北海道立看護学院パワハラ問題|紋別の未認定被害、再調査へ

本サイトで折に触れて報告している北海道立高等看護学院のパワーハラスメント問題で、8年前に道東・紋別市の学院で起きたパワハラ被害が新たに調査の対象となる可能性が浮上した。地元議会での答弁であきらかになったもので、道の担当課は「被害者本人から希望があれば適切に対応する」としている。

■江差看護学院の前副学院長が関与

6月7日の北海道議会保健福祉委員会で俎上に載ったのは、2014年に紋別高等看護学院で起きていたハラスメント事案。被害を訴える男性(30)は理不尽な理由で当時の教員らから退学を迫られ、同年1月に中退を余儀なくされていた。

道が昨年設置した第三者調査委員会は、一連のパワハラを主導していたとされる江差看護学院の前副学院長について、最多の加害事実を認定している。今回指摘された8年前の被害は、その前副学院長が紋別で教鞭を執っていた時期に発生した事案で、ほかならぬ前副学院長が大きく関与していたという。

被害男性は2012年5月ごろ、「無申告でアルバイトをした」という理由で停学1年の処分を受けた。翌13年に復学し、同年夏には首都圏の医療機関から採用の内定を得るに到ったが、この内定になぜか前副学院長らが機嫌を損ね、同11月の実習中「学校に相談せず北海道外に就職を決めたことの反省文」を書かされることになったという。教員らは男性が反省文を提出するたびに書き直しを命じ、その受け取りを拒否し続けた。

当時の実習先は、学院のある紋別市から50kmほど離れた遠軽町の医療機関。男性は毎晩100kmをバスで往復して反省文を提出し続ける理不尽を強いられた。実習中は本来、レポートに多くの時間を割かねばならない。睡眠時間を犠牲にして現場の実習とレポート作成に取り組みつつ、並行して反省文の書き直しを繰り返す日々。男性は2週間で力尽き、卒業に必要な単位を落とした。

留年が決まった男性に、前副学院長は悪びれもせず「編入か退学」を勧めたという。14年1月に設けられた三者面談では、男性の母親が同席する場で「あなたに看護師の素質はない」と放言、さらに「1年生の時から『理解のできない子』だと思っていた」とまで言い切った。当時のやり取りの音声記録を入手した道議会の平出陽子議員(民主、函館市)は、先の保健福祉委員会で「1年生時の評価を3年生になってから言うとはどういうことか」と呆れ、事案を深刻視して再調査の実施を促した。道はこれに、こう答弁することになる。
「今後ご本人から、事実関係の確認に必要な新たな情報を追加で提出いただいた上で、改めての調査のご希望がある場合には、道の『パワー・ハラスメントの防止等に関する指針』に基づきまして、適切に対応して参りたいと考えてございます」

■調査対象から除外していた第三者委

被害男性は当時のハラスメントが原因で看護職を断念、現在は首都圏で飲食業に就いている。昨年、道の第三者委が発足した報道に触れ「自分が受けた仕打ちもパワハラだった」と同委に被害を訴え出たが、同年11月になって申し出が退けられる結果に。男性のもとに届いた通知には、その理由として《調査に必要な情報が不足していたことから、第三者調査委員会において調査対象となりませんでした》と記されていた。(*下が通知書)

その後も道への損害賠償請求などを検討していたが、損賠に時効があると知って請求を断念。今回、再調査の可能性が浮上したことで、男性は改めて道に調査の要望を寄せる準備を進めているところだ。

第三者調査の終了から8カ月を経て、今なお相継ぐ被害告発。長期にわたるハラスメント被害の全容があかるみに出尽くすまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。同日の議会では、3年前に江差で起きた学生の死亡事についても議論があり、道が被害者遺族の代理人と話し合いを始めていることが明かされた。真下紀子議員(共産、旭川市)の質問を受けた担当課は、改めて第三者調査を実施する方向で検討を進めるとしている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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