在学生の自殺事案で賠償交渉の「決裂」が伝わった北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で(既報)、学校を管理する北海道が「交渉は継続している(決裂していない)」との認識をあきらかにした。4月上旬の議会で質問を受けた担当課は「引き続き道の対応が求められている」とその理由を述べ、代理人を通じた話し合いを今後も続けていく姿勢を見せた。遺族からの譲歩提案をことごとく拒絶してきた道が今後どういう形で交渉に臨むことになるのかは定かでなく、具体的な対応方針などは示されなかった。
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在学生自殺問題が採り上げられたのは、本年度最初の招集となる4月9日午後の北海道議会保健福祉委員会。前年度以前から江差看護学院のハラスメント問題を追及し続けている平出陽子議員(民主、函館市)が質問に立ち、同5日以降の報道で伝えられた遺族と道との賠償交渉決裂について尋ねた。問いを受けた担当課長は、次のような答弁で決裂を否定した。
「遺族側代理人から道代理人が受理いたしました4月4日付連絡文書(⇒)では、引き続き道の対応が求められておりますことから、今後、道代理人と相談し、対応することとしており、協議は継続しているものと認識しているところでございます」
つまるところ、相手方に対応を求められたから対応するという受け身の姿勢。道の側から歩み寄る提案などはこれまでにもなく、質問者の平出議員は「道は『継続する』というが、遺族側が諦めるのを待っているのではないか」と迫った。重ねて、トップの鈴木直道知事がたびたび繰り返してきた「誠意をもって対応する」という言葉の真意を改めて尋ねると、担当課長はこう答えを返した。
「遺族側のご意向などを伺いながら、丁寧かつ誠意をもって対応して参ります」
ほぼオウム返しと言ってよい。平出議員は「行政にとって『丁寧』『誠意』は基本のキ」と指摘した上で、今後の具体的な対応方針を説明するよう求めた。1日付で着任したばかりの古岡昇・保健福祉部長は、これにどう答えたか。
「道の代理人弁護士の見解を伺いますととともに、遺族側のご意向なども伺いながら、道側の考えを丁寧に説明するなどして示談の協議を進めて参ります」
際限のないオウム返し。似たような光景は、この日から数日溯る4月5日午後にも見られたばかりだった。定例記者会見で「決裂」について問われた鈴木知事は「具体の交渉内容についてはコメントを控える」とした上で、またしても“いつものフレーズ”を繰り返すこととなった。地元記者クラブ加盟3社からの問いに対してきっちり3回、用意した原稿を読むような口調でこう答えたのだ。
「引き続き、誠意をもって対応していきたい」――。
亡くなった学生の母親(47)はこれを伝え聴き「中身が何もない」と落胆、「知事は飽くまで我関せずで、担当課や弁護士に丸投げしているのがよくわかりました」と、改めて言葉の軽さを実感した様子だった。
議会追及に立った平出議員によれば、昨年度の江差高等看護学院の入学生は6人。定員40人の1割強という数字だが、本年度の新入学生数はこれよりもさらに2人減り、きっかり定員の10分の1となる4人に留まったという。平出氏はこれを「看護師志望者に『あそこは信用のおけない組織』という印象を与えてしまった結果」と受け止め、「失った信用を取り戻すためにも、道は今回の賠償問題に腹を括って対応すべき」と指摘している。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |