北海道新聞の新人記者逮捕事件から4カ月が過ぎた10月下旬、同社労働組合の委員長が初めて同問題で取材に応じ、現場の取材の自由を守ることの意義などについて語った。事件への会社の対応については、引き続き真摯な説明を求めていくとしている。
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札幌市内で筆者の取材に応じたのは、道新労働組合の中央執行委員長・安藤健さん(48)。新人記者逮捕事件翌月の7月中旬に委員長の任に就き、まさに“最初の仕事”として逮捕問題に取り組むことになった。同委員長ら新執行部は着任早々に組合員アンケートを実施、社内説明などを求める現場の声を反映した要望書を会社に寄せ、9月上旬の全社説明会を実現させている。機関誌では8月下旬から「取材の自由とは」をテーマに全国紙記者などのインタビューを連載したほか、若手組合員の座談会なども企画した。
そうした取り組みを通じて訴えたいのは、「知る権利」と「取材の公益性」の意義。事件を機に現場が萎縮するようなことはあってはならず、そのためにはまず読者・市民の信頼を得なければならないと、安藤さんは言う。
「事件の第一報で、編集局が逮捕を『遺憾』としたのは残念でした。あの段階で『不当逮捕』とまでは言えなかったとしても、せめて逮捕行為に疑問を呈することはできたんじゃないか。一般の読者が『記者が法律違反をした』という印象を強く受けることになった可能性があり、会社として『知る権利』の意義について説明責任を果たせていなかったと思います」
事件後、SNSなどには「違法取材をした記者は逮捕されて当然」といった趣旨の匿名投稿が相継いだ。核心に迫ろうとする取材行為を安易に「違法」とみなす公的機関への疑問は、そこには見られない。「知る権利」が不当に侵されることは、結果として市民の不利益に繋がるにもかかわらず。
事件そのものは不幸なことだったが、これを奇貨とし、改めて報道の意義を確認する議論を喚起したい――。安藤さんら労組幹部には、そんな思いがあるようだ。
「組合員の間では、たとえば当初の実名報道などへの疑問が大きいのも事実です。私自身がデスクだったとしても、きっと匿名で報じたと思う。また当時の現場で何があったのか、真相をあきらかにしていくことも、もちろん大事です。ただ組合としては、最も大きな問題は『取材の自由』を守り抜くことではないかと考えています。報道機関の一員として、読者・市民に報道の公益性をきっちり伝えていく責任がある。それが結果として社員を守ることになり、ひいては読者の利益にもなるのではないかと」
本来であれば、会社が果たすべき説明責任。4カ月を経た今もそれが充分に叶っているとはいえない中、道新労組は引き続き折に触れて社に説明を求めていく考えだ。
「少なくとも3回、これから節目が訪れます。事件が検察に送致される時と、検察の処分が決まる時、そして社内で監督責任を負う人たちの処分を決める時。それぞれのタイミングで、社には真っ当な説明を求めていきたい」
同問題をめぐっては、新聞労連が9月に「検証チーム」の発足を決めたところ( http://shimbunroren.or.jp/doshin-taiho3/ )。チームの取り組みには道新労組も協力していくことになるという。
※ 安藤委員長インタビューの詳報は、11月15日発売の月刊誌『北方ジャーナル』に掲載予定。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |