鹿児島県警の捜査資料が大量に流出した(既報)。原因を作ったのは、“ある事件”のもみ消しを図ったとみられる井上昌一県警刑事部長による不当な捜査指揮だ。
情報漏洩に関するこれまでの配信記事では明確に触れてこなかったが、“ある事件”とは、2021年に起きた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職。以下「元職員」)を被疑者とする強制性交事件のことである。被害を受けたのは、鹿児島県が新型コロナウイルスの感染者を収容するため設置した宿泊施設に派遣されていた女性スタッフだった。
県警が事件をもみ消そうとしたのは、元職員の父親が警察官――つまり「警察一家」――だったという理由からに相違あるまい。そこに便乗したのが県医師会。会長選挙を数か月後に控えていた池田琢哉会長とその周辺が、選挙への影響を最低限に抑えるため、強制性交という憎むべき犯罪を「合意の上での性交渉」で片付けようとしたのではないか。外形的な事実を丹念に拾っていけば、池田会長や大西浩之副会長(前・常任理事)が、「合意に基づく性行為」という一方的な見解を振りまくにあたって、県警との間で「事件性なし」との結論を作り上げていたという見立てさえ成り立つ。
これまで報じてきた内容を再検証しながら、警察によって歪められた強制性交事件と捜査情報流出の真相を明らかにする。
■人権無視の県医師会 — 送検前に「合意に基づく性行為」
下の画像は、県への情報開示請求で入手した「県医師会池田会長の来庁結果について」と題する内部文書である(*赤いアンダーラインはハンター編集部。黄色の文字は取材に基づいて推測した記載内容)。
2022年2月10日、新型コロナを所管する県くらし保健福祉部を訪れた医師会の池田会長は、「現状を説明する」として、以下のような説明を行っていたことが読み取れる。
池田氏の県庁訪問から22日後の2月22日、県医師会の郡市医師会長連絡協議会が開かれ、その中で大西浩之常任理事(現・副会長)が、次のような発言を行う。
それから約7か月後の2022年9月27日、県医師会は塩田康一知事に、男性職員が起こしたわいせつ事件に関する内部調査結果をまとめた報告書を提出。直後に記者会見を開き、冒頭で池田会長が“形ばかりの謝罪”を行って、男性職員を「情状酌量の上、停職3か月の懲戒処分」という処分にしたことを公表する。わいせつ職員を停職3か月という軽い処分で済ませた前提が、それまで医師会幹部が喧伝してきた「合意に基づく性行為だった」とする医師会の調査結果だった。
事件発覚直後から繰り返し発せられた池田会長らの一方的な「合意論」に沿った形で幕引きを図った形だったが、県警内部から流出した捜査資料=「告訴・告発事件処理簿一覧表」(*下の画像参照。赤い囲みはハンター編集部)から、この段階では捜査が尽くされておらず、送検さえされていなかったことが分かる。
処理簿によれば、記録に残る強制性交事件の発生は2021年9月。鹿児島中央署強行犯係に「告訴等相談」があった2022年1月7日は、被害女性が鹿児島中央署に告訴状を提出しに行き、事実上の門残払いとなった日だ。
鹿児島中央署が告訴状を受理したのは1月17日。報じてきた通り実は上掲の処理簿は2023年6月の送検後のもので、ハンターが最近になって入手したそれ以前の処理簿(*下の画像参照)を見れば、関係者を呼んで取調べを行うという実質的な捜査は、2022年の11月頃に開始されていたことが分かる。つまり、告訴状受理から10カ月ほど「放置」されていたということだ。
整理すると、鹿児島県医師会の池田会長と大西副会長は、「2021年2月」という捜査が始まってもいない時期に、「合意に基づく性行為だった」という言説を県や医師会内部で広げて被害女性を貶め、さらに同年9月27日、記者会見に臨んだ池田氏と同会の顧問弁護士である新倉哲朗氏(和田久法律事務所)が、世間に向けて「合意に基づく性行為」を断言したということになる。捜査終結前に裁判所の役割まで果たす医師会があるのは、全国探しても鹿児島だけだろう。
世界中で『女性の人権』を守ろうという動きが加速する現代社会において、人の命や人権を守るのが使命の医師会会長や弁護士が、性被害を訴えている女性を打ちのめすような傲慢な態度をとれたのは何故か?その疑問に対する答えは一つしかあるまい。「合意があった」と騒ぐ県医師会の歪んだ姿勢が、県警という“後ろ盾”に支えられたものだったから――だ。どういうことか、次の配信記事で詳しく述べたい。
(中願寺純則)
(つづく)