鹿児島市内の公立校で起きた“いじめの重大事態”について審議していた「鹿児島市いじめ問題等調査委員会」(以下、第三者委員会)が作成した調査報告書が、当該事案の保護者から否定され、先月30日に予定されていた「答申」が中止された。
問題の報告書は、いじめの実態を矮小化することで市教委への責任追及をかわす狙いが誰の目にも明らかな酷い内容。ただでさえ揺らいでいた鹿児島市への信頼が、ここに至って地に落ちた格好だ。
信頼を失った原因の一つが、いじめ事件の矮小化や責任逃れをするために、市教委の役人や教員が手を染めてきた「隠蔽」。以下、その実例である。
■隠されていた「いじめの実態調査」
鹿児島市で起きたいじめについて取材を開始したのは昨年3月。市教委はその時点で、極めてたちの悪い「隠蔽」を行っていた。他の自治体では何の問題もなく開示される「いじめに関する報告書」の開示請求に対し、請求したハンターの記者が求めていない条件を勝手に付け足して「不存在」をでっち上げ、いじめの実態を隠そうとしたのだ。
いじめは教育現場の「事故」にあたるため、記者はどこの自治体の教育委員会に対しても「いじめ事案の事故報告」を請求する。この請求を受けた鹿児島市教委による「校長の公印が捺してある正式なものですよね」という確認の連絡が、実は巧妙な罠だった。間抜けな記者は親切・丁寧な対応だと思い込み「そうです。いじめの報告書、あるんですよね」と応じ、市教委の担当が「あります」と明言したためすっかり騙された。
数日後、市教委から郵送されてきたのは「公文書不開示決定通知書」。そこには、「校長が押印し、市に提出された当該事故報告書は、存在しないため」という不開示理由が記されていた。詐欺まがいの手口に怒りがこみ上げてきたが後の祭り。結局、再度開示請求を行い、公立の小中学校から提出された「いじめの実態調査」を入手する。
同時に、実際にいじめを受けて転校を余儀なくされた被害者やその家族が「個人情報開示請求」を行って入手した関連文書と、突き合わせる作業を開始。そこから、市教委が「いじめの実態調査」を隠蔽した理由が明らかになっていく。
■隠蔽の手口
「いじめの実態調査」はA3用紙の表裏に、定められた形式で記入が義務付けられているもの。学期末にデータを更新し、年度ごとにまとめられて保存される仕組みだ。下がその実物(記載内容と記事は無関係)で、次が記載するにあたっての注意事項や記載方法を示した文書である(*いずれも画像クリックで拡大)。確認しやすいように、(表3)から(表7)までの記入例を拡大しておく。
被害者側から「内容がひど過ぎる」として否定された第三者委員会の報告書は、令和2年に鹿児島市内の市立中学で起きた暴力的ないじめについて、関係者から聞き取り調査してまとめられたものだ。学校や市教委は、当該事案においても平気で虚偽の記載を行っていたことが分かっている。
赤い囲みで示したのが当該事案の記載。いじめというより激しい暴行というべき様態であったにもかかわらず、「g」=「いやなことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりする」には〇印がない。また、実際にはなかった「当該いじめについて、被害、加害双方の児童生徒同士の話し合いを実施」に、なぜか〇印がついている。
上掲のケースは序の口で、もっと悪質なのが、犯罪行為に近いとみられる虚偽記載だ。当該事案の被害者が受けていたのは、いじめというより激しい暴行。首を吊り上げた形で絞める、お姫様抱っこして3階の教室から落とそうとする、両手で頭を押させて扉に打ち付ける、高所恐怖症を知った上での肩車といった行為が日常的に繰り返され、同時に「死ね」、「殺すぞ」、「きもい」、「消えろ」、「臭い」といった暴言も続いていた。その結果、被害者は心身に重大な障害を受け県外の学校への転校を余儀なくされたが、報告書では下に示した通り「ア」=「いじめが解消しているもの」として処理されていた。
未解決のいじめを「終わったこと」にしたのは、責任の所在を曖昧にするためだ。目の前で継続していたいじめと、真剣に向き合おとしなかった当時の学校関係者と市教委幹部は、改めて処分されるべきだろう。
記録上でいじめの存在を隠した学校や市教委は、実態が暴かれることを恐れていたはず。その卑劣さが、次の隠蔽を呼ぶ。
黒塗り箇所がない上掲の報告書は、被害者側が「個人情報開示請求」によって入手したもの。一方、ハンターが先行して入手した同じ文書(下、参照)では、本来非開示にする必要のない部分を黒塗りされていた。見比べれば一目瞭然。ハンターに対して黒塗りにした箇所を開示しても、個人が特定されるわけではない。暴行の事実や区域外就学が露見することで「いじめ」の実態がバレると見込んだ市教委が、やってはいけない「隠蔽」に走ったということだ。
■「重大事態の申し立て」を黒塗りにして隠蔽
次に紹介するのは、平成30年に市内谷山にある小学校の6年生のクラスでいじめを受け、学校と市教委が解決に動かなかったことから、やむなく学区変更を願い出た児童の事案に関する報告内容の一部だ。市立伊敷中で令和元年に起きたいじめが、学校と市教委によって隠蔽されていたとするハンターの記事を読んだ保護者が、自身の子供のケースを確認するため市教委に個人情報開示請求を行って入手していた。「いじめの実態調査」の中の『学校の対応』の欄には、「本児童保護者から重大事態の申し立てがあり」とある。
市教委は、当然開示すべき「本児童保護者から重大事態の申し立てがあり」という記述内容を、ハンターの請求では黒塗りにして隠していた(下が開示資料の該当部分)。いじめの重大事態が発生していたことを、組織ぐるみで隠蔽した証拠である。
数々のいじめが隠蔽されてきた結果、昨年から今年にかけて、長年0件だった「重大事態」が11件に急増。市教委と第三者委員会の機能がマヒする状況になっている。いじめを助長したのは、間違いなく鹿児島の教育現場だ。
一体誰のための「いじめ防止対策推進法」なのか――。ここで立ち止まって考えるべきだが、市教委青少年課の課長としていじめの隠蔽に関わったとみられる猿渡功氏を公立小学校の校長に異動させるなど、鹿児島の教育界には関係者に「反省」を促す気配さえない。