鹿児島県警が、実の兄から理不尽な暴力を振るわれ、骨折や頭部打撲、頸椎捻挫などのけがを負った女性から被害届を受理するよう懇願されながら、6年間も放置していた(9日既報)。この間、被害女性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するなど後遺症に苦しみ、そのせいで会社も解雇されて大きく人生を狂わされた。
2019年6月。被害女性は現状を打破したいと鹿児島市議の友人に相談、共産党の平良行雄県議を紹介され3人で南署に出向いたことで“事件”はようやく動く。
■被害届は形だけ受理で「不起訴」
被害届不受理を問題視した県会議員の登場にあわてたのか、県警南署は一転、被害届に応じる構えをみせる。しかし、実際の捜査に不安を感じた女性は、法テラスで弁護士に相談。同年11に鹿児島県警南署に「告訴状」を提出する。
ようやく動いた警察は、2020年2月末頃に鹿児島地検に書類送検。地検は女性から事情を聞いたものの、初めから後ろ向きで、時間が経過していることや親族間の事件であることなどから、「立件できるかどうかは分からない」と言ったという。
案の定、4月に出た結果は不起訴。女性は検察審査会に不服を申し立てが、21年1月、審査会は不起訴相当を議決している。実の妹を暴行した兄を、罰することはかなわなかった。
■事件処理簿に記されていた『被害申告の意思なし』
一連の経過を確認して感じるのは、警察や検察の“やる気のなさ”。面倒な事件や話題性のない事件は、はなから相手にしたくないという不埒な思惑がチラつく。
今月5日、「日本マクドナルド」や教育サービス大手「ベネッセホールディングス」のトップを務めた男性が、妻に暴力を振るったとして逮捕されており、「親族間の行為」が事件化を妨げる要因でないことは明らかだ。夫婦あるいは兄弟の間の暴力が、事件化した例は、枚挙に暇がない。
要は「やる気」であり、正義を追及する気概だろう。だが、鹿児島県警は、暴行され傷ついた女性の訴えを無視しただけでなく、なぜか加害者に肩入れし、やるべき捜査を怠っていた。鹿児島地検も、県警と五十歩百歩の不作為組織である。
今回の鹿児島南署の対応について、元鹿児島県警幹部は「全治4週間のけがは大きい。速やかに事件処理すべきだった」と指摘。保留事件としたことについて「捜査を保留するということで、当然どうして保留するのか、理由などを書いて署長の決済を受けているはずだ」と語る。
ハンターの情報公開請求にはゼロ回答だった県警だが、同様の情報公開請求をしていた女性には「応急事件処理簿」など2枚が一部開示されている。そこに記されていた事件名は、「兄妹間の暴行事件」その下には『~被害申告の意思なし~』と記されていた。「被害申告の意思なし」は、警察側の勝手な決めつけ。初めから捜査するつもりがなかったということの証明でもある。(*下が「応急事件処理簿」。赤いアンダーラインと囲みはハンター編集部)
処理簿には署長らの決済印が押されているが、日付は不明だ。女性は「警察は兄妹のことだから事件にしたくなかったのか。作成書類は加害者側の言い分で作成していて驚くばかり。被害申告の意思なしには、はらわたが煮えくりかえる思いです」と語る。
警察が親身になって被害女性に寄り添っていれば、検察の判断が違っていた可能性もある。被害届を出させないようにした県警は、事件を6年間も保留していたのか女性に説明すべきだろう。事件発生から7年以上経過したが、女性の傷は癒えるどころか、えぐりかえされている。
ところで、鹿児島県警が6年間も放置した事件を捜査すると言い出した際、被害女性や同行した県議らとどのようなやり取りがあったのかを検証する過程で、ハンターの記者は当日のやり取りを録音したデータが残されていたことを知る。一部始終を確認してみると、対応した県警警察官の常識外れの“言い訳”と、事実をねじ曲げてでも「組織」を守ろうとする歪んだ警察の実態が浮き彫りとなる。
(つづく)