士連合会が作成する記入式の『被疑者ノート』1冊の、計3冊。いずれも内容の“検閲”が禁じられているもので、仮に空白の10分間にコピーや写真撮影などが行なわれていたとしたら、捜査機関による重大な法令違反が疑われるところだ。担当弁護士は「秘密が確保されないとなると、当事者はメモひとつ残せない。本来、被疑者にとってプラスになるツールである筈のノートが、マイナスのツールになってしまう」と危機感を募らせる。(*下は、『被疑者ノート』の書式)

くだんの容疑者女性は処分保留で7月上旬に釈放されており、結果的に不起訴処分となる公算が大きい。処分の有無にかかわらず、取り調べ時の黙秘権侵害などを不服として近く道警を相手どる国賠訴訟を起こす考えを固めている。

弁護士会の申し入れに対し、道警は現時点でとくに回答などを返していない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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