なめられた鹿児島県知事と県議会|県医師会役員が“わいせつ事件の謝罪”を否定

 意図的な論点ずらしなのか、あるいはもともと規範意識が欠如しているのか――。新型コロナウイルス感染者の療養施設に派遣されていた鹿児島県医師会の男性職員が強制性交とみられる行為に及んでいた問題で、同医師会の女性理事が会合の中で、事業を所管する県に池田琢哉県医師会会長が行ったとされる“謝罪”について「謝罪については、その事実があったかどうかということではなく、世間をお騒がせしたことに関する謝罪」と発言していたことが分かった。

 男性職員が新型コロナ患者そっちのけでわいせつ行為を行っていたことは、事件を起こした男性職員本人が認めている事実。私見と断ったというが、理事という重い立場の医師会幹部が事の本質を認めない姿勢をみせたことに、関係者から反発の声が上がりそうだ。

 ◇   ◇   ◇

 問題の発言が飛び出したのは、今月21日に開かれた鹿児島市医師会臨時代議員会の席上。わいせつ事件についての議論になったところで、県医師会の理事を務める立元千帆氏が発言を求め、池田会長から預かってきたという回答書を代読。県医師会内部に調査委員会や懲罰委員会、再発防止等改善委員会を立ち上げたことや、第三者を入れた調査委員会で事実関係を調査している現状、3月24日に池田会長が県庁を訪問し、男性職員が行った行為について謝罪したことなどを説明した。

 このあと立元理事は、医師会会員とのやり取りの中で「県の理事会や郡市医師会長会議等で得た事実」として、次のように発言したという。
「報道があった(強制性交での)告訴については、ある理事の先生が、捜査一課が動いているとのことを発言されました。ただ、それから2カ月経過しておりますが、該当の職員というのは、警察の取り調べも逮捕も受けておらず、それらのことがすべてを物語っているのではないかと私自身は考えています

 さらに、池田会長の「謝罪」の内容について聞かれ、「これは私の見解ですが、謝罪については、その事実があったかどうかということではなく、世間をお騒がせしたことに関する謝罪だというふうに私は認識しています」と答えていた。

 “療養施設で行われた事実についての謝罪じゃないのか”との問いにも、「私は会長ではないので分からないが、私自身はそういうふうに感じた」と返していた。

 立元理事の発言が事実なら、それは2月22日に開かれた県医師会郡市医師会長連絡協議会において池田氏が発した人権無視の主張に沿ったものだ。問題の池田発言と音声データを再掲しておきたい。

本人(医師会職員)によりますと、昨年8月下旬から9月上旬にかけて当該医療機関と宿泊療養施設内で複数回、行為を行った。そのうち、性交渉が5回で、すべて合意のもとであった

 

まあ、ちなみに本事案は短時間の間になされて数回性交渉が行われていることは双方の代理人弁護士の主張からも明らかで、強姦とは言い難いと思います

 

今日あったこういう情報をですね、ある程度かみ砕いて伝えていただければ、現状はこうなんだよということをですね、伝えていただければありがたいなと思います」

 

 医師会職員が、コロナ患者の療養施設で、わいせつ行為を繰り返していたという極めて不適切な事実を、真摯に受け止めようとしない医師会上層部。塩田康一県知事も、県議会も、県医師会のそうした姿勢を批判してるのが現状だ。この問題についての報道が相次ぐ中、コロナの療養施設でわいせつ事件を起こしたことへの謝罪ではなく、世間を騒がせたことへの謝罪だとする一般常識に欠ける姿勢には呆れるしかない。

 しかも立元理事の「該当の職員というのは、警察の取り調べも逮捕も受けておらず、それらのことがすべてを物語っている」という発言は、明らかに強制性交の被害を訴えている女性の人権を踏みにじるもの。なぜ、こうも無神経な話を、大勢の人の前でできるのか、理解できない。

 ◇   ◇   ◇

 27日、発言の真意を質そうと立元理事に電話取材した。以下、やり取りの概要である。

――今月21日に開かれた鹿児島市医師会の臨時代議員会のことで、お尋ねしたい。
立元理事:はいはいはい、はい。

――確認だが、その会議で先生が池田医師会長の文書の代読をしたということで間違いないか?
立元理事:はい。

――代読後に、当該職員は警察の取り調べも逮捕も受けていないと述べたか?
立元理事:はい。

――それが全てを物語っていると?
立元理事:いるのではないか、と私見を述べましたね。

――私見を述べた。間違いないか?
立元院長:はい。間違いないです。

――池田会長の謝罪については、事実があったかどうかではなく、世間を騒がせたことに対する謝罪だと言われたようだが、これも私見か?
立元理事:うん。そうです、そうです。

――池田会長が仰ったわけじゃないのか?
立元理事:じゃないですし、○○先生が、まあ、あのー、結局事実として謝罪したんだという風に仰ったんですけど、私は、そう(世間を騒がせたことに対する謝罪と)考えるってお伝えしたんですが、○○先生が、いや僕はそう考えると仰ったので……。

――現在も、県庁での池田会長の謝罪は、世間を騒がせたことに関する謝罪で、療養施設でわいせつ行為があったことに対する謝罪ではないというお考えに変わりはないか?
立元理事:いや、それはあの、結局最後にお伝えしたのは、最終的には私は会長ではないので、「わかりません」と答えたんです。

――分からないけど、私見は述べた?
立元理事:そうです、そうです。私はそうとったんですけど、と。で、それでも○○先生があの、私に対して、ものすごく攻撃をされてきましたので。私は代読して、ちょっと私見を述べただけですが、それに対して、攻撃してこられたので、私としてはじゃあ、あの、結局会長ではありませんので、本当のところはわかりませんって最終的にはお伝えしています。

――もう一度聞くが、池田会長の謝罪というのは、世間を騒がせたことに対する謝罪であって、医師会の職員が猥褻行為をしたことへの謝罪ではないのか?
立元理事:えっとですね、それは、わからないんですが。

――わからない?
立元理事:私にはわかりません。

――先生は県医師会の理事ではないのか?
立元理事:うん。で、だからわかりません。あの、なぜなら、調査委員会が立ち上げられてて、現在調査中で、事実がまだわかっていない段階で、私は何も答えられません、ということも、その時私言っています。

――しかし、わいせつ行為があったことについては、池田会長自身が早い段階で県に行って認められているのではないか?県も、その際の記録を情報公開で公開している。
立元理事:ちょっとすみません。そこは私も、理事会とかで報告もないですし、分かりません。

――しかし、あなた自身が代読した池田会長の文書の中に、「新型コロナウイルスの宿泊療養施設における本会職員の今回の不祥事」という文言があったはずだ。
立元理事:まあ、どうだったかな。ちょっと今、もう手元にないので分からないんですが。

――池田さん自身が、わいせつ行為があったことを認めている。ハンターの取材にも、それが複数回あったと認めている。
立元理事:あっ、わいせつって、何を持ってわいせつっていうんですか?

――今回の場合は、性交渉。
立元理事:あー、そうですね。それはお聞きしています。はい。

――それをコロナの療養施設でやったことに対しての謝罪があって然るべきではないかというのが、ハンターとしての考え方。知事や県議会も同じだ。
立元理事:あー、なるほど。あーそれは、謝罪されているんだと思います。それを謝罪はしてるかもしれませんね。

――いや、あなたは、世間を騒がせたことに対する謝罪で、事実があったかどうかはわからんと仰ったはずだが?
立元理事:あっ、えっとですね。言葉……。

――わいせつ行為に関する謝罪がないから、県知事も県議会もおかしい、不適切だと言っている。
立元理事:ちょっと、そこまでは……。まあ、あの私がお伝えしたいのは、ええっと、ええっとですね。当初、当初と言うか、今でも、強制性交に問われているわけですよね?

――いやいやいや。これは、強制があったかないかについては、関係のない話だ。
立元理事:もしそうであれば、女性もその同意のもとされたんであれば、女性も罰せられてしかるべきですよね?そしたら、その女性の……。

――それは議論のすり替えだ。県医師会の職員が――。

 ここで一方的に電話を切られたが、その後かけてきた立元理事は「これ以上話すことはない」。記者は、“ダメなものはダメ。少しは被害女性の人権を考えたらどうですか”とお願いして、取材を終えた。

 ◇   ◇   ◇

 立元理事は、池田県医師会会長から鹿児島市医師会へのコメントを預かるほどの関係である。池田氏が「合意論」を述べた郡市医師会長連絡協議会に出席していたことも分かっている。だからだろう。立元理事による一連の発言は、“性行為における合意の有無によって、県医師会の責任の重さが変わってくる”という、池田氏周辺が共有する考えに基づくものだ。それがいまの社会情勢の中で容認されるのか問えば、おそらく大多数の県民が「NO」と答えるのではないだろうか。

 医師会上層部の姿勢について、ある県議会関係者は次のように話している。
「知事も県議会も、ずいぶんなめられたもんだ。(県医師会の)組織内で、医師会長の謝罪の意味が理解されておらず、役員が私見と称して好き勝手言っているようじゃ、反省なしと判断せざるを得ない。組織の上の方が腐っているんじゃないか。数日前、医師会に近いある議員の根回しで池田会長が自民党県議団に説明に来ていたようだが、なぜ自民党だけなのか。説明すべきは県議会全体に対してだろう。塩田知事もその話を聞いて、呆れていたらしい。謝罪についての話にしても、耳にした知事周辺はかなり怒っている。それにしても、性被害を訴えている女性の人権について一顧だにしない女性の医師会役員がいるとは、ちょっと驚きだ」

 別の県関係者も、憤りを隠さない。
「医師会はどうかしている。複数回がどうの、調査結果がどうのと、被害女性の人権を踏みにじるような主張を続けた挙句、県への謝罪は世間を騒がせたことに対するものだという。県民をバカにしている。知事はテレビカメラの前で『憤っている』と言っており、そのことの意味を、医師会はわかっていない。自民党のご機嫌だけ取っておけばよいと考えているのなら、とんでもない間違いだ。この問題は、これからもっと大きくなる。それこそ『世間』が、どう見るかだ」

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