札幌市の女性が北海道警察による不当捜査の被害を訴えている裁判で、原告側が取り調べ映像の開示を求めて裁判所に「文書提出命令」を申し立てたことがわかった。被告の道警は裁判で、当時の取り調べに違法性はなかったなどとして請求棄却を求めている。
■「違法捜査」で国賠訴訟
昨年12月に道警を相手どる国家賠償請求訴訟を起こしたのは、同年6月に起きた事件で道警の捜査を受けた女性(のち不起訴)と、事件を担当した河西宏樹弁護士(札幌弁護士会)。本サイト既報の通り、原告の女性は処分保留で釈放されるまでに警察の執拗な取り調べを受け続け、黙秘権行使の意向に反して供述を強要されたり、私物の『被疑者ノート』などを無断で持ち去られるなどの被害に遭ったという。
弁護人らは道警に対し計4度にわたって抗議・苦情を寄せ、また札幌弁護士会も不当捜査を控えるよう申し入れたが、道警は黙秘権侵害などの事実を否定、私物の検閲についても「刑事訴訟法に基づく適切な職務行為だった」としていた。
昨年9月に不起訴処分となった女性は当初、不当捜査から受けた不利益への賠償を求める考えがなかったが、「訴えを起こすことが違法捜査の抑止に繋がる」と考えた河西弁護士らが国賠提訴を決意、女性の了承を得た上で札幌地方裁判所に訴訟を提起するに到った。
■注目される「取り調べ映像」
原告側は本年2月の第1回口頭弁論後、当時の取り調べを記録した映像の証拠提出を求める考えを明かしていた。不起訴事件では原則として刑事記録の開示が認められておらず、原告側が提出できる証拠は限られている。取り調べ映像が開示されれば、当時の捜査の適正性を客観的に検証できる可能性があった。
ところが被告の道警側は、5月17日に開かれた2回目の弁論で「映像はすべて検察に送っており、こちらではいかんともしがたい」と、証拠提出を事実上拒否。これを受けた原告側は、裁判所が検察に映像提出を命じるよう求める「文書提出命令申し立て」の意向を示し、弁論3日後の同20日に申し立てを行なった。被告の道警からは「必要性を認めない」などの意見が出ることが予想されるが、提出命令の主体は飽くまで裁判所。札幌地裁の谷口哲也裁判長が開示の必要性を認めれば、検察は映像を提出せざるを得なくなる。
原告代理人の吉田康紀弁護士(札幌)は「文書提出命令で取り調べの映像が開示されたケースは、おそらく過去にないのでは」と話し、開示の必要性について次のように話す。
「当時の捜査が適正だったかどうかということは、捜査員の語気とか態度などを映像で観ないことには正確に判断できない。開示されたところで不利益を蒙る人は誰もいないし、原告自身が開示を求めているのでプライバシーの問題もありません。取り調べの適法性を判断する上で最良の証拠が存在するわけですから、それが提出されるのは当然です」
国賠訴訟の次回弁論は6月21日だが、裁判所の判断が期日までに示されるかどうかは未知数。吉田弁護士らは「違法な取り調べを抑止する見地からも、事後的に取り調べ状況を検証して裁判で争えるようにすべき」と話しており、まさに映像の開示が捜査の適正化に繋がることを訴えている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |