物価高もイラン戦争も他人事|「国旗損壊罪」法制化に前のめりの高市氏

圧倒的多数を以て衆議院を通過した2026年度予算案は、25年度内の成立ができず、暫定予算を組んだ末に7日午後の参議院本会議でようやく成立した。高市早苗内閣は当初、3月末の年度内成立を目指したが、「審議時間が足りていない」として野党が反発。参議院は、自民党と連立を組む日本維新の会を合わせても合計120議席と過半数に足りないため、高市首相の目論見は外れた。その高市氏、物価高に苦しむ国民をよそに、右派向けの法案提出にこだわり始めた。

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ある官邸関係者によれば、高市首相は周囲に「どうして年度内成立できないのか」「しっかりと調整して」と発言、かなりご機嫌斜めの状態だったという。

そこで自民党は、4月6日に予算委員会を開催して集中審議を実施。7日の成立にこぎつけた。

「調整の結果、日本保守党の2人と無所属の3人が賛成にまわることで過半数の124議席に届いた」――そう話すのは、自民党の中堅参議院議員。ほっとしているのかと思いきや、続けて次のように憤る。

「アメリカのイランへの軍事攻撃とホルムズ海峡の緊迫した状況によって先行きは不透明。原油などの資源調達と、その影響を受ける電気、ガス、交通などのインフラへの社会不安に加え物価高も加速している。早く予算を成立させることで、諸課題への対応を急がねばならないと思っていた。ところが、ここに来て優先順位の低い政策課題が出てきている。党内では、怒りを通り越して呆れる議員が少なくない」

優先順位の低い政策課題とは、高市首相がご執心だという「国旗損壊罪」。自民党が提出した法案の骨子は《日本国を侮辱する目的で国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する》――つまり、わが国の国旗、日の丸を傷つけたりする行為を罰則付きの法律で禁じるというもの。しかし、侮辱する目的か否かは当事者の内心にかかわること。判断する側の恣意的な法の運用によって、「冤罪」が生まれる可能性が否定できない。

刑法では「外国国章損壊罪」として外国国旗の損壊についての罰則規定がある。「日本の国旗については規定がないのはおかしい」というのが高市首相や保守系議員の主張だが、外国国章損壊罪が制定されたのは明治時代のこと。当時の社会情勢として、アメリカやヨーロッパなど列強の国々が日本に押し寄せていたことを見逃してはならない。外国の国々への尊厳を維持し、国内では統制をとることで、外交への悪影響や国際紛争を防御する時代背景があったということだ。

また、外国国章損壊罪は、仮に外国の国旗が損壊されても、当該国の訴えがあってはじめて捜査がなされる親告罪。過去の判例でも数件しかないといい、形骸化しているのが実情である。

前出の官邸関係者が次のように解説する。

「高市総理は、国内のデモで日の丸の旗が破られたり燃やされたりすることが『耐えられない』『法律で罰しよう』という強い思いを抱いている。当然、そこには総裁選で後押ししてくれた保守派議員からの強い要望がある。国民生活のことより国旗損壊罪の方が大事なのか、法務省の担当者から頻繁にレクを受けるほど力が入っている」

だが、高市氏がどんなに力もうと、わざわざ国旗損壊罪を法制化する必要はない。デモで日の丸の旗が傷つけられるなどすれば、その日の丸の所有者が器物損壊罪などで訴えれば済むからだ。さらに、日の丸の旗は「商品」として売られており、財産上の価値があるので民事裁判で損害賠償を求めることもできる。しょせんは、右派向けのご機嫌取りなのだ。

「高市総理の岩盤支持層は極端な右派の人たち。そこにウケのいい法律を制定させることで支持率維持を狙っている。今やるべきことは物価高対策であり、トランプが起こした違法なイラン戦争への対応なのだが、これは世界を巻き込んだ不安定要素であり、高市さんではどうにもならない。となると、何をやっても物価高対策への即効性や持続性がある施策は見当たらない。そこで、日の丸の旗を破るやつは許せないとコブシをあげることで国民の目をそらし、延命しようという魂胆でしょう。そんなことやっている場合じゃないんですがね」(前出の参院議員)

国旗損壊罪についての批判は根強く、日本弁護士連合会も声明を出した。

《損壊対象の国旗を官公署に掲げられたものに限定していないため、国旗を商業広告やスポーツ応援に利用する行為、あるいは政府に抗議する表現方法として国旗を用いる行為なども処罰の対象に含まれかねず、表現の自由を侵害するおそれがある》――憲法に規定される「表現の自由」にも抵触しかねないという指摘だ。

さらに、《過去のいまわしい戦争を想起させるとの意見、また近隣諸国民に対する外交上の配慮から、日の丸は国際協調を基本とする現行憲法にふさわしくないとする意見も少なくない。国旗・国歌法制定の際の国会質疑においても、こうした過去の経緯に配慮して、国旗・国歌の義務付けや尊重規定を設けることは適当でない旨の政府答弁がなされている》として法制化反対の意思を示している。

衆議院では圧倒的な議席を持つ高市首相。物価高対策をほったらかしにして、「数の力」で押し切ろうとするかもしれない。高い支持率が、高市氏の暴走を助ける結果にならないことを祈る。

 

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