福岡ソフトバンクホークスのファーム施設があることで知られる福岡県筑後市で起きた暗闘の裏で、北島一雄副市長と原口英喜前市議会議長が動いていたことが分かった。
副市長と前議長が加わっているグループは、疑惑を呼んだ土地取引に地元選出の県議が関与したと思わせる印刷物を何度も配布。特定の市議を印刷物の情報源に仕立てて責任を押し付けていた。濡れ衣を着せた二人の政治家を陥れる目的があったとみられ、たくらみに利用された男性が市議会に告発文を提出する騒ぎとなっている。
■市議全員に怪文書
醜い騒ぎのきっかけとなったのは、筑後市内の土地取引を巡る疑惑だ。2016年、八女郡広川町に本社を置く不動産業者が、Jr羽犬塚駅の近くにある約18,000㎡の日清製粉筑後工場跡地を入札で取得。その後、一部を筑後市が道路用地として買収し、残った全ての土地を農協の全国組織「全国農業協同組合連合会」(JA全農)の米穀部門を統括する「全農パールライス株式会社」(本社:東京)が購入する。
この過程で、約3.3億円の土地が3倍の9.5億円に膨らんだとされ、同市の市民団体が、代表名で疑惑を追及する印刷物を何度もばら撒く事態になった。一連の顛末については、今年6月の配信記事で詳しく報じている。
・3.3億が2年で9.5億|筑後市を揺るがす全農パールライス土地買収の核心(上)
・黒幕は・・・|筑後市を揺るがす全農パールライス土地買収の核心(下)
9.5億の根拠が薄弱な上に、当初配布された印刷物で土地疑惑の張本人に仕立て上げられた蔵内勇夫県議も無関係。さらには、土地の値段や県議の関与を漏らしたと印刷物で名指しされた貝田晴義市議会議員も、濡れ衣を着せられたことが判明する。
沈静化するものとみられていた“文書事件”だったが、7月になって筑後市の市議全員に下の文書が配られたことで大きく動く。
文書は、貝田市議が濡れ衣を着せられた経緯を地元住民に説明するため開いた集会を茶化す内容で、団体名の「筑後市のあしたを考える会」も、既存の団体名に似せたもの。それまでに出回っていた「全農パールライスに説明を求める会」や「全農パールライスの背任行為を追及する会」の印刷物にみられた代表者名も住所もなく、出所不明のいわゆる「怪文書」だった。ただし、記述のうち挨拶した人の顔ぶれなどは参加した者でなければ分からない内容で、何者かが集会の状況を、怪文書を作成した人物に漏らしたとみられていた。
■告発文で急展開
しかし、その証拠をつかむのは無理な話。実行者が名乗り出ないかぎり、真相は藪の中だ。ところが、8月になって事態が急展開する。「私が録音データをある人物に渡した」と、市内在住の男性が貝田市議本人に名乗り出たのだ。名乗り出たのは貝田市議の古くからの知人。よほど申し訳ないと思ったらしく、今度は筑後市議全員に、「高井良孝久」と名乗った形で「利用された」とする文書を配布した(下の文書参照)。
市議らに配布された文書によれば、男性が録音データを渡した相手は「全農パールライスに説明を求める会」や「全農パールライスの背任行為を追及する会」の代表を務めている下川良彰氏。同氏は、西田正治筑後市長の後援会長で、市議を落選して副市長の椅子におさまった北島一雄氏の後援会幹部も務めていたという市の有力者だ。その下川氏に「利用され」、「スパイ活動の片棒を担」いだことを「懺悔」するというのだから、ただ事ではない。全農パールライスを追及しているという“正義の士”らが、市議会議員の集会を録音し、怪文書をまく理由は何なのか――?
■告発文「別紙」の驚くべき内容
ここでハンターの記者が注目したのは、「詳細については別紙のとおりです」という記述だった。残念ながら、その「別紙」が確認できていない。「利用された」とする男性にも話を聴きたい。市議らに配布された文書の真偽も確かめねばならず、筑後市内での取材を続ける中、ようやく問題の「別紙」を入手する。下がその現物だ。
市長の後援会長に「利用された」とする告発にも驚いたが、「別紙」は、それをはるかにしのぐ衝撃をもたらす内容だった。
一連の印刷物をばら撒き、市民の間にあらぬ疑念を生じさせた団体の事務局長が現役の副市長である北島一雄氏、さらに、メンバーの中に藤丸敏衆議院議員の地元後援会会長を務める原口英喜前市議会議長まで含まれていたというのだ。記述が事実なら、現役の副市長や前議長が、たまたま浮上した土地疑惑を利用して地元の県議や市議を陥れようとしたことになる。
ハンターの記者は、上掲の文書を作成して市議会に配布した高井良孝久氏に接触、インタビューを申し入れて承諾を得る。残された記録を基にした高井良氏の話は、現市政が吹っ飛びかねない内容のものだった。
(以下、次稿)