子供たちの明るい声が響く保育園の中で、運営主体である社会福祉法人の理事長による壮絶なハラスメントが行われていた。
職員らの猛反発を受けた理事長は、唐突に「辞任」を宣言。東京に本社を置く仲介会社の誘いに乗って、理事会や評議員会に諮ることなく、関西の認可外保育園関係者に法人を譲り渡すという事実上の「法人売買」に向けて走り出している。
(参照記事⇒「突然の買収劇に揺れる福岡県久留米市の認可保育園|背景に理事長のハラスメント疑惑」)
ハラスメントで多くの人を傷つけておきながら、自身の責任を棚に上げ、保育園をカネにかえようとする身勝手な大人――。子供置き去りで揺れる保育の現場を取材した。
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ハラスメントの舞台となったのは、福岡県久留米市で「高良内保育園」を運営する社会福祉法人「高良内福祉会」。1978年(昭和53年)に設立された同法人に混乱をもたらしたのは、理事長の田畑典健氏である。
多くの関係者を苦しめてきたハラスメント問題が解決されなかった結果が、子供を置き去りにした事実上の「法人売買」だ。田畑理事長によるハラスメントの被害にあった人は多数に上っており、直近でも、気に入らない事務職員を排除しようとしたり、園内で暴言を繰り返すなどの行為が目立つようになっていた。
周囲が諌言しても止まらない理事長の暴走――。昨年来、所轄庁である久留米市に、関係者が駆け込むケースが急増していた。ハンターが久留米市に情報公開請求して入手した文書からも、そのことは明らかだ。
ハラスメントの詳しい内容については順次報じていく予定だが、「診断書」などの証拠が残されている主な事案を確認しただけでも、長年にわたって異常な状況が続いていたことが分かる(*下の表参照)。
職員らの抗議を受けた理事長は、昨年6月に自筆の「反省文」や、自身のハラスメント行為を反省した上で今後同様の行為をしないとする内容の「誓約書」まで書いていた。
「反省文」も「誓約書」も、ハラスメントが事実であることを理事長本人が認めた証拠。ハンターは、ハラスメントを受けて退職した関係者の「診断書」や「録音データ」も入手済みだ。
今月2日、一連のハラスメントや「法人売買」について話を聞こうと田畑氏本人に連絡をとったが、「そういうものは確定していない」「外部と話しすることではない」などとして取材を拒否した。
園を去ったある関係者は、匿名を条件に次のように話している。
「何人もの人が、理事長のセクハラ、パワハラで精神を病み、辞めていきました。でも、だれも止めることができなかったんです。歴代の園長さんが被害者だったんですから、保育士や事務職員の立場で、どうにかできる話ではなかったんだと思います。もちろん、保護者の方々に相談するわけにはいきません。理事会は理事長が選んだ人たちですから、『おかしい』と声をあげた人が、逆に非難されるありまさで、久留米市に相談するしかなかったそうです。しかし、久留米市もハラスメントを止めることはできませんでした。聞いた話では、いまの職員さんたちがやむなく労働組合を結成して、理事長に対抗したということでした。窮した理事長がとった方針が、縁もゆかりもない人たちに保育園を譲り渡すという信じられない背信行為だったということでしょう。
保育園は子供たちを守り、育むという尊い使命を担っています。そこで働く保育士や職員が、セクハラやパワハラで苦しめられていいはずがありません。園の名前が報道されたのはショックでしたが、多くの人に実態を知ってもらえるのは事実。これ以上被害者が出ることはなくなったのですから、ほっとしています。
問題の本質は、子育ての現場において繰り返されてきた酷いハラスメントや、その不適切な行為を指摘された社会福祉法人のトップが、勝手に保育園を身売りするようなマネを許していいのかという点にあリます。他のメディアにも、きちんと実態を報じてもらいたいと願っています」
(つづく)