2021年秋、新型コロナウイルスの療養施設内で、女性スタッフに対するわいせつ行為が行われた。わいせつ行為を行ったのは療養施設に派遣されていた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月末で退職。以下、本稿では「男性職員」)。女性スタッフは「合意はなかった」として22年1月、男性職員を強制性交で告訴する。
その後の顛末は本サイトで度々報じてきた通り(既報⇒サイト内検索で鹿児島県医師会)。県医師会は、事件が表面化する前から県などに対し強制性交を否定する見解を示し、発覚後も「合意があった」とする一方的な見立てを広めた。その過程で、県医師会の幹部が、組織内部の会議で事実関係とはまったく違う内容を報告して事件の実相を歪め、被害者側を誹謗中傷する形となっていた。改めて、その証拠を開示する。
■県医師会常任理事(当時)の説明
女性が告訴状を提出した約1か月後の2022年2月22日、鹿児島県医師会の郡市医師会長連絡協議会が開かれ、当時常任理事だった大西浩之氏(現副会長)が事件経過を説明。その中で、次のように発言する。
12月1日、X理事長から当職員Aに突然の呼出があり、土下座をさせられ、まあ、その時の状況は記載にあるのですが、ちょっと、口にしづらい状況ですので、割愛しますけれども。結果として謝罪と慰謝料を求められております。
・・・中略・・・
更に、慰謝料はB看護師のみならず、X理事長サイドにも一生をかけて償う額を振り込むよう要求されております。しかも、そのメールの文面には金融機関から借りてでも一括でB看護師とX理事長サイドの両サイドに12月25日までに振り込むよう指示されています。これは私も確認しています。12月1日土下座をさせられた、まあ、そういう状況から混乱したA職員は事実と違うと思いながらも300万程度で収まるのなら何とかなると考え、そういうふうにA職員は考えたわけです。その後のやり取りで桁が一桁違ってきたため断念。体調を崩し、10日程度の休みを取っています。
さらに同年12月3日、県医師会が開いた代議員と役員の合同会議で、大西常任理事が次のような報告を行う。
12月1日にX理事長から突然、職員Aへ呼び出しがあって、土下座をさせられ、謝罪をさせられ、理事長と女性職員Bの両方にお金を支払うようにと、慰謝料を求められたと。慰謝料の回答期限は12月5日まで。で、また慰謝料の支払い期限は12月25日と指示されております。職員Aは300万円ぐらいずつなら、払えばこの状況から逃れられると考えて、X理事長とのやり取りをしたんですけれども、要求されている金額が桁違いと分かったため、支払いは無理と思い、12月5日以降X理事長との連絡を絶った。彼はそれ以降何をしていたかというと、精神科へ入院、そして両親と妻に告白、そして、えーまあ、その後少し元気になりまして、弁護士を紹介して頂いて戦うという、そういった気持ちになっております。
■事実誤認の証明
結論から述べるが、大西副会長の発言のうち、赤い太字で示した内容は事実と大きく異なる。男性職員の言い分をノーチェックでそのまま伝えたにしても、それを公表することで事件の実相を歪め、被害者側に二重の苦しみを与えた責任は重いと言わざるを得ない。
まず、「土下座させられ」という大西発言についてだが、決して一方的なものではなかった。X理事長は、「『土下座しなさい』と言ったのは事実ですが、それは彼(男性職員が)強制性交を認めた後です。しかも、こちらから慰謝料の額を提示したことなどただの一度もありません」と断言する。確かに、男性職員は強制性交を認め、12月5日に下の謝罪文を作成、その画像をX理事長に送信していた。
X理事長は、さらに「彼(男性職員)は、『強姦罪です』と自分で認め、自分から慰謝料の額を提示してきたのですから」と反論し、次の画像を示した(*画像の一部はハンター編集部が加工しています)
男性職員が謝罪文の画像とともに示してきたのは、女性への慰謝料を「1,000万円」とする内容の文書。X理事長宛ての同じ内容の画像も送られてきていた。大西副会長が言った「300万円」は、二人に対する初回支払額「150万円」の合計であって、総額ではない。
あとの支払いは4か月後からで、しかも26年間312回の分割、1回の支払額は年2回のボーナス月を除いて2万5千円に過ぎない。上乗せするというボーナス月にしても支払額は4万円。強制性交事件を引き起こしておいて、こんな自分勝手な和解案が通用するとは思えない。X理事長によれば、慰謝料を26年かけて分割で支払うという非常識な申し出だったため、以下の通り理由を明示した上で、この提示を断ったという。
「彼(男性職員)の犯罪行為によって苦しんでいる女性に対し、分割で、しかも26年かけて支払うというのですから呆れてしまいました。彼が退職や転職をする可能性や支払いが滞るリスクを、被害者に共有しろということになりますから、こんな条件を認める人はいないでしょう」(X理事長)
この時の判断が間違いでなかったことは、「60歳の定年」まで支払うと記した男性職員が、コロナ療養施設でのわいせつ行為で県医師会から懲戒処分を受けたあとの2022年10月末に、同会を退職したことでも証明されている。
■問われる県医師会の責任
ここまで述べてきたように、大西副会長による「A職員は事実と違うと思いながらも300万程度で収まるのなら何とかなると考え、そういうふうにA職員は考えたわけです。その後のやり取りで桁が一桁違ってきたため断念」も、「職員Aは300万円ぐらいずつなら、払えば、この状況から逃れられると考えて、X理事長とのやり取りをしたんですけれども、要求されている金額が桁違いと分かったため、支払いは無理と思い」も事実誤認。それが一方的、意図的に流布された形だ。
県医師会は、「合意があった」で事件の真相を歪めて性被害を訴えている女性の声を踏み潰し、さらに“過大な要求をした”と印象付け、X理事長の人格を攻撃した格好だ。事件の再検証が必要となるのは言うまでもないが、間違った言説を流し続けた大西氏ら医師会幹部の責任も問われるべきではないのだろうか。