【汚れた五輪】拡大する汚職の範囲|浮上した森喜朗元首相の疑惑

9月6日、東京地検特捜部は東京オリンピック・パラリンピックの汚職事件に絡んで、大会組織委員会の元理事・高橋治之容疑者を再逮捕した。大手出版社で上場企業でもある「KADOKAWA」から6千900万円の賄賂を受けとった受託収賄の容疑だ。

特捜部は、KADOKAWAの芳原世幸元専務と元担当室長馬庭教二容疑者を贈賄容疑で、高橋容疑者の電通時代の後輩でコンサルタント会社「コモンズ2」の社長深見和政容疑者も共犯として逮捕している。捜査網は、どこまで広がるのか――?

■異例の3度目逮捕か?

KADOKAWAは、出版業界に東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー枠がないことから、高橋容疑者に新設を依頼。その対価として、賄賂にあたるとみられるカネををコモンズ2に支払ったとみられている。

「安倍晋三元首相の国葬が目前に迫る中で、東京地検特捜部はどこを狙っているのだ」と苛立つのは自民党の幹部。高橋容疑者はこれで2度目の逮捕となるが、特捜部は9月5日に業界4位の広告代理店「大広」(本社大阪市)に対しても「ガサ」を打っており、カネまみれ五輪の汚染地域が拡大する一方となっているからだ。確かに、事態は深刻である。

オリンピックの広告業務は電通が一手に受注していた。だが「販売協力代理店」として電通傘下に入れば、広告の受注ができる。大広は、コモンズ2に1,000万円以上の顧問料を支払っており、それが賄賂にあたるのではないかと特捜部は見ている。

この状況から、高橋容疑者がAOKI、KADOKAWAに続いて、大広への便宜供与についても立件される可能性が濃厚となっている。ある東京地検特捜部OBの弁護士は、こう指摘する。
「高橋容疑者がもう一度逮捕されれば、3度目ということになる。東京地検特捜部が、同じ容疑者を3回も逮捕するというのは極めて珍しいことだ。通常は再逮捕までで、残りの疑惑は追送検でという処理が大半。3度目があるなら、政界が視野に入っているとしか思えない」

では、特捜部が狙う政界の人間とは誰か――?報道関係者や永田町が固唾を呑んで見守っているのは、組織委員会の会長だった森喜朗元首相の動向である。

■注目集める森元首相への200万円

9月1日、産経新聞が放った『<独自>「森元会長に200万円」青木前会長供述』という見出しのスクープ記事で、永田町に激震が走った。記事は、「AOKIホールディングスの青木拡憲容疑者が東京地検特捜部の調べに対し、大会組織委員会の会長だった森喜朗元首相(85)に「現金200万円を手渡した」と供述していることが31日、関係者への取材で分かった。青木容疑者は、現金を渡したのは森氏が会長だった時期と説明しており、特捜部は現金を渡したとされる経緯や賄賂性の有無などについて、慎重に捜査しているもようだ」「関係者によると、青木容疑者は調べに対し、2回に分けて森氏に現金を直接手渡したと供述。趣旨については『がん治療をしていた森氏へのお見舞いだった』としている」という内容だった。青木容疑者は、高橋容疑者に森氏を紹介され見舞いに行ったのだという。

大手メディアの地検担当記者が、次のように解説する。
「これが外れた内容なら、特捜部からすぐに出入り禁止になりますよ。産経新聞の記事の後、どこも後追いを書いていますが、特捜部からストップはかかっていない。事実関係としては当たっているということの裏返しでしょう。200万円の提供だけではなく、森氏と青木容疑者が複数回会食していると報じられていますが、特捜部はこれについても沈黙しています。間違いではないということなんです」

森元首相への200万円提供が事実とすれば、特捜部はその趣旨を詰めるだけである。

一般的に「がん治療のお見舞い」に200万円というのは、いくら元首相であっても破格。青木容疑者は高橋容疑者に相談して200万円を持参した可能性があり、何らかの便宜を期待していたとみられても、おかしくない。森氏は組織委員会の会長であり、理事の高橋容疑者を遥かに上回る権限を有していたのは間違いない。青木容疑者が事実関係を認めたのに対して、高橋容疑者はAOKI、KADOKAWA、どちらの容疑についても否認を続けており、保釈される見込みはない。

■展開次第で政局になる可能性も

高橋容疑者と東京地検特捜部との間には、深い因縁がある。1995年、経営破綻に陥った東京協和信用組合、安全信用組合を巡る巨額背任事件で、元理事長らとともに逮捕されたのが高橋容疑者の弟、高橋治則氏(故人)。治則氏はバブル期に、「イ・アイ・イ・インターナショナル」を率いて不動産事業を展開し、「リゾート王」の異名をとった人物だ。二信組事件当時、特捜部に在籍したヤメ検弁護士が当時を振り返りながら、五輪疑惑の行方を見通す。
「特捜部の逮捕直後、治則氏は容疑を否認しました。この時特捜部は、二信組幹部と治則氏だけでなく、その先を見据えた捜査をしていたんです。ターゲットは山口敏夫元労働大臣。最終的に治則氏は特捜部の取調べに容疑を認め、山口氏についても関係を自供したことで、山口氏逮捕となりました。治則氏の兄である高橋治之容疑者の再逮捕や捜査も、治則氏のケースとそっくりで、特捜部は政治家の立件を目指しているようにみえる。

五輪疑惑の3つの事件で、一番むつかしいのがAOKI。高橋容疑者はオリンピック前からAOKIと関係があったので、『オリンピックと関係ない』と突き通されると特捜部も苦しいところがあった。ところが、KADOKAWAと大広については、高橋容疑者との関係がオリンピックの招致が決まり、高橋容疑者が理事になってからなので立証のハードルがそう高くない。これから特捜部は、政治家ルートを狙い担当検事を決めて取り組むはず。森氏ら政治家に着手するとなれば、高橋容疑者の3度目の逮捕は起訴後になるだろう」

安倍元首相の「国葬」に対する世論の反発は、大きくなる一方。安倍氏と関係が深かった旧統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)の問題でも、自民党は窮地に陥っている。そこへ、安倍派の事実上のドンである森氏の疑惑が追い打ちをかけそうな展開だ。

「安倍元首相が銃撃事件でこの世を去って、一気に負の遺産が噴出しているように思う。いま振り返れば、なぜ森さんが組織委員会の会長だったのかという疑問に突き当たる。森さんは、組織委員会会長を辞任する原因となった『女性蔑視発言』だけではなく、『神の国発言』などの失言、暴言で問題を繰り返してきた人物だ。安倍一強政治の中で派閥のドンを厚遇したということだろう。旧統一教会の問題でも、一強だったから強引に押し通せ、表面化しなかっただけ。それが崩れて、収拾がつかなくなっている。岸田政権が安倍一強政治の尻拭いに失敗すれば、大きな政局となりかねない」(自民党のベテラン議員)

 

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