長崎県佐世保市の北西に位置する離島・宇久島に、総事業費2,000億円をかけ計画されている日本最大級の太陽光発電「宇久島メガソーラー」事業。過疎化が進む島の未来を左右する一大事業だが、国内外の大手企業で構成される事業者が発電所建設を開始すると発表したところで、一度は事業支援を表明した島民らが方針転換。事実上の事業反対を唱えて、先行きに暗雲が漂う状況となっている。
■東京ドーム134個分の面積に太陽光パネル165万枚
この計画は、宇久島の総面積24.9㎢の約4分の1(東京ドーム約134個分)に太陽光パネル165万枚を設置し、総出力480メガワットという超大型メガソーラーの建設を目指すプロジェクト。事業の構成企業である京セラ、九電工、東京センチュリー、古河電気工業、坪井工業などは今年4月、同島における太陽光発電所の建設に向け、「宇久島みらいエネルギーホールディングス合同会社」に約500億円を出資する契約を締結したと発表していた。
事業者は、発電所建設の準備のため、まず作業員が生活する宿舎の整備を行うとして建設候補地を市所有の運動公園に決定。市から公園を目的外使用する許可を得、島民に向けては今年7月、お盆明けの8月17日から仮設宿舎の建設を始めることを回覧していた。
あとは、仮説宿舎の着工を待つのみ。いよいよ事業開始という段階になって、計画全体に影響を与えかねない事態が発生する。8月初旬、島の区長らが過去に提出した市への「事業支援要望書」の撤回を申し入たのである。
■19名の元区長が早期着工の要望を撤回
宇久島メガソーラーの計画が進んでいた2018年2月、島内に29ある「区」の区長のうち23区長が事業支援を表明し、署名・捺印した上で佐世保市に発電所の早期着工への協力を求める要望書(下、参照。黒塗りは佐世保市)を提出する。
(*島の区長は1年交代)。
ところが、今年7月までに開かれた事業者らによる説明会を機に、多くの元区長が態度を変化させ、8月1日付で当時署名した23名のうち19名の元区長が市に提出していた要望書の撤回を申し入れるという騒ぎに発展する。
下が、今回明らかとなった撤回申入書(関係者提供)。これによると、撤回を申し入れた当時の区長らは「(要望は)区の総会で承認を得たものではなく、区長個人の意思によるもの。しかも、要望書が、仮宿舎への(市有地)貸与に利用されるとは知らなかった。事業者らの都合で作成されており、納得できない」とその理由を述べている。
当時区長を務めていた男性によると、「撤回を申し入れたのは間違いない。当時の要望書を理由に、島の運動公園への仮設宿舎建設が許可されたと聞いた。当時は島の活性化のために協力するとしたが、公共施設の目的外使用を容認したわけではない」として、要望撤回を認めている。なお、当時の区長数名は、署名の際に区長の公印ではなく個人の印鑑を捺していたことが分かっている。
要望書撤回で事業に大きな影響が出るのではないか――?その点について佐世保市に問い合わせたところ、「撤回された要望書は、運動公園の目的外使用許可にあたって検討した要素のひとつではあるが、必須の要件ではない」とした上で、今後改めて庁内で検討を行い、使用許可について判断する予定だと話している。
ちなみに、新型コロナウイルスの影響もあり、仮宿舎建設の着工は当面見送られるという。
宇久島のメガソーラー事業を巡っては、11組合で構成される「県北漁業協同組合長会」(会長:片岡一雄佐世保市漁協組合長)が今年5月、「漁業環境が悪化する」などとして計画への反対を表明している。
(東城洋平)