8月22日、大阪府の池田市長選挙が告示された。人口10万人ほどの地方都市の選挙が、注目を集めるには訳がある。これまで報じてきた通り、全国区になった「サウナ市長」こと冨田裕樹前市長による市役所私物化の是非が問われるからだ。
市長室にサウナなどの私物を持ち込んだ市長は、いったん辞職したものの、性懲りもなく再選に向けて立候補。暴走市長を産んだ大阪維新の会も、これまた反省もなく公認候補を擁立した。ルール無視の維新型政治が、
その市長選に立候補したのは、届け出順に以下の4人である。
・元池田市議の内藤勝氏(74)
・前池田市長の冨田裕樹氏(45)
・前池田市議の渡辺千芳氏(67)
・前池田市議で大阪維新の会公認の滝沢智子氏(40)
■相変わらずのルール無視
池田市を大混乱に陥れた張本人の冨田氏は前2019年4月の市長選で、大阪維新の会公認候補として出馬し当選。大阪府の吉村洋文知事らが応援に入ったことで得票を伸ばした。
ところが、1期目の途中で「サウナ市長」として厳しい批判を浴び、市長辞職。「ケジメをつけるべきだ」と吉村氏に批判されながら引退はせず、無所属で出馬してしまった。
記者会見で「反省」を口にした冨田氏だが、どうやらそれは表面上のこと。地元関係者から、冨田陣営が平然とルール無視を続けていた証拠写真を入手した。
選挙がはじまる2日前の8月20日午後のこと。阪急池田駅近くにある冨田氏の事務所の様子だ。本来なら、公職選挙法の規定で立候補届を提出するまで隠さなければならない選挙用の看板が、むき出しになっているのが分かる。
写真を提供してくれた市民は、こう話す。
「選挙前にこんなことでええんかと、写真を撮った。すると、ビル2階の事務所にいた冨田本人が、手を振った。もう選挙がはじまっているんかなと、自分が勘違いしたのかと思ってしまいました」
その後も看板はそのままで,「冨田ひろき」という名前や写真が見える状態が告示前日の21日まで続いていたという。こうなると確信犯だ。池田市議会から刑事告発されている冨田氏に、遵法精神のかけらもないことがよく分かる。
■無責任「維新」への批判も
ローカルパーティー「大阪維新の会」の前代表で国政政党「日本維新の会」の代表を務める松井一郎大阪市長は、「冨田氏のサウナ問題では池田市民に迷惑をかけた。池田市長選には関与しない」と明言していたが、結局大阪維新は節操なく滝沢智子氏を公認。「冨田氏を公認した責任は大阪維新の会にある」と頭を下げた滝沢氏が、実はかつて冨田氏の秘書だったというからややこしい。滝沢氏擁立劇の裏で動いていたのは、池田市を含む大阪9区を地盤とする足立康史衆院議員だという。
足立氏は22日の滝沢氏の出陣式で「選対委員長」として紹介され、写真のようにぴったりと候補者のそばについていた。
街宣車には、足立氏と吉村氏のツーショット写真が大きく貼られ、演説を聞いていた池田市民は呆れ顔で、「これ足立さんと吉村さんの選挙なん?」とつぶやいていた。
秋までには必ず実施される解散総選挙。足立氏が自身の選挙を意識しているのは明らかだ。もちろん「事前運動」は公職選挙法で禁じられているが、出陣式では司会の女性市議から何度もマイクを取り上げ、「コロナ対策、安全にできるのは滝沢さんです」。しかし、下の画像にある通り、足立氏は地方議員からマイクを受け取ると消毒もせず、自身がしゃべり、また次の地方議員に手渡していた。
「なにがコロナ対策や。維新は感染対策がめちゃくちゃ。街頭演説でクラスターが出たらしゃれにもならへん」(通りすがりの市民)
出陣式が終わると、なぜか維新のスタッフと池田市民とみられる男性が顔を突き合わせて口喧嘩。足立氏もすぐ近くにいるが、止める様子はない。マスクを着用しているとはいえ、コロナ禍では信じがたい光景だった。
滝沢氏の選挙事務所は、阪急池田駅前の不動産会社の店舗だった物件。当初は無所属でも出馬する意向だった滝沢氏の事務所では、19日午後に滝選挙用看板が準備されていた。ところが下の写真にあるように、大阪維新の会「公認」の文字が――。だが、吉村氏らが「公認」を発表したのは19日の19時前後だった。つまり、「公認」の文字を入れたのは発表前だったということになる。初めから公認が決まっていた証拠だ。
大阪では断トツの人気を誇る、大阪維新の会だけに、市長選の情勢も「滝沢有利」との前評判だ。だが、一方で「サウナ市長の製造者責任」「二枚舌選挙」と批判が高まっているのも確か。緊急事態宣言の中、密を生み出す可能性がある上、任期途中の選挙で無駄な公金支出となった責任は間違いなく維新にある。せめて、コロナ感染対策ぐらいは十分にやってほしいものだ。