「蛮人」投稿の議員、発言撤回せず|「冷静に言葉を選び書き込んだ」

現職の北海道議会議員が首相演説ヤジ排除事件の国賠一審原告らをツイッターで「蛮人」などと誹謗した問題で(既報)、当該議員が取材に応じ、一連の投稿を撤回する考えがないことをあきらかにした。同議員は「彼ら(一審原告)の存在を否定しているわけではなく、違う考えを持つこと自体は尊重している」としつつ、「蛮人」という言い回しについては「きちんと意味を調べ、冷静に言葉を選んで書き込んだ。不適切とは思わない」としている。

◇   ◇   ◇

ヤジ訴訟の一審判決を批判する書き込みをしたのは、道議会の道見泰憲議員(自民、札幌市北区)。7月8日に発生した安倍晋三元首相銃撃事件の発生直後から複数回にわたって発信された投稿は、本サイトの報道を受けて地元紙や民放各局など報道大手も採り上げることになり、とくに一審原告を「蛮人」と表現したツイートが批判的な文脈で報じられている。

これについて道見議員は「言葉を切り取って批判するのはどうかと思う」と語り、投稿の真意を次のように説明した。

「銃撃事件のショックで衝動的に書いたわけではなく、きちんと言葉の意味を調べ、冷静に書き込んだものです。3年前の演説の場には私もいたし、のちに動画でも確認しましたが、『やめろ』などと執拗に叫び続ける行為はどう見ても蛮行、つまり野蛮な行為だった。そういう蛮行に及んだ人を『蛮人』と呼ぶことを、不適切とは思いません。もちろん彼らが安倍さんと反対の意見を持つのは自由で、そういう意見を持つ人を社会から“排除”すべきとは決して思わない。いろいろな意見があるのは当然のことで、安倍さん自身、自分と違う考えにも耳を傾ける人でした。ただ、演説の場でああいう形でヤジを飛ばすのは、私に言わせれば言論ではなく、表現でもない。野蛮な行為です」

とはいえ、当時のヤジを個人的に「蛮行」と見做すことと、それを文字にして外に発信する行為との間には、天地の開きがある。まして地方議員という公人が特定の個人に対して「蛮人」という差別的な言い回しを使うのは、およそ適切とは言えないのではないか。これを問うと、道見議員は「もちろん政治家としての発言だった」とした上で「言葉には責任を持つ。たとえ叩かれることになったとしても意見を曲げるつもりはない」との認識を示した。当然ながら、書き込みの訂正や撤回、関係者らへの謝罪などは考えていないという。

一連のツイートは、先述の通り7月8日の安倍氏銃撃事件を受けて書き込まれた。札幌地裁の廣瀬孝裁判長(当時)を名指しして「これ程の国家の損失を招いたのだから、君の職責の過失を憂う」と呼びかけていることからも、国賠一審判決が銃撃事件に大きく影響を与えたという主張だ。これを確認する問いを向けると、道見議員は、「事件の引き金になったとまでは言えなくとも、遠因になったとは思います。実際、あの判決の後に参加した演説会などでは、3年前のようなことが起きないよう警備担当者が過敏になっていると感じました。警備が萎縮していたのは間違いないでしょう」

だが、過去の本サイト記事でも指摘した通り、札幌地裁判決はそもそも要人警護の必要性を否定していない。判決で違法と認められたのは飽くまで言論・表現を排除した警察対応のみで、たとえば街宣車に走り寄る一審原告を警察官が制止した行為は適法とされているのだ。もしも道見議員の言う「過敏」「萎縮」が事実だとして、それはまさに裁判で違法とされた不適切な排除行為を警察が控えていただけなのではないか。

とはいえ道見議員は、そもそも当時の排除行為を違法とは見做していないのだ。これについての筆者と同議員との問答を、下に引いておく。

――安倍氏に批判的な人の中からも、あのヤジはマナー違反と指摘する声は上がっている。ただ、そうであっても「警察の介入は問題」ということです。
道見:何度も執拗に叫び続け、止められてもやめようとしない人たちですよ。そこに警察力があるんだから、警察に対応して貰うのは当然だと思います。

――たとえ「野蛮な言論」であっても、言論には飽くまで言論で対抗すべきでは?
道見:あれはもはや『言論』とは言えません。

――まさにそういうことを、与党支持者なり関係者がその場で言えばいい。そこで議論が起きてもよく、仮に何らかのトラブルに発展した場合、その時点で初めて警察が出てくるべきでは。
道見:あの場は議論を戦わせる場ではないと思います。それに、ああいう状況で彼らに議論を挑める人はなかなかいませんよ。今の世の中、マナー違反を注意しただけで何をされるかわからないですから。そこに警察がいるんだったら、やはり警察力に頼るべきです。

やり取りの最中、道見議員は再三にわたって「彼らの主義主張を否定するわけではない」と強調した。これを受けた筆者が「では、仮に彼らがあなたに対話なり討論を申し入れたとしたら、それに応じるか」と尋ねると、同議員は数秒間考えを巡らせた後「まずは判決確定を見守ってから」と答えた。

本サイトなどが問題としている「蛮人」という言葉遣いについては「一句のみを切り取らず全体をよく読んで判断して欲しい」と訴えたが、道見議員自身が批判の対象としている札幌地裁の判決文については「全文は読んでいない」と明かした。

また銃撃事件当日の投稿に「覚悟して待ちなさい」との書き込みがあることについて「これはなんらかの脅迫なり攻撃予告か」と尋ねると、議員は「私がそういうことをする人間に見えるか」と言下に否定。投稿の真意を「これからも日本のための政治を行なっていくという考えの表明」と説明した。

道見泰憲議員は7月22日午後、札幌市北区にある同議員の事務所で1時間あまりにわたって質問に答えた。事務所内での録音・撮影行為は認められず、これにより記事中に引用するコメントの言い回しが精確さを欠くことになる可能性があったが、道見議員は「そちらの責任で書く・書かないを決めて貰いたい」とした。筆者はこの前日から同事務所へ取材対応を打診、担当者からは「本人と連絡がつかない」と言われていたが、抜き打ちで事務所を訪ねたところ議員本人が所内に筆者を招じ入れ、取材に対応した。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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